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EP17 女将アイリスのアーツと初めてのダンジョン *


<<転移>>

______第11日目 推定 8月11日  正午前 "寄って停"


  ガラガラガラ

 「アイリスさん帰りましたぁ~」 

  へ?! これはっ!


 元気のいいランが、鼻を擽る厨房から漂う臭いを早くも感知していた。


 「あらお帰り~ユウさんたち」フ

「おかえり まて~」 ニコっ


 女将アイリスさんと娘アイシャの二人が、俺たちがまるで早く戻って来るのを知っていたかのように、明るく出迎えてくれた。


「あのアイリスさん、俺たち事情があってさ、その今日はもう何も予定がなくなったんだ」

  ぐ ぐぅぅ~


 「クスっ おやおや上得意のお客様のお腹が、オーダーしてますね」

  ラン!

 今のは腹を空かせたランだ。


俺は下品なランの腹を睨みつけた。悪いのはランの腹なのだ。

「アイリスさん、悪いけど昼飯ってもう食べれるかな?」


 冒険者は普通、ダンジョン内で携帯した飯を食べている。事情のある者は、大抵ギルドの酒場で飲んだり食べたりしているのだが、俺たちはもうあんなギルドへは戻りたくないのだ。


「はいはい、そんなお客様は居ますよ。ちゃんと用意はしてますから」


______ランチメニュー


 ドンブリライス 並

 大根の味噌汁に御新香

 コロッケ2個と野菜サラダ


「御免ね、お昼は手の込んだメニューは出せなくて、殆どあり合わせなのよ。それにお昼は、主人が居ないから」


 異世界で予想外の日本食が食えるのだ。毎日バナナ定食だった事を思えば、俺たちにはここは天国食堂である。


「大根の味噌汁とコロッケだなんて、日本じゃないの? ここ」

 ぐ ぐぅぅ~


 確かにランの腹も同感だと鳴っているとおり、ロケーションはハワイ、食事は和風とくれば、バカンス旅行のついでに、遊びでモンスター退治をしているようなものだ。

「ハワイのUSJ 見たい」

 ラン!


 ランは無邪気におどけいているが、アイリスは見抜いていた。


「私には分かっているのよ。あなたたちランクが低すぎて、初心者ダンジョンにも挑戦出来なかったんでしょ?」


 げぇ

『ガルガノスさんは、ダンジョンの話なんて......』


「図星です。アイリスさん、何でそこ迄分っちゃうんですか?」

 俺の驚きに対して、アイリスさんの目つきが一瞬、鋭くなった。


 「私はね、元冒険者。一目見れば大体の力量は分かるのよ。特にルーキーさんはね」


 「アイリスさんから見ても、やっぱり俺たちは弱いのか」


 アイリスさんにまで見抜かれていては、俺たちは相当最低な冒険者なのだろう。冒険者と言うより、一般的な大人レベル以下かも知れないが、俺たちにはスキルがある。それでも駄目なのだろうか。


 「さぁさ、取り合えず昼食を食べて、元気を出しなさいな」

アイリスさんが運んで来た昼飯を食べると皆元気が出る。余りの美味さに箸が止まらないのだ。

 

 はふ はふ

 「やはり 私たちは日本人ね、日本人ならやはりコメよ」

 レイもランも納得の昼食に、ダイエットなど引っ込んでいろとばかりに、並ライスをたいらげた。

 俺はドンブリの大だ。


「ふ~ん、日本人ねぇ......なるほど」


 俺たちのテーブルの傍まで来たアイリスさんが、そんな事を言いながら俺たちを見つめた。


「装備がナイフと流木の槍と弓? ランさんは素手。防具は殆ど普段着ね。これでゴブリンと闘ったなんて、ある意味勇気がいるわ」

いい意味ではなく感心されてしまった。


「あ、これ証拠のゴブリンの魔石です」

俺はゴソゴソと取り出した、チンピラゴブリンの魔石を見せた。


 「そうね、魔石には間違いないけど」


「これは接近してナイフで一撃を食らわせ、レイのファイアーボールで仕留めました」


 確かにゴブリン程度なら、この戦法は基本の連携プレイではある。

 しかし慣れない前衛と後衛、どちらかがゴブリンの一撃を食らっていたらと思うと、今更背筋が寒くなる思いだ。


 「でも今は、ヒーラーのランが仲間になりました。これならゴブリンなら楽に倒せると思うんですけど、そけでも駄目ですか?」


 俺の言葉に、アイリスさんは遠い目をして続けた。

「でもねぇ、あんたたちの防具が駄目過ぎるのよ。プロテクターさえ無いじゃない」


 ガルガノスに言われた事を、アイリスさんにまで言われると相当へこむ。ただ、ジョセフィーヌから貰った強化スペシャル・コスチュームの件は、今は黙っておく事にした。こっちの世界にバニコスがあるのかどうかは知らないが、本音は超恥ずかしいからだ。


 「それでアイリスさん、今の俺たちでその初心者ダンジョンに挑むのは、まだ早いと思いますか?」


「そう、町の近くにある" 誘いのケイブ " の1階層なら、あなたたちの軽装でもなんとか。でもゴブリンは1階でも3体は出るのよ」


 3体のチンピラゴブリンとの戦闘経験はある。ランを加えての戦闘はまだ無いがランはヒーラーだ。俺とレイだけの時よりも、かなり有利な筈だ。



「今はヒーラーのランが居ます。1階層でゴブリン3匹なら、俺たち3人で倒せると思いますけど」


 折角、ジョセフィーヌから貰った強化スペシャル・コスチュームがあるのだから、俺は、初心者ダンジョンで試すには絶好だと思ったのだ。


 「ところで、あななたちのHP MPはいくつ?」


 ユウ  ナイフ戦士 LV3

HP26

MP10


 レイ 魔法使い LV4

HP26

MP32


 ラン ヒーラー LV1

HP16

MP14


「ゴブリンのこん棒の一撃で、あなたたちの軽装ではHP20は持っていかれる......ランさんは即死。それにランさんがヒールを掛けている間に、他のゴブリンの追い打ち......まだ戦闘経験が足りてないしね」


++++++挿絵(By みてみん) "寄って停" 女将アイリス


 アイリスさんが頬に手を当てて、何か迷っているようだ。

「さっきも言ったけど、あなたたちに足りないものは防具。それを補うのがヒール魔法なの」


 なーる。

 「確かに、アイリスさんの言う通りだ」

「ちょっとリーダー、何がなーるよ、真面目に考えてよね」

 なーる。


「ランさん、今はあなたのヒール魔法が大事なの。あなた詠唱にどれだけかかるの?」


 問われたランは、攻撃支援魔法 Ultra Soul LV1の使い方と意味は分からないが、聖魔法 イタイーノトンデケーノ LV1の詠唱は分かる。 


 え~とですね


「我 汝にもの申す ビヨンセ デブデ ヤセナ アカン 開けるな 便所の扉 ヒょェー」

 です。


 これがランの聖魔法 イタイーノトンデケーノLV1である。打ち身、捻挫にチャロンパスよりは効果があると思われる。


 「ビ、ビヨンセ......聞かない詠唱だわ。それにLV 1にしても詠唱が長すぎるのよ。こういう場合は、"詠唱バンク" にあらかじめ登録しておくの。これは私だけの秘密のスペシャルアーツなのよ」


 「なんだって?! アーツ?!」

 女将アイリスの言葉は、俺にとって爆弾的な衝撃だった。

「そんな事が 可能......なのか!」


 "詠唱バング"とは、詠唱完結した魔法をトリガーを引く前の段階で、詠唱済魔法として溜めておくアーツだ。レイならファイアーボール3発、LV1のランでは1発程度である。


「教えて下さい、その詠唱バンクの技を、アーツを!」

俺は元冒険者であり、今は女将アイリスさんを尊敬の眼差しで、うっとりと熱い眼差しで見つめてしまった。


「あは~んユウちゃん駄目よ、人妻の私をそんな情熱的な瞳で見つめちゃ。駄目なの。もう私にはガルガノスという夫が......でも年下の 女性も......いいかも」ぽっ


  はっ?

「俺は女ですよ、見れば分かるでしょ。それに俺には、そんなつもりは全く120% これっぼっちも微塵もありませんから」

 俺の言葉にアイリスさんの機嫌が急降下。瞳が灰色の奥深くに沈んでいる。


『俺の周りの女性は、変な癖を持った人ばかりのような気がする。ジョセフィーヌなんか、狸ばばぁだしな』


「ユウさん、こ、これでも私はね、冒険者たちのスーパーアイドルだったの。当時は誰もが私に夢中になってたのよ。私、アドバイスするの止めようかしら......チラ」


 ラン『馬鹿リーダー、ここは褒めちぎるのよ、嘘でもいいからさ』


 レイは不服そうだが、レイもランもこの技が使えるようになれば、コンビネーションが大幅に上がるのだ。アイリスさんは確かに妖艶な美魔女である。


 『きゃは、ユウ面白いから、助けてやろうかな~』


 俺は高校生なのに、覚えたつもりも無いスケコマシ・モードに切り替えた。

「なんだ? 勝手に口が!」


______スケコマシ・モード発動


「ゲヘ俺、アイリスさんみたく、聡明で叡智を称えたボッキュン美魔女を見たのは、ここへ来てから初めてでゲス。 ゲヘヘ。もうアイリスさんが人妻だなんて、俺は、俺は自分の運命を呪いたい! 出来るなら、時間を戻したいくらいでゲショ、ゲショ」


 と自分でも驚くような、とても下品で軽いセリフが口から飛び出した。


「ユウ あなた そんな ゲス "男" だった の?」

「リーダーって不潔! 私を騙したのね! って男?」

「レイもランも、 俺がいつお前等を騙した? ランはさっき、ここは褒めちぎるのよって力説しただろ!」


「「馬鹿、やり過ぎて キ キモいのよ!」」

「今のは俺じゃねぇ!」

 ぷん ぷん

 二人でハモリやがった。


 それに反してアイリスさんの顔が、ぱぁっと花が咲いたように綻んだ。

「うふ、初心な(おんな)は、本音を言えないものよね。いいわ、そこまで、そこまで言うのなら、私のアーツ"詠唱バンク"を伝授するわ。このお礼はまた後日、二人だけでじっくりと ね ユウちゃん」


 ぞみぞみぃぃ

 そこまでを強調されては困るが、俺はレイとランにゲス女男と軽蔑されながら、アイリスさんを説得したのだ。ここは忍び難きを偲ぼう。



 俺たちは昼食後、宿の裏庭に集まった。

「じゃぁ、私が今から見本を見せるわね」


 既に詠唱を済ませてあったのだろう。アイリスさんが片手を上げて、「破!」と言ったかと思うと、小さなファイアーボールが飛んだ。


「歩いて来る途中に、詠唱バンクに登録しておいたの。私の場合トリガーは"破"よ。トリガーは人によって自由に変えられるから試してみて」


 

 う~ん

そう簡単に理解出来るものではない。レイもランも頭を抱えている。


 「要領は、頭の中に金庫を思い浮かべるの。それで詠唱が済んだら、すかさず金庫に入れたイメージで扉を閉める。発動する時は、金庫を開けて取り出すイメージで、トリガー"破"で発動。そんなに難しくは無いけど、私は誰にも教えていないから、私だけの秘密なのよ」


 なんとなくイメージを掴んだレイが、まず念じてみた。

 ファイアーボールだ。

...... ......

 "GO"(ごう 轟)

 トリガーは"GO"のようだ。いかにも炎らしくて、いい響きだ。


 ボウ

「成功だ」


 「では次、私のヒール魔法」

 ランが念じる。そして金庫にしまうイメージ。

 ...... ......

"ナマ イッチョウ"


 ランがトリガーの言葉を言うと、ハードなロックのリズムで、チャロン湿布のような四角いエネルギーが飛んでいった。効果ミュージックのついた魔法など、俺はラノベでも読んだ事がない。


 「絆創膏みたいなヒールだな」

 俺のファースト・インプレッションだった。


 「......LV1 だからね、そんなものかな?」

 アイリスの言葉には、呆れと溜息が混在しているようだった。


 『でもこんなルーキー初めてだわ。全てが変』


「みんな初めてにしては立派よ。後は実戦で試すといいわ。なんなら迷宮"誘惑のケイブ" 今から行ってもいいかもよ」


 アイリスさんから、事実状のGOサインが出た。

「入口から精々100mまでで試してみなさい。それならゴブリンと1回くらいしか遭遇しないと思うから」


 その言葉に俺たち3人は奮い立った。

 「やりましょう!」

 "詠唱バンク"と秘密の強化スペシャル・コスチュームがあれば、冒険者の最低ランク "Kakedasi E"には達している筈だ。


 早速俺たちは、ここから割と近いダンジョン、迷宮"誘惑のケイブ" に向かう事にした。


「あっ、俺たちなら大丈夫ですから、アイリスさんは宿に戻っててください。アイシャちゃんも居る事ですし、夕食までには戻りますから」


 アイリスさんに手を振って俺たちが歩き出したすと、後ろで見送るアイリスさんが、じっと俺たちを見つめていた。


 「あのユウと言う子、ひょっとしたら......まさかね」





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