EP10 女体化率30%のゴブリン戦 チーム優霊 第2R *
<<転移>>
______第9日目 推定8月9日 午前6時過ぎ
ブゥゥゥン
翌日の朝、まだ俺にしがみついて爆睡しているレイのステータスを、閻魔帳でこっそり確認すると、MPは12で満タンになっていた。
「一晩中アブラゼミのサナギっ子とは、保温対策をよく考えたなレイ」
『朝から ユウガ バカ......』
ユウガの勘違いは、もはや天井の右斜め上だ。
しかしユウガほど羨ましい男はいないだろう。ユウガの高校全男子生徒が、この異世界の状況を仮にモニター出来たとしたら......
「戦争だ! 」「夢野を隔離せよ! 」「レイちゃんを邪悪なエロ魔人から取り戻すのだ!」
と、さぞ賑やかな夏休みを堪能出来た事だろう。
非難轟轟のユウガは現実派だ。サバイバルでは、色気より食べて生きなければならない。
だから昨日は、レイのスキル "ない物ねだり" をセーブさせて、今日のモンスター戦第2ラウンドに備えるという慎重派なのだ。
あ~ あ~
「異世界は今日も晴天なり......」
しかし今朝の俺は、なんだか体の調子がまた変なのだが、別にパワーが出ないとか、そうではない。具体的に言えば声が甲高くなった事、髭が生えなくなった事、そしてなんと体がスリムになって来ているのだ。特にウェストに少し縊れが出来初めていた。
「はぁ~ユウガ ボンジぃぃ」
と言ってレイが、俺の前に立つと.......レイの瞳がまた少し高くなっている。
「うっ またしてもか!?」
二日前に感じたあの違和感は、今日、はっきりと違和感ではなかったと断言出来るのだ。
レイの身長は162㎝、俺は177㎝ 身長差が15㎝ある筈なのに、今日は明らかにそれが縮まっている。もうレイの身長が伸びたのか、それとも最悪の場合、俺が縮んだかのどちらかだ。
しかし、ここ数日の蛋白質不足が祟ったとは考えられないし、それは有り得ない。
「レイ、悪いけどさ、両手を横に一杯伸ばしてよ]
こう?
レイの両手と、俺が横に伸ばした手の長さの差 これが約15㎝なら問題は無い。
しかし、レイの伸ばした両手と俺の伸ばした両手、その差は目視でも10㎝以下だと分かる。しかも俺の手が、レイの柔らかい小さな手の平とよく似ている。
『手までかよ!? これはおかしいぞ』
「レイっ!」
「あん♪ 何度も そんなに わたし 呼ばなくても 身も 心も もう わたし......」
レイにしては、珍しく長いセリフだった。
試しにもう一度呼んだ俺の声が、やはり妙により甲高い。手もなんだかニっとして、ゴツゴツが無くなってきていた。
「レイ、俺って何か変じゃね?」
「ユウガ 男の娘 みたいな 声だよ それに やっぱり 縮んでる!」
なんと! レイが言うのだから、俺の悪寒と第六感は正しいと証明されたのだ。
「ユウガ 何だか 女っぽい でも......かわいい」
______レイ視点
ユウガの黒茶の髪がしなやかで、異常に伸びるのが早く、もう肩の上辺りまで伸びている事、顔の輪郭が細くなり、瞳がキラキラしていて、昨日より10%は大きくなり、睫毛も長く伸びている事。よく見ると瞳がレイと同じように、左右で色がだんだん違って来ている事、まだまだあると言う。
「ユウガ 胸 出てる」
なぬ!?
恐る恐るパーカーの中を覗くと......ある! まだ小さいがピンク色したヨロチクビが、膨らみ始めた双丘の頂上で鎮座していたのだ。この段階では、まだツルペタではあったが。
ぎょ ぎょえ~!!
「こんな、こんな事、俺は聞いていないぞ! 狸ばばぁ!」
とことん困った時は、ジョセフィーヌに聞くしかない。奴が関わっているのは間違いないのだ。
「ゴラァ、ジョセフィーヌ、居るならちょっと来い! 大至急だ!」
俺が怒りを込めてジョセフィーヌを呼びつけると。
♪ジャジャ~ン
「何かお困りですか? 少年。そんなにカリカリして可愛いわよ」
ぷっ
「おま、これはどう言う事だよ! ちゃんと説明しろよ。異世界島の責任者だろ?」
「はて、なんの事でござんしょう?」
ジョセフィーヌがニヤニヤしている事が、俺には言葉だけで分かる。
付き合いは長くは無いが、奴の嫌味な性格や癖は、知り尽くしていると言っても過言ではない。
「見れば分かるだろ! この俺の体の変化だよ!」
「はい、無事女性化してますね、おめでとうございます」
やはりこの古狸は知っていた。こんな重大な事があるのなら、事前に説明して欲しいものだ。
「少年、閻魔帳は見た あるか?」
「見たよ」
「名前の欄は?」
「夢野優雅美になってた」
ニヤ
「でしょ、メタモルフォーゼシステムに何の異常も認められません。では私はこれで......」
消え去りそうになるジョセフィーヌを、俺は怒りの念で呼び戻した。
Come Back! 狸ばばぁ!!
「わかりました、わかりましたよ。今説明してあげるから。少年、あんたブロンズCDとシルバーCDの光を二度もモロに浴びましたね。それが答えです。では」
「おい、ちょっと待てよ、ちょっと待てってば!」
ユウガが叫んでも、もうジョセフィーヌは戻っては来なかった。
俺の体の変化は、どうやらブロンズCDと、シルバーCDの光を直に浴びた結果だと言いたいのだろう。
「触れたCD特典になんでそんなマネを! もっと説明しろよ!」
女になってしまったものは、どんな理由があろうがもう仕方が無いのだ。
糞!
「この際、俺が女体化して綺麗だろうが、オカチメンコだろうが関係ない。今日もゴブリン戦を予定しているのだから」
どうやら女体化の驚きより、ゴブリン戦を重視して選択したらしい。実にユウガ、否、ユガミらしい。
体がこんなんで精神が砕けていては、真面に戦闘が出来ないのが普通だろう。だが、ユガミは振り返らない。切り替えの早さが、ユガミのウリなのだから。
「レイ、俺の女体化がなんだ。戦闘力には問題は無いと思う。少しパーカーやトレッキングブーツがゆるゆるになって来たけど、今日もイケるだろう。ついて来てくれるよな」
外観は別として、中身は昨日までのユウガだ。レイも気持ちを切り替えて、ユガミの指示に従った。
「ユウ、わたし 行って 戦う」
「よし、決まりだ」
ん?
「レイ、今なんて?」
ユウ
「ユウガ オンナ 30% 進行中 だから ユウ」
「もう勝手に呼んでくれ。でも俺が100%女になったら、どうなってしまうんだろ?」
今日からレイは、俺をユウと呼ぶようになってしまった。
「だけど何も問題はない。ユウとレイ "チーム優霊" だな。しかしレイって本名が本当に霊だったんだ。閻魔帳で見るまで、今まで気づかなかったよ」
第2ラウンド開始前に、大きなハプニングはあったが、チーム優霊の闘志は揺るがなかった。
『あん ユウ ステキ なんだか わたし ドキドキ』
______そして昨日と同じ時刻に、チーム優霊は出発した。
先頭は前衛の俺。戦士LV1なのだから、昨日より戦える筈だ。
レイはファイアーボールを最大12発撃てる。これならなんとかなりそうだ。
湧水ポイントから、昨日のチンピラゴブリンと戦闘になった場所から更に100m進んだ。ここはエスケイプポイント300mの外だ。
レイは常に鳥瞰図を見ていて、それを俺に伝えてくれる。
Gua Gui Gue
「来た! ユウ 前方 20m ゴブリン 3体!」
こちらのレベルが上がったとは言え、いきなりの3体。戦うか逃げるかユウは迷った。
「ユウ 戦う 大丈夫!」
何が大丈夫なのか分らないが、何か秘策でもあるのかと俺は思った。
「レイがそう言うなら、よし戦闘モード!」
「Oui ユウ ラジャ」
ユウは感じた。身長が縮んだりして体が全体にスリムになった影響か、体が軽いのだ。例えるなら、バックパックを降ろしたような感覚だった。
ゴブリン3体もこちらをロックオン。こん棒を持ったゴブリン2匹と、弓を構えたゴブリンが一匹だ。
「レイ、弓はやばいぞ それに道が開けている」
「ユウ わかってる でも大丈夫」
と言うなり、レイがファイアーボール一発を発射した。
「無詠唱なのか?」
炎の弾丸が俺の横を掠めると、アーチャーゴブリンの頭蓋に、またもやクリーンヒット、昨日と同じく威力が増した酸欠効果で倒した。
「まずは 一匹!」
オウ オウ オウ
「またやってくれたな テメェ オウ」
と凄みながら、残る二匹が俺に向かって来た。
俺は右足に力を込めて蹴るように飛び出した。ターゲットは右側のゴブリン。
接近し、すれ違いざまにシャークテックナイフで、ゴブリンの脇腹を切りつけた。
Gueee
LV1のシャークテックナイフの切れ味は素晴らしい。それに俺のレベルも1だ。ゴブリンから緑色の体液が吹き出すと、ゴブリンは地に蹲った。
Goaaaa
左側のゴブリンが吠えた。狙いはレイだ。
「レイ! 逃げろ!」
ユウとレイの場所は5m開いている。レイをカバー出来ない距離だ。
レイもゴブリンが近すぎて、ファイアーボールを撃てないでいる。
「ファイアーボール・ウォール!」
轟ゥァァ
なんとレイの前に炎の壁が現れた。
驚いたゴブリンのスピードが落ちたが、止まれずそのままフレアの壁に突っ込んだ。
「やったか?」
「やってない!」
ファイアーボールを薄く延ばして、壁状になっただけだ。威力は格段に落ちていて、酸欠効果は望めなかった。
それでも炎に怯んだ瞬間ゴブリンの腹に、ユウが作った流木の槍が突き刺さった。
ドスぅ
鈍い音がして、チンピラゴブリンがよろめいた隙に俺は急接近。またシャークテックナイフで、背後から背中をひと突きした。
途端、ゴブリンは声も出せずに絶命して逝った。
ドサ
!!
「次弾 ファイアーボール!」
えっ?
俺に刺されて倒れていた筈のゴブリンが、俺の背後に迫っていたのだ。
轟ぅぅ
GUAaaaa!
今度は間違いなく、酸欠効果でゴブリンを倒した。
「ユウ 油断 した」
「反省 します」
「見事なコンビネーションだったな。完璧じゃなかったけど、ファイアボール・ウォールまで出たし凄いぞレイ」
「ユウ 内助の功 当たり前」
相手は、最低レベルのチンピラゴブリンなのだから、ここで負けていてはレベルアップは望めない。
「またまた何が内緒の項だよ、わかったわかった。閻魔帳で後で確認するから」
「バカ......」
などと騒いでいるうちに、ゴブリン3体は消滅、魔石3個とこん棒が2本、弓と矢が転がっていた。
それらを戦利品として回収し、俺たちはすぐベースポイントへと帰還した。
今日は予想外のゴブリン3匹。もうこれ以上ここに留まっている理由が無い。
帰る途中、また狸ばばぁからお告げがあった。
コングラチュレーション!
「ジョセフィーヌ、もうわかってるっってば。閻魔帳は後で確認するから」
......。
心無し、ジョセフィーヌがシュンとしているのが俺には分かった。出番を待っていたのだろう。
______その日の昼
「さぁベースポイントに戻った所でレイ、残りのMPで、"ない物ねだり" 使って何か美味しいもの食べない? 俺たちまた勝利したんだからさ」
うん そうね
「ユウ、ファイアーボール2発 4ポイント ファイアーボール・ウォール 4ポイント
残り MP4。ホタテ1個MP2 焼く為 MP2 それで ゼロ いい?」
「あっ、ウォールは4ポイント消費するのか、じゃあ大きいホタテ一個を半分ずつ分けて食べよう」
「あいあい ホタテ」
また妙なレイ語録が出てきたなと思いつつ、二人は昼食の準備を始めるのだった。




