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ダンボールさんはさいきょうですから!〜美少女化したダンボールに救われる話〜

作者: ゆくゆく
掲載日:2021/06/02

訳の分からないお題なのにやったらめったら筆が乗った狂気の作品です。

 

 「……寒っ」


 今年の冬は例年と比べても激しい冷え込みである。当然、屋根も壁もない生活を送るものにとっては辛く厳しい季節となる。


 友人に裏切られ、借金を背負わされ、何とか返済したと思いきや妻に捨てられ、失意のまま家を出て自殺しようとするも失敗し、家に帰れば家が燃えていた男、須藤嶺二は今や唯一心を許しているダンボールを身にまとい、できる限り寒さをしのごうとする。


 「……ああ、つれぇなぁ……去年の今頃は何してたんだっけ……仕事を定時で終わらせて、家に帰れば暖かい飯が待ってて、クリスマスにはお高いケーキなんか食べちゃったりして…………はぁ」


 今となっては何にもならない過去の栄華である。何せ、定時で終わらせるも何も仕事がなく、帰る家もなければ暖かい食事など最後にしたのはいつかも疑わしい。ケーキのような嗜好品など夢のまた夢である。


 「……寝よう」


 こんな寒い中寝たら今度こそ死ぬかもな……などと笑えない独り言を呟きながらダンボールにくるまる嶺二。短い期間とはいえ濃密な時間を共にすごしたダンボールは優しく嶺二を包み込む。


 いつしか雪が降り始めていた。雪は風に乗り、風は雪をまきあげ、2つは絡み合いどこまでも広がっていく。嶺二もまたその洗礼を受ける。だが彼が目覚めることは無い。なぜならダンボールがいるから。ダンボールさんはいつだって嶺二を守ってきた。


 そして、嶺二の脳内には色濃い記憶が夢として蘇る。そう、いつだってそこにはダンボールさんがいた。



 梅雨。長く降り続ける天の恵みにして涙。誰もが憂鬱を感じるそんな時期に、嶺二もまた涙を流していた。誰も傘をさしかけてはくれない。通り過ぎる人の目は彼のことなど気にもとめない。彼らもまた、己の生を生き抜くのに必死であるのだ……


 だがダンボールさんは、ダンボールさんだけは違った。ダンボールさんはその身を挺して嶺二を降りしきる雨から守ったのだっ! おお、なんという献身、なんという慈愛! 心がやられ、体もまた深いダメージを負っていた嶺二が無事に梅雨を越せたのはダンボールさんの活躍がなくてはなし得ない奇跡なのだ。



 そして梅雨が終われば夏が来る。降り注ぐ太陽は鬱屈としていた人々の気持ちを最高潮へと引き上げ、夏の魔性は人々へと魔法をかける。だがしかし、嶺二は現実主義者(リアリスト)だった。彼にとって夏の魔性など唾棄すべき邪悪! 夏の魔法など心を惑わす呪言!! 彼は来る日も来る日も、夏が終わる日を祈って橋の下の日陰に身を潜めていた。最低を知るが故に最高の現実を追い求める彼のストイックな心も、熱中症という脅威の前では無力なのだ。


 

 しかし、ダンボールさんはここに来て新たなる進化を遂げた。紙の体で雨を受け続けたダンボールさんはいつしかその肉体に雨を貯め込んでいたのだ! 紙と水。一方的に蹂躙されるものとするものの関係性。だが!! 愛の前では全ては無力ッ!! ダンボールさんには不可能などなかったのだ……嶺二が地獄の業火を体現するかのごとき猛暑をくぐり抜けられたのはひとえにダンボールさんあっての事だった。


 

 しかし、奇跡とはそう起こるものでは無い。滅多に起こらない、普通などというつまらぬものからかけ離れた瞬間に残る足跡。それこそが奇跡であり、ダンボールさんなのだ。



 とある秋の日。嶺二とダンボールさんは2人寄り添いながら空を眺めていた。天高く馬肥ゆる秋。嶺二は当然痩せていた。そらそうである。太る要素など今までどこにもなかった。そして、ダンボールさんもまたスリムになっていた。梅雨の間にたっぷりと溜め込んだ雨水を、全て夏の間に放出したダンボールさんは今までのダンボールさんとは一線を画す存在となっていた。



 即ち!



 凝!!



 縮!!!




 雨水だけではなく、本来持ち合わせるべき水分すらも嶺二のために絞り出したダンボールさんは、本来持っているはずの柔らかさを失っていた。こんな体ではこれから先に訪れる冬に、嶺二を暖めることなんてできやしない。苦悩するダンボールさん。その姿は正しく考える人、いや紙。だが、ダンボールさんは1人では無いのだ。嶺二もまた優しさと強さを持ったナイスガイ。降り注ぐ……というか押し寄せる不幸の波に心をやられてこそいるが、相棒のピンチとなれば黙っているような男ではない。


 来る日も来る日も彼は努力した。嶺二を救ったことにより潤いを失い、無味乾燥な存在と成り果ててしまったダンボールさん。そんなダンボールさんを今度は俺が救ってみせるとばかりに嶺二は張り切った。川から水をくんできては少しずつ、少しずつダンボールさんに馴染ませていく。さながらその手つきは熟練のマッサージ士のようであり、その目は一分の妥協も許さない職人の眼差しであった。



 果たして彼の努力は実を結した。ダンボールさんの身体は無事に元のやわらかさを取り戻したのだ。いや、それだけでは無い。1度、圧倒的硬度を手に入れたダンボールさんはさらなる進化を遂げていた。最早彼女はただのダンボールではない。新時代のダンボールとなり冬を迎えることとなったのだ………………






 「……………むぅ? 」


 ダンボールさんに包まれていたはずの嶺二は、寝る前とは異なる柔らかさが自身の体を覆っていることに気づき、徐々に意識を覚醒させた。


 意識が鮮明になるにつれて、肉体の感覚もまた鋭敏になっていく。ダンボールさんの持っていた柔らかさはあくまで使い込まれた紙のもの。そこに温もりが宿ることは無い。しかし、今嶺二を包み込んでいるものの柔らかさは、生物が持つ特有の温かさを有している。嶺二の脳内を疑問符と疑念が埋め尽くす。


 「……何、だ? ……いや、誰だ? 」

 「おー、やっとおきたー! れーじはねぼすけだねー」


 しょぼしょぼとする目を何度か擦り、嶺二はようやく自分を包んでいた……もとい、抱きしめていた存在を視認する。


 緩いウェーブを描きながら肩の辺りまで伸びるカフェオレの色に近い茶髪。嶺二のそれとは正反対に煌めくような輝きを宿した髪と同じ色を持つ瞳。寒い冬の外気の中でも確かな色味と柔らかさを感じさせる唇。それら全てのパーツが絶妙なバランスで配置されることによって、幼さの残る見た目ながら全てを受け入れるかのような包容感を放っている。そして何故かメイド服を着ている。


 そんな幼女のようにも少女のようにも見える女性が嶺二を優しく抱きしめていたのだ。


 「───!? ……! ……!?!?!?」


 言葉にならない叫びを漏らしながら驚愕する嶺二。当然といえば当然の反応である。いくら美少女とはいえ、目が覚めていきなり知らない人に抱きしめられていたら、普通人というものは警戒を抱く。嶺二もまたその例に漏れず少女の手を振りほどき距離を取った。




 ───否、嶺二が振りほどいたものは手では無かった。そもそも、嶺二は半年近くに渡る路上生活により痩せ細っているとはいえ成人男性。幼女と見間違うような見た目年齢をした少女が、易々と抱き抱えられるような体躯ではないのだ。


 しかし、嶺二は確かにダンボールさんに包まれていた時と同じ温もりを起きる直前まで感じていた。それは何故か? 答えは眼前に広がっていた。


 「お前……人間じゃない、のか……? 」


 クスリ、と少女が微笑む。その笑みは見るものを虜にする笑みであり、彼女が人ならざるものであることを証明する笑みでもあった。


 少女の背から広がるもの。それは或いは神の使者が背負うもの。或いは天を舞う生物共が創り手より与えられたもの。即ち、翼であった。その翼は荘厳にして可憐、雄大にして繊細。そして何より───






 ───ダンボールで出来ていた。


 


 「いや、おかしいだろう!? 」


 嶺二の叫びは最もである。本来穢れなき純白で満たされるべきその翼は、何となく使い込まれた感のある茶色に染っている。極上の手触りを持つはずの羽は、ダンボーにしては手触りがいいよね、レベルにおさまっている。本人の可愛らしさが天使としては満点なだけにダンボールの翼は強く異彩を放っていた。


 「むー、おかしくないもん! 」

 「いや、おかしい……というかお前は誰なんだ? 俺のダンボールさんはどこにやった? 何で俺を抱き抱えてたんだ? 」

 「わたし? わたしはダンボールだよ? 」

 「いや、普通ダンボールは人型をしてないし羽は生えてないし喋りもしないが」

 「むぅー……れーじ、いじわる」

 

 そう言ってちょっと涙目になる自称ダンボールの少女。



 ここで須藤嶺二という男の見た目を紹介しておこうと思う。路上生活の今は言うまでもないが、彼は路上生活を始める前から(オブラート)野性味に溢れる見た(オブラート)をしていた。また、結婚こそしていたが子供はいなかった。


 そう、須藤嶺二という男は子供の相手がこの上なく不慣れなのである。そんな彼の前に涙目の少女を置いたらどうなるか? 答えは火を見るより明らかだ。


 「いっ、いや……その、なんだ。おじさんが悪かった、うん。だから、ほら、泣き止んでくれないか? 」

 

 威厳も何も無く、全力で未だ正体すら不明な少女の機嫌を取る26歳(無職)の誕生である。


 「…………ふふっ、れーじはばかだなぁ」

 「んなっ……おま、言うに事欠いてバカはないだろうバカは……」

 「えへへっ、じょうだんだよー」


 そして少女に馬鹿呼ばわりされても笑顔の前では黙らざるを得ない嶺二。あまりにも弱すぎる。



 ……


 …………


 ………………


 

 「───つまり、だ。お前は俺が唯一心を許していた存在であるダンボールさんであると。そう言いたいんだな? 」

 「そうだよー。わたしがダンボールさんなのだー」

 「にわかには信じ難いが……だがああも今までの生活の全てを言われては信じるしかない、か」


 嶺二が醜態を晒してから数十分、2人は互いの認識のすり合わせを行っていた。そして、そんな会話の中で嶺二の中にある気持ちが芽生え始めていた。


 「まあいいか、じゃあお前はこれからどうするんだ?

このまま俺と一緒にいても何もいいことなんかないぞ」

 「……れーじはやっぱりばかだなー」

 「なんでだよ、俺の生活がろくでもないことは他でもないお前自身がいちばんよく知ってるだろう? 」

 「わたしもなんでこのすがたになったかはわからないけど、でもれーじとのせいかつがいやならわたしはダンボールのままだったよ! それだけはぜったいにそうだもん!」


 だからあまえていいんだよ?


 柔らかく微笑んで翼を広げるダンボールさん。そんな彼女を見て嶺二の中に芽生えた気持ちはどんどん大きくなっていく。


 その気持ちの名は父性。彼女がダンボールさんだと言うのなら、彼女以上に自分を支えてくれた存在はいない。そんな相手がいるのに、これからもこんな生活を続けていいのかという気持ちがどんどん嶺二の奥底深くから湧き上がってくる。それは、友に、妻に、天に見放された時点で嶺二が失っていた生きようとする意志であった。


 「───今まで」

 「……え? 」

 「今まで散々救ってもらったんだ。これからは甘えっ放しにはならんよ」

 「……わたし、れーじにひつようないの? 」

 「そんなこたぁないさ。俺にとって君はなくてはならない存在だよ。だからさ、ダンボールさんがいいなら、これからもずっとそばで支えてくれないか? 」


 それはある意味ではプロポーズにも似た誓いの言葉。そこに恋愛感情などなくとも一緒にいたい。ただそれだけを研ぎ澄ました願いの言葉。それは物を想う気持ちによって生まれた彼女(付喪神)にとって、




 「───うんっ!! 」




 如何なる愛の言葉よりも尊く、どんな煌びやかな贈り物よりも輝かしく映る愛情なのだ。





 ……




 …………




 ………………




 「はい、以上でインタビューは終わりです。須藤さん、今日はありがとうございました」

 「いえいえ、こちらこそ。でも私如きのインタビューなんて価値ありますかねぇ」

 「何言ってるんですか! 青年実業家、須藤嶺二。どん底からの大逆転! 今の日本で最も注目されている人間の1人と言っても過言じゃないですよ!! 」

 「ははは……出来ることを最大限やってきただけですからねぇ。どうにも実感がわかないというか」

 「ああ、そういう人は多いみたいですねぇ。ともかく今日はありがとうございました! 早速帰って記事にしますね! 」

 「はい、ありがとうございました。お仕事頑張ってください」


 お辞儀して社長室を出ていく記者を見送り大きく息をつく嶺二。今や須藤嶺二は日本が誇るダンボール産業の先駆者となっている。彼の作りだした新時代のダンボールは従来のものよりも遥かに高い衝撃吸収性、耐久性、耐水性を有しており、このダンボールの普及に伴って日本の発送業は大きく発展した。


 「どーしたの、れーじ。おつかれー? 」

 「ああ、ダンボールさん。いやなに、ダンボールさんのことを隠しながら俺の過去を語るのはちょっと骨が折れるってだけさ」

 「んー、そーなのー? わたしはべつになにもしてないのになー」

 「そんなことないさ。君がいてくれるだけで俺がどれだけ救われたか分かりゃしない」

 

 

 ダンボールさん自体はただの付喪神。そこには何の能力もない。だが、それでも嶺二にとっては、彼女はただそこに居てくれるだけで価値のある存在であるのだ。

 




 「んふふー、まぁダンボールさんはさいきょうですから!! 」







 日本の産業に大きな改革をもたらした男、須藤嶺二。1度妻に捨てられてから彼が嫁を娶ったことは無いとされている。



 だが、彼の傍にはいつも煌めくような茶髪の美少女が寄り添っていたという……

 

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