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シュテファン・ フォン ・メルケンスは、オブシウス帝国外務省の外交官である。
彼はオブシウス帝国の名家に生まれ、有名な外大を出ていて、5か国語を操る。
国の利益のため、時にはアッと驚くような秘策で交渉を有利に進める。
兵隊が小銃や軍艦や飛行機で戦争をするのならば、彼は言葉で戦争をするのだ。
なぜ彼の話題になったかというと、それは5月30日夜、偵察機襲撃の日の夜のことだった
午後九時
フィルスマイヤーはあてがわれた将校用の宿舎。ルミニアの貴族から借り上げた屋敷の部屋の中で静かに今日あったことを日記に書いていたら、卓上の電話機が呼び出し音を鳴らしたので、出る。
「はい?」
『あ、フィルスマイヤーさんですか?本国のミューヴィセン大臣よりお電話です』
「えっ?は、はあ、分かりました。つなげてください。」
呼び出し音ののち、ミューヴィセンがでる。
「お電話変わりました」
『ああ、フィルスマイヤー君、久々だな。どうだ、異世界の食事は気に入ったかね?』
「まったくです、味付けが濃すぎます。」
大臣は電話口でフハハと笑ってから話始める。
『実は急な話で申し訳ないんだが、外務省のメルケンスさんを知っているよな?』
「はい、当然存じております。」
『実は、彼がそっちに行くことになった。』
「ええっ!ほ、本当ですか?」
ミューヴィセンは本当だと言わんばかりに話続ける。
『ああ、事実だ。あ何とか帝国との交渉に赴くことになった。』
『それに君も同行してもらう。』
「了解しました。」
『会談はあちらから日時を伝えて、くるらしいが、いずれにせよメルケンスはあしたそちらに着くようだ。接待を頼むよ』
「わかりました。」
『では、しっかりあ何とか帝国の情報をつかんできてくれ。』
電話終わり。
フィルスマイヤーはでかいため息を吐いた。
その日はワインを呷って、すぐに寝た。
翌日 凄腕外交官メルケンスは空路帝国領ルミニアへ向かった
この数日前、オブシウス帝国政府の幹部には、報告書『あああ帝国について』の改訂版が配布された。
某設計局員の情報や、交戦の記録、現地諜報員の情報をもとに再編されたものである。
それを機内でメルケンス含め外務省職員は熱心に読む。
・場所は第三世界の東部。
・政治体制は皇帝がいるのみしか不明。
・転移国家であるとのことだが、陸空軍に偏重した軍備などからその可能性は高い。
・魔法文明かは不明であるが、100%機械文明である可能性が高い。
・航空母艦は我が国の物よりも設備等優れている。航空重視の可能性あり。
・誘導弾を広く実用化している。
・『あああ帝国』の計算機の性能は非常に高く、またそれに付随するレーダー等の設備も性能が高い。
・ジェット推進の航空機を軍民ともに広く採用している。空力的に洗練された形をしており、航空工学は我が国の数歩先を行っている。
・その他水上艦艇については我が国のオブシディアン級戦艦らしきものが1隻のみ、陸国であり海軍は発達しなかった恐れがある。
・陸上兵力については不明な点多くも、戦闘車両に複数の電子機器らしきものを確認。
・ヤマート共和国などに自国兵器を大規模に供与しており、工業力は高い模様。
・進出した領土において暴力的な統治やいわゆる植民地支配のようなものは見られない。
・ミガシン州不審火、並びに不審放送、国籍不明潜水艦との関連性は不明。
報告書は、我が国よりも強大な技術を持っており、戦いが長期化すると危険、しかし現在の優勢は我が国にあるのだから『決戦兵器1号』や『新型爆弾』の積極的な利用による短期決戦が極めて重要であると考える。と締めくくられている。
「メルケンスさん、どう思いますか?」
「あああ帝国か、これはある意味、やってきた中で一番難しいだろうね、なんせ我が国の技術的、軍事的優位性があまり効果を持たないから。我々の交渉術そのものが試される。」
「どうするんですか?」
「まあ心配はない、君たちは僕の言うとおりにしっかりやってくれ。」
窓からは、シドレア大陸の大地が見える。
ルミニア皇国 飛行場
「まもなくメルケンス殿が参られます。」
「わかった。もう外で待っていよう」
フィルスマイヤーは自動車から降りて、飛行場のわきに立って、自ら双眼鏡で凄腕外交官メルケンスの乗る飛行機を探す。
「あっあれかな?」
機影がだんだん大きくなってゆく。やがてその輪郭はよく見る輸送機の形になり、そのまま滑走路に滑り込む。
誘導員が旗で指示した場所に止まると、まだプロペラが回っているのにもかかわらずタラップからメルケンスが下りてくる。
「外務省所属のフォン ・メルケンスです。ミューヴィセン大臣よりお話は伺っています。あなたが異界省第一局局長フィルスマイヤーさんですね。」
「は、初めまして....フィルスマイヤーと申します....」
そう挨拶するのもつかの間、彼は手招きをして、強引にフィルスマイヤーを飛行機に乗せる。
このメルケンス、活発な人間である、待つという行為を知らないのだろうか。
「....え?」
「補給急いでお願いします!!時間がないんです!」
メルケンスは地上の作業員たちに補給や整備をせかせる。
窓から忙しそうに働く整備士たちが見える。
「急になにを....」
「きまっているでしょう、今からボトフ基地へ向かうんです!」
そう聞くと、奴は平然と答えた。
「ええっ!さ、最前線じゃないですか!?まだ身支度が....」
メルケンスは無理やり遮って話す。
「あちらに用意してあります!安心してください!」
やがて整備が終わった整備士たちが指示して、飛行機はまた別の空へ消えていく。
「あああ帝国、厄介な国ですね、どんな人々が暮らしているんでしょう?」
報告書だけでは国民性までは分かりませんから。と彼は付け加える。
「...交渉の勝算はあるんですか?」
「まあ見ていてください。有利に交渉を進めて見せます。」
フィルスマイヤーは何も言わずに外を見つめる。雲の上は何もなく、ただ太陽の光が白い床を照らしていた。
同じころ、ヤマート共和国海軍 第1艦隊
「....そっちはどうだ?」
「艦影なし。」
「はぁ、そうか」
時刻は2時ごろ、気温は上がり、この付近の海水を温め始める。
結果、上昇気流が発生し、いわゆるスコールが発生する。
「サー、雨です」
「これはまずい、すぐ強くなるぞ!撤収!」
艦長ノムラは指示する。
見張りの水兵たちは
司令イワタに意見を乞うと、戦闘準備のまま待機、見張り員は水平線上の閃光に警戒し、方向をすぐに報告せよ、とのことだったので、そのようにする。
イワタのよくわからない指示に、皆不満を漏らす。
外は大荒れ、波は艦前方を洗う。
敵艦は接近していた。
第21任務部隊
旗艦戦艦グラニット
乗組員たちは少し疲弊を見せていた。
敵が航空隊を小出しにしているからだ。
一斉に攻撃したほうが対艦攻撃にはよさそうに見える。しかしそうせず、わざとやられに行くような非合理的な攻撃、何が目的なのか?
そのうえスコールときた。嫌な予感がする。
『艦上捜索機より連絡、南西200キレーに不明艦発見、敵と思われます。』
「そこにいたか!よし!南西に針路をとれ、射撃レーダーに映るようになったら攻撃してやる。」
あああ帝国軍艦空母グレートアアアウスおよび戦艦あああ、アドミラル・アアアロフ級巡洋艦2隻と1号輸送艦1隻が、西ヤマート沖300㎞を航行していた。
念のための警戒とやってる感演出のため、早期警戒機を2機、飛ばしておく。御用メディア帝国中央テレビ『ニュース7』の記者も同行しているため、とにかくもう失敗はできない、できればプロバカンダになるような派手なシーンが取れるように、ということで、とりあえず意味もなく艦載機を飛ばしてみたり、空砲の射撃をしてみたりと、いろいろ策を練る。
この辺には、ヤマートやその辺の国の沿岸漁業の船が多いため、それらを適当に撃沈して、CGやらなんやらで加工するという案もあったが、これは却下された。
いずれにせよ、帝国海軍があの一件でかなり威信を失っていることは事実であった。
「フム、スコールか、よける必要もあるまい、このまま通過せよ。」
部下が持ってきた海軍気象部隊のファックスに目をとおした司令はそのように通達した。
本来なら、第二機動艦隊の旗艦である空母グレートアアアウスに指揮官は乗るはずだが、戦艦あああのほうに乗っている。
「陛下の『意思』達成のためには、そう、手段を選んではならない、陛下は再び我が国を立派にしてくださるのだ。」
司令は、どこか狂気じみた目で、口調で、まくしたてるように話す。
「陸軍にも同志たちが増えつつある....!これでこそ一番星の軍隊よ...!」
「か、閣下!!!」
艦長は感激、涙を流して司令に縋りつく。
『ご、ご歓談中でしたか?』
2人の狂気は部下で中断される。
「かまわん、なんだ」
「はっ、西600㎞に不明艦数隻、確認しました。」
「ん?ちょうどいい、プロバカンダ素材が見つかったぞ!」
「針路を向けよ!」




