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滑走路から空に舞ったフルオライト型戦闘機は空中で多少手間取りながらもきれいな陣形を取り、指揮所からの無線により誘導されあああ帝国の情報収集機に接近していた。
高度1万ガーレル。およそ10000メートルの世界。酸素は薄く、通常のレシプロ機ならば到達しても息切れを起こし、まともに空戦できる速度は出なかったが、むしろ高高度のほうがエンジンの馬力が出る。パイロットたちの祖国はそれを可能にした。
第298特別偵察飛行隊に対してどんどん距離を詰めていく。
「後ろから敵機襲来、撃墜してもよいか?」
「待て、敵の攻撃を待ってから必要最低限の攻撃を行え。我々の任務はあくまでオブシウス帝国本土の情報収集のみだ。敵を逆上させるな。」
「了解。」
やがて、本当に銃撃を開始した。
そのため偵察機を撃墜するため、護衛のMiGは宙返りをして敵の後ろについていった。
偵察はつづけられた。 わざと高度を下げて飛行することも検討されたが、撃墜される可能性がたかったため実行されなかった。
というのも、大陸北端部には多数のレーダーおよびIFFの発信機の施設が存在し、射撃管制や兵士の詰所のような施設も確認されたためである。
しかし以外にも本土には対空施設は全くなかった。
ルミニア港の艦船の空撮写真も含めてこれらのデータは通信衛星を用いて国防省情報偵察総局にFAXで送信された。
一方そのころ、ヤマート共和国 キタカイドウ州南西部の海域
200機ばかりのA型戦闘機は、北部飛行場からの誘導の元、第21任務部隊を攻撃するために飛行して、敵の予想針路である北西へと飛んでいた。
海軍基地では、第一艦隊の戦艦ヤマート艦長ノムラが、艦橋員に出撃のための指示を出してゆく。
錨が収納され、係留が解除され、魔導機関は水を温めて、シリンダーに次々と蒸気を送りだす。
一隻、また1隻と艦隊は出航し、進路を『南西に』向けた。
第21任務部隊
旗艦戦艦グラニット
「報告します!敵20機、接近!」
「なにっ?報告では200機だったはずでは?」
「それが、そのうちの大半は引き返したのか、いずれにせよ我が方のレーダーの範囲外に出たようです。」
2人は考え込む。
「まあ良い、対空戦闘用意!」
ベルが鳴り響いて待機していた要員たちは結構前に登場した59年式70ミル連装砲銃座や42年式20ミル機関砲(76話参照)に近づき、苛烈な砲火を浴びせる。
他の艦もそれに倣う。
駆逐艦群は損傷の激しいものはボトフ基地にて修理中だったり、自沈処分となり数は減っているものの、搭載した対空兵装を一斉に敵に向ける。
しかしいくら練度の高い部隊でも、魔法では成し遂げることができないであろう攻撃によって、ある機は爆発四散し、別の機はパニックになり、搭載していた武装を滅茶苦茶に撃った挙句、友軍機同士で衝突して、そのまま火達磨になったものもある。
『レーダーから反応が消えました!』
「もう終わったのか?」
「対空戦闘準備!銃座員は待機。」
「各艦レーダー員並びに対空見張り員は対空見張りを厳とせよ、艦上捜索機発艦準備!」
空母クリドライトの甲板上では、大きな樽のような見た目の艦上捜索機、『ウォルフレイム型』がエレベーターで上がってきて、発艦位置につく。
武装は14ミル機関銃が2丁、後部銃座が14ミル2連装で3人乗りの艦上爆撃機だったのだが、エンジンの大馬力と余裕のある図体を買われて爆弾槽だったところに大きなレーダーポッドを搭載した捜索機として改造された。
エンジンはジュピター3型。1300馬力。
火薬式のカタパルトから発艦する。
もう1機ウォルフレイム型は発艦し、敵飛行機を発見しに向かう。
ヤマート共和国海軍 第1艦隊
艦隊は魔導機関の白い煙をたなびかせながら南西に向かっていた。
甲板上に航海士たちが何か真鍮でできた道具を持ち出して、いろいろ測定し始める。
これはマジックメーターと呼ばれる装置で、魔場測定器ともいわれる。
ある種類の魔場は距離に合わせて強弱がつくので、ある一点からの距離と水平に進んだ距離を用いて三角比で角度を求めて海図上における位置を測定する道具である。
『ルノール43度、リゲル123度』
と計算すると、(それぞれ緯度経度みたいなもの)地図でどこにいるかを調べて、艦長ノムラに報告する。
ノムラは敵艦隊が最後に報告された方位とは全く逆に進んでいることに気が付き、すぐに進路変更の指示を出す。
「操舵手!舵を右に!機関圧下げ!!」
「合い!」
号令とともに、操舵手は舵を切ろうとするが
『操舵手!進路そのまま、ルノール65、リゲル90へ向かえ!』
当然司令のほうが命令系統的に上、航海長はそれに従う。
艦長ノムラは腑に落ちず、反論する。
「サー、敵の針路とは全く離れています。このままだと会敵できない可能性があります!進路の変更を進言します。」
黙って司令イワタは前、水平線の向こう側を見つめる。
「....なぜです?」
「いいからこのままにしろ、今のうちに食事と休憩をとれ、警戒は怠るなよ。」
ノムラは機嫌を悪くしてどこかへ向かっていった。
再び前を向く。
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戦艦ヤマート 砲列甲板
ずらりと並んだ副砲の横で、砲手、装填手たちが運ばれてきた食事を食べながら雑談している。
「なあ訊いたか?俺たち敵とは全く別の方向向いて進んでんだってよ。」
「そうらしいな、何がしたいんだろう?」
「艦長は、針路変更を提案したが、司令は無視したらしいぜ」
相槌を打つ。
「確か司令殿はだいぶ歳をとってるんだってな?もう、頭が...な?」
装填手は頭の上で指をグルグル回す。皆笑うが、砲付きの隊長だけがすごい目で見てきたので、会釈して会話は終わる。
しばらくして、誰かが話す。
「でもまあ、なんか考えがあるんじゃねえの?」
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やがて当該座標に到達すると、司令イワタは機関停止、艦をまるで前時代の戦列艦のような陣形、敵のほうに全艦が主砲副砲を向けられる三日月型の陣形に転換、主砲発砲準備のまま全艦に見張りをするように旗を使い指示を出した。
艦長ノムラは魔導望遠鏡で外を見渡す司令をにらみつける。
司令は、長い間海軍で働いていて、エルフ大戦であげた戦功は計り知れないという話だった。しかし本来なら退役軍人となって要るはず。
開戦初期に優秀な人材を失ったため、人手が足りないのだ。
水平線の向こう側の雲を眺めて涼しい顔の老いぼれを、見下すかのように睨む。
「サー、この付近の海域は....」
航海長が深刻な顔つきで話しかけてくる。
「…うん、うん。わかった」
「司令、この海域は天候が急変する恐れがあります。このままですと接敵時に交戦しにくくなります。どうか移動を!」
司令は案の定表情一つ変えずに
「今はその時ではない。」
というので、話にならない。
かといって、艦長権限では何もできない。
歯がゆい思いで自らの職務に戻る。
一方オブシウス帝国とあああ帝国の戦時外交の努力は水面下で続けられていた。
いろいろ協議の末、帝国領ボトフで会談、捕虜交換という運びとなった。
今回は戦時ということもあって多少の戦力の携行が認められたため、空母グレートアアアウスおよび戦艦あああ、アドミラル・アアアロフ級巡洋艦2隻が外交官輸送任務に就くことになった。




