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ヤハラート半島の側面あたり
280トン武装キャラベル 栄光3455号
甲板上では、ぼろぼろの服を着た男たちが、作業をしていた。
「おーいそっち引っ張れ」
「ん?お、親方?」
親方と呼ばれた初老の男は声にこたえる。
「どうした?」
「へ、へえ、あそこに見知らぬ船が見えるんでさあ。」
親方は、すぐさま腰に下げた魔導望遠鏡をとり、ダイアルを調節しながら操舵輪のある船尾楼に上って、その方向を眺める。
「あっ!あれは?」
「ど、どうしたんでさあ親方?」
親方は驚いた声で部下にこたえる。
「あ、ありゃあ....オブ何とか帝国の軍艦だ!奴らが捜してたやつじゃねえか!」
「お前!でかした!漁なんかやめだ!」
親方は興奮しながら船長室にかけこんでいく。
「お、親方?おい野郎ども!撤収だ!」
部屋の箱を開け、ハンドルを勢いよく回し、魔導通信機の準備をすると、中の機械を操作する。
船尾楼の部屋の中には、あまり聞きなれない音が響く。
やがて、まだ興奮した状態で、部下に帰港の指示をする。
ちょうど帆は前回に開かれ、戻る準備を終えていた。
ヤマート共和国海軍特務艦艇 280トン武装キャラベル 栄光3455号、は、報告の通信文を入力後針路を西に変え、すぐにヤハラート港に帰港した。
ドフフ王国
ここドフフ王国は大東洋のほぼ真ん中に位置し、3つの島からなる島国である。その地理的特性からロマリア大陸とシドレア大陸との交通、交易の要所としてにぎわう。
エルフの書物、ロマリアの絵巻物、ヤマートの魔導時計、ペンドリシス共和国の綿織物などなど、様々な物品が取引され、深夜でも賑わう市場はあふれんばかりの物であふれている。
治安政情は極めて安定しており、中立を謳っているため、今回の戦争には参加していない。
王都ドフドフの港には、多くの船が停泊している。ダウ船のような船やガレオン船のような船、ヤマートの鋼鉄船体の船など、さまざまな船が停泊している。
その沖合あたりに、橋でつながった人工島がある。
えんじ色の飛行機、R-3型旅客機は、滑走路に近づいてゆき、異国の土を踏みしめる。
誘導員の指示で、隅のブースに自走して、そこで止まる。
「ふう、久々の陸地だ。」
中から伸びをしながら出てきたのは外交官サイトウである。
まだ回っているエンジンプロペラが潮の臭いのするさわやかな風を生み出す。
「いやあ、ここがドフフ王国ですかぁ」
同じく部下がでかいトランクを手に提げて機を降りる。
後続の輸送機も次々着陸する。
2人は港の方を眺める。
様々な文明が入り混じった風景が異国を感じさせる。
現地の大使館が用意した自動車に乗り込んで2人はドフドフ城へ向かう。
同 王宮 玉座の間
『ドフフ13世国王陛下のおなーりー』
衛兵がそう告げて、側面に控えた楽団が音楽を奏ではじめ、奥から数十人の女官を侍らせやってきたのは、ドフフ13世。ベルベットの衣服、金糸で刺繍されたマントをまとった
小太りの風貌の男は、これまた豪華な玉座に腰かける。
「うむ、異国の官吏よ、遠路はるばるよくぞ参った。ゆっくり長旅の疲れをいやすがよい。」
王は、王っぽい感じで話す。
サイトウは、用意されたクッション的な奴の上に座って、謁見している。
炊かれた香木の香りが、風で流されて鼻につく。
とりあえず適当な社交辞令で、機嫌を取ろうとする。
「陛下より特別な御配慮を賜り、我が国の商人たちは大変よい商売ができております。我がヤマート国総統閣下を代表して厚く御礼申し上げます。」
王は満足そうにうなずく。
「うむ、そなたらが西方より持ち込む品々は我が国に莫大な富をもたらす。余からも礼を言おう。」
サイトウは、続けて発言する。
「我々から陛下にささやかな"貢物"のご用意がございます。係りの者に運ばせておりますゆえ、しばしお待ちを。」
「うむ、くるしゅうない。」
王は片足だけ胡坐をかいたような姿勢になり、話し続ける。
「で、なぜ参ったのじゃ?新たな魔導機械でも売り込みに来たのか?」
「はい、我々は、これから北部に住まうのエルフの国との交渉に向かう手筈となっております。そのための特別なご配慮を賜りたく...」
「成程!ならば余は喜んで協力しよう!」
王は侍者に羊皮紙を持ってこさせ、羽ペンで書いて、魔法の杖をかざすと、青白い光とともに御璽が捺される。
「持って行くがよい、余からの口添えじゃ。」
それをサイトウは受け取ると、首を垂れる。
「陛下の深い御慈悲に感謝いたします。」
その後、宮中で晩餐会があり、サイトウたちはなんかいろんな地方の名物が混ざった料理を食べた。
ヤマート大使館にて宿泊。通訳探しは翌日となった。
翌日 市場
「こらーっ邪魔だ!どけ!通るぞ!」
雑踏。雑踏。雑踏。
市場へ向かう中央通りは人でごった返す。
黒いローブに身を包んだもの、おそらくエルフであろうか、そのほかにもさまざまな民族衣装を身にまとった人がたくさんいる。まるで展覧会とでもいうべきだろう。
彼らの乗った真っ黒い自動車は、この通りまったく進まないため、しびれを切らした運転手が群衆に向かって怒鳴りつつ、ノロノロ進んでいるのだ。
やはりドフフ王国でも自動車は珍しく、通るたびに皆が珍しいものを見るかのようにじろじろ見ている。
やがて市場のある広場を通って、海に面した場所へやってきた。
大きな看板を掲げた商会の建物などがここにはある。
ここの通訳仲介会社を通じて、エルフ語の通訳を雇うのだ。
そしてその夜。中央通りは少し人も少なくなり、通れるようになったので道をしばらく行った場所にある飲食店街のある食堂にサイトウたちは入った。
「ふう、疲れた。この国は賑やかすぎるなあ」
サイトウは給仕が注いだ蒸留酒を飲み干すと、運ばれてきた食事に手を付ける。
「そうですね、始めてきましたけど、ここだと一日中見て回れそうですね。」
そういうと、すっかり暗くなった窓の外を見る。
貴族の馬車だろうか、それが別の店の前に止まっているのが見えた。
しばし静寂が流れ、サイトウが世間話をしようとしたその時だった。
『おい!金の勘定を間違えるたぁ、蛮族の分際で生意気だぞ?』
店内で奏でられていた音楽は止み、客人はみな男、どこかの海軍の士官だろうか、それに視線が集中する。
男は店主に向かって伝票を投げつけ、口汚くののしり始めた。
それを聞きながら店主はめんどくさそうにため息をつき、話始める。
「お客さん、ここは天下のドフフ王国ですぜ、いくらあんたが高貴な第一世界の出身でも、ここではみな平等に扱われるんですぜ」
男は、顔を真っ赤にして反論する。
「うるさい、私は誇り高きロマリア"皇国"の.....海軍士官だ!」
突如、店内は爆笑の渦に巻き込まれる。
「はっはっはっ、お客さん方、聞いたかい?あのヘタレのロマリア皇国の士官様だってよ!欲張った挙句、極東の無名国家に滅ぼされた雑魚国家の士官様のお出ましだぞう!」
その語りにまた店内は爆笑が巻き起こる。
その男は完全に顔を真っ赤にしてきさま~!とか言いながら杖を抜こうとする。しかし、誰かが『フライ』の魔法をかける方が早かったため男はたちまち空に浮き、狼狽しているところを駆けつけた保安官に運ばれていった。
ふたりは、これでもかというほどドフフ王国を味わうのだった。
翌日、飛行場にて
必要な貢物の積み込みも終わり、いよいよ使節団はエルフの国に向かって大空に羽ばたいていく。
魔導エンジンが風の流れを作り出し、機体はますます速度を上げる。
はるか真下の海面はキラキラ輝き、まぶしい。




