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砂漠の真ん中に建設された都市。真っ白く意匠を凝らし、金銀で飾られたビルは天に届くかのように立ち、しかし景観は保たれている。
砂漠の真ん中なのに不快さは一切感じないよう、高度な技術で快適に保たれた街。
夜なので、魔導灯の明かりが街を照らす。
その中でもひときわ大きく、放射状の大通りの中心部にあるビルの一室。執務室のようだ。
チリンチリンと呼び出す小鈴の音がなる。
「なんだ?入れ。」
この部屋の主が入室を許可し、部下が入ってくる。
「中央聖魔導帝国首都に例の蛮族の軍勢が終結しております。かなりの数です。」
彼は耳が長く、長身、真っ白い肌。
そう、エルフである。
主は天井のシャンデリアを眺めながら、考え込む。
「ふむ、状況は?」
「はっ、遅くても明日の午後には事が始まるかと。」
「そうか。」
部屋の主は大きな窓の前に立ち、夜空の月と対面する。
彼も耳が長い。
「人間の助けをするのは癪に障るが‥あの国には父上が世話になった。受けた恩は100倍にして返すのが我が種族の流儀だ。そうだろう?」
部屋の主が部下の方を向き、椅子にもう一度座る。
「私の配下の艦隊を派遣しろ、そうだな‥機械竜と母艦も含めてな。」
「御意」
主は指を回すと、羊皮紙が部屋の隅から飛んできて、羽ペンがすらすら動いて文字が書かれる。
印鑑が押され、巻かれて出した手のひらに乗る。
「持っていけ、私から奴への伝言だ。」
部下は消えて行った。
夜は更けるのだった。
ヤマート共和国 首都トンキン 国民議会
総統が発言する。
「では会議をします。」
「はい、まずは今我が国が交戦中のオブシウス帝国についての情報ですが、メガラオテニア付近に布陣、各地に作った飛行場からの航空支援でここ数日の間に攻め込むものと考えられます。」
「うむ、陸軍卿、報告ご苦労。」
「そしてこちらの方が重要です。あああ帝国の空母を撃沈させたオブシウス帝国の艦隊が接近しています。このままだと、数日後には首都近海に到達する見込みです。」
「そうか、まずいな...」
「ううん、そうだ、ちょうど第一艦隊を派遣してみては?」
第一艦隊、空母5隻、防護巡洋艦8隻、戦艦4隻、装甲巡洋艦6隻からなる艦隊だ。
あああ帝国の軍事顧問の指導により、ここ数か月で、かなりの練度に達していた。
「兵たちの士気は万全であります。総統、どうか彼らにやらせてみては?」
海軍卿は、総統に力説する。
「うむ、なら、頼んだ。この戦いには共和国人民の命運がかかっているのだ。期待している。」
「はっ!」
海軍卿は、礼をする。
「で、次だが、オブシウス帝国の使用した兵器の詳細が現地から上がっている。当然皆、目を通したはずだが...」
「でもこれらの兵器は、正直見間違いだと思います。追尾する兵器や、近くで炸裂する砲弾。科学技術では実現不可能だと考えられます。エルフの兵器ならまだしも....」
「そのとおり、その可能性が出たのだよ。」
会場がざわめく。彼らも1度は見たことがある。機械竜、魔導信管....
すべて人間離れした兵器の数々。
「静粛に、ある筋の話だが、現地の報告では明らかにエルフ製兵器の可能性が高い。もし事実なら、人類そのものの存続が危ぶまれる。」
「そこで、エルフの国に使節を派遣して、交渉することにしたのだ。」
「はっ、そのとおりであります。総統」
外務卿が発言する。
「かの地に向かわせる者は、こちらも選りすぐりの人物を選定いたしました。皆、頭脳明晰、強靭な精神に恐れを知らぬ、愛国者ばかりです。」
「うむ、よろしい、では、各々最善を尽くせ。」
トンキン港から、第一艦隊が出航した。
第一艦隊司令イワタは、遠ざかる共和国首都トンキンの街並みを見ながら、横に控えた、戦艦ヤマート艦長ノムラとともに、艦橋に立ち、出航の指示を出してゆく。
空は晴れ渡り、海は穏やか。
「両舷前進微速」
『ぜんしんーびそく!よーそろー』
やがて操船は安定する。
戦艦ヤマートも、あああ帝国の指導と、戦訓を受けてかなりの改修を受けている。
まず、連絡に伝声管を用いていたが、艦内電話機による通信を用いるようになった。
魔導機関も換装され、開発中だった魔導エーテルを用いるタイプのものに換装され、効率が上がり速力の向上につながった。
そして、最も大きな変化が、敵を見つけるための魔導警戒機という魔道具だ。
もともとヤマートにも探索用魔道具の一種である『帝王の遠眼鏡』は存在したが、これは近代的な海戦には不向きである。
そこで開発されたのが、魔導警戒機1型である。
火石、風石などのプラスとマイナスのような関係を持つ魔石同士は魔場を形成し、魔場には、金属製の物体が魔場内に侵入すると魔法の位相が変化する性質がある。
これより、数隻の艦艇で常に魔場を形成し、そこに敵艦隊が入り、魔場が乱れると魔測員のヘッドフォンにザーザーという雑音が入る。
これを敵の探索に使うのだ。
試験では、あああ帝国基準で戦艦70km、航空機20㎞でぎりぎり探知できた。
勿論、帝王の遠眼鏡は全見張り員に配備された。
艦隊は、その日の未明に北端のキタカイドウ州軍港に入港。ここで敵発見の報を待つことになる。
一方、トンキン飛行場
ここには、飛行艇X-4型の改良型の輸送機が、3機、エンジンをかけたままで待機している。
「サイトウさん!こっちです!」
「ああ、ありがとう。」
背広の男2名は、一番建物から近いところに止まっている、R-3型旅客機に乗る。
R-3型は、外交官色のえんじ色にに塗られ、翼には3発の900竜力魔導エンジンを備える。旅客機だ。定員4名。
「ふう、飛行機械だと...丸一日空の上か。」
「サイトウさん、緊張してるんですか?」
サイトウと呼ばれた男、ヤマート共和国1級外交官の男は、そう部下に指摘される。
無理もない。今回の仕事は、エルフの国へ向かうことだ。
最近でこそ対話が可能になったが、ひと昔前だと下手したら一生それっきりというのもあり得たことである。
とはいえ、今でもその可能性は十分にある。着いた瞬間に、殺される例だっていくつもある。
ということを部下に語っているうちに、ほかの物資の積み込みが完了したため、飛行機械たちは、ぞろぞろ滑走路に向かう。
ブロロロロロ....
「.....」
「.......」
ふたりとも、黙り込む。
やがてふわっとした、体が浮いたような感覚がし、大空に舞う。
機は、第三世界北西部のドフフ王国にて補給のち、エルフの国のある極北部へ向かう。




