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5月19日 オブシウス帝国領 旧ルミニア皇国 ルミニア城
かつて列強と言われ、中央聖魔導帝国、ヤマートと並んで北方のエルフとの戦の際は先陣を切って一番杖を競いあった北の大国も、いまは皇都に空に漂うのは無数の超文明の飛行機械と様々な電磁波。
貴族たちの色とりどりの馬車は黒いガソリンエンジンの煙を吐きながら進む自動車に変わり、北方エルフたちの貿易の帆船は蒸気船に変わった。
そんな皇国の優美さと力の象徴たる城は、今は統治府として使われ、軍の司令部がある。
で、会議が開かれる、内容はもちろん空母撃沈の話。
爆撃隊は半分帰ってこないし、ヤハラート半島は陥落するしで怪奇現象続きでくらい所にうれしいニュースが飛び込んできた。
「よし、皆そろったな、では始めるぞ、おい君、配ってくれ。」
第3方面軍総司令官リヒツェンハイン大将が指示を出す。
「はい。」
参謀将校が、タイプライターで書かれた文書を全員に配る。
「まあすでに知っていると思うが、第21任務艦隊が敵上陸作戦を妨害、所属不明なるも敵航空母艦を撃沈させたとのことだ。」
「ヤマートには航空母艦はないため、かの国の同盟国あああ帝国の航空母艦であることに違いありません。」
すると、ある将校が質問する。
「質問だ、戦闘経過報告には、戦艦主砲弾を誘導弾で撃墜したと書いてあるが、これは正しいのか?」
皆の思っていた質問であった。
「そうだそうだ、いくら戦艦グリンストンが旧式だからと言っても、戦艦の主砲弾など、撃墜できるわけなかろう。」
「司令が虚偽の報告をしたのではないか?」
将校たちが次々に言う。
すると、司会役の参謀とは別の参謀が発言を始める。
「はい、たしかに報告を受け取った時、我々参謀の間でもかなり議論がありました。しかし乗組員に実際何人も証言するものが水兵にもいましたし、我々は可能であると判断しました。」
参謀は続ける。
「本国にも相談したところ、我が国の射撃管制装置並びにレーダーの技術であれば不可能であるが、もしもあああ帝国の技術が我が国より20~30年ほど先駆けているのであれば、それは十分に可能であるという旨の返答がありました。」
会場がざわめく、そりゃあそうである、今の参謀の言葉は勝てないという意味に聞こえる、誰だって部下を殺したくはないだろう。
リヒツェンハインが手を掲げ、皆を黙らせる。
「皆静かに、続きを頼む。」
はい、といって頷いて説明の続きを始める。
「しかしさすがの彼らもそのような芸当はたった1度きりだったということで、そこまで脅威ではないと考えます。」
そして参謀は一礼して、また隅に控える。
「と、言うわけだ。で、また新兵器が届いた。4ページを見たまえ。」
皆一斉に配られた紙をめくる。
そこには新型の爆撃機の写真並びに性能、武装配置図が鮮明に印刷されていた。
「高度10000ガーレルで時速497キレーだって?」
「これは、すごい!」
新兵器に皆ざわめく。
「はい、これは新型の爆撃機です。航続距離は6000キレー、エンジンにはターボチャージャーがついており、電装品も我が国の最新鋭の物がついています。少し不備が見つかったようで、投入が遅れたそうですが、その代わり当初の倍、400機届きました。ただいま当該部隊に引き渡し、習熟訓練中です。」
「フム、そして新型戦闘機もあるそうだな?」
「はい、その右に印刷されているのは新型護衛戦闘機、フルオライト型戦闘機です、これはテルニウム型に追従し、護衛のためにだけ開発された新型高高度戦闘機です。特徴は卓越した防弾性能と安定した形状です。高高度においても高い生存性を保ちます。」
「こちらも部隊に引き渡され、習熟訓練中です。」
「オリオン作戦もいよいよ大詰めだ。皆最後の勝利に向かって突き進むように、いいな?」
「はっ!」
同じころ。あああ帝国 帝都アアアシティー 国防省会議室
全軍総司令部総司令官、陸海空戦略ミサイル軍参謀本部参謀総長、ようするにあああ帝国軍で一番偉い人達が並ぶ。
そして、あああ帝国外務省対外情報局の局員も会議に参加していた。
議題は空母沈没の件。同じ議題でも国が違えば朗報だったり悲報だったりするもんである。
「やはり海軍の慢心が原因ではないか?人民の血税を海の藻屑に変えた海軍の責任は重い。」
まるで吐き捨てるかのように陸軍総司令官アンドレイ・アアアエフは海軍を責める。
「フン、陸軍が敵をきちんと蹴散らすことができていれば、我が最新鋭空母は沈まなかったのではないか?」
海軍総司令官カビブ・アアアソフが応戦する。
「待て待て、言い合いはするな。まず現状を整理しよう、責任追及はそのあとだ。参謀、説明しろ。」
全軍総司令部総司令官がそう発言して、参謀本部参謀総長が今は言っている情報を皆に説明し始める。
「はい、オブシウス側よりヤマートに通達があり、それを今朝我が国大使館が受け取ったのですが、航海長など艦長は皆艦と運命を共にしたとのことです。なお、その他の乗組員に関しては、オブシウス側に保護されたとのことです。」
「ふうむ、我が国としてもそろそろ本気にならなくてはならない、戦争とは政治、外交の一種なのだよ、そこで、外務省はとにかくオブシウス帝国とコンタクトをとることにしたようだ、戦時中だからな、まあできても捕虜交換や戦時条約の締結程度だろうが。」
「はい、降伏のサインや捕虜の待遇は特に情報交換しておかなければなりませんから。」
「でだ、いよいよ反攻作戦を発動しなければならない。おい、作戦要項を配れ。」
紙が皆に配られる。そこには、『大陸横断作戦について』と印字されていた。
「これは?」
「まあ読みたまえ。」
「むっ!これは!?」
皆が驚く。無理もない。そこには異世界のみならず史上最大の作戦が書かれていたのだから。
戦車3万両、航空機1万機、艦船数千隻余を投入した大規模反攻作戦。
まず、大陸東部、ボトフ基地あたりに強襲上陸した第一梯団が一斉に大陸中央部めがけて前進する。第一梯団が息切れを起こすと、すかさず第二梯団が再び進撃を開始する。そして第二梯団が息切れをすると....とくりかえしていき、頃合いを見計らって大陸西部、中央聖魔導帝国首都付近より上陸した部隊も中央部めがけて一気に前進し、合流したのち、北部に突き上げをかけて、敵を追い出す。
それは、かつての縦深戦術の完全なる模倣であった。
「いいか、この作戦で、異世界人どもに帝国のおそろしさを、我が国の顔に泥を塗った罪の重さを徹底的に不埒な異世界人どもに理解させなければならない。」
全軍総司令部総司令官は、彼の左側に座っている情報局の2人に目配りしつつ発言する。
「はい、そのためにも、まずは奴らに徹底的に恐怖を植え付けなければなりません。そのためにも情報戦は必要不可欠であります。」
一人が発言する。
「ほう、具体的にはどんな作戦を考えているんだ?」
海軍総司令官アアアソフが発言する。
「はい、我が国が調査したところによると、捕虜からの聞き取りによると、かの国にはテレビジョン放送が実用化されており、なんとその方式は我が国と同じものあると判明しました。」
続ける。
「そこで、すべてのオブシウス人民に周知させるためにはこれを利用すべきだと考えます。具体的には、明後日の午後8時より、人工衛星より我々情報局が制作した特別な番組をオブシウス全土に約8分間にわたり放送します。発信元不明の不気味な映像に彼らの生産意欲や士気は下がると考えます。」
情報局員が誇らしげに言い終わると、軍人たちは皆感心して頷く。
「そして、海軍につきましては、本土付近に展開中の原潜より、巡航ミサイル2発を、沿岸部に発射していただきます。この狙いは本格的な生産活動妨害というよりかは、敵に我が国の槍はここまで届くということを知らしめるのと、不気味なボヤのような恐ろしさを感じさせるのが目的となります。」
「と、言うわけだ。各員その職務を全うするように。」
その日の夕方、情報局所属の第298特別偵察飛行隊の、4発偵察機E-78が2機、護衛のMiG-29が4機、空中給油機IL-78が2機、西部飛行場より離陸。ノバエテラーエ国際空港やロマリア皇国の西のドフフ王国にて補給に空中給油を繰り返して、翌日昼頃にヤマート共和国首都トンキンに到着した。




