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戦艦グリンストン
「目標、大きく回頭しています。」
「逃がすな。敵はしょせん手負いの空母だ。」
司令が指示する。
「敵艦の火災は鎮火したようですね。」
「うむ、輸送船はすべて沈めたし、大戦果だ。老艦グリンストンもまだまだやれることを見せつけるぞ」
ドォーンと、主砲発砲音、巨弾は敵に向かって飛翔する。
「敵弾来ます!残り30秒!」
グレートアアアウス6世の艦内コンピュータは高速飛翔する弾丸をレーダーでとらえた後、瞬時に敵の予想針路を計算、迎撃に必要な仰角や諸元を瞬時に計算し、自動で迎撃できる....のだが...
これは航空機やミサイルなどの話であり、戦艦の主砲弾を迎撃するなどという芸当は考えられたものではない。
しかし、やるしかないのだ。そんな空気が艦内に漂っていた。
その時、オペレーターが叫ぶ。
「ミサイル発射されました!」
ミサイルは発射筒から勢いよく飛び出し、計算された方向に母艦からの誘導で飛翔する。
やがて砲弾付近に達し、近接信管が作動して、砲弾は木端微塵になった。
レーダースコープ上では、接近を続けていた主砲弾が消え去る。
「やったぞ!迎撃成功!」
そのころ、グリンストン艦橋では混乱が発生していた。
「な、なんということだ!」
艦長は、とても驚いた様子でつぶやく。
「敵、主砲弾、迎撃しました....」
艦橋員も驚いた様子で報告する。
皆、開いた口がふさがらない。
目の前で衝撃映像を見せられたのだから無理もないだろう。
「うろたえるなああ!」
司令が叫ぶ。
艦橋員は皆それにひきつけられる。
「敵が我々より優れた武器を持っているのはいまの一瞬で把握できた。なら数で圧倒すべきだ!」
「主砲再度攻撃用意!!」
また発砲される。
「主砲発砲!」
「何!?迎撃急げ!」
「間に合いません!」
近すぎてうまくレーダー波が当たらないため、計算できないのだ。
「手動でCIWS迎撃はじめ!」
艦外では、迎撃がされるが、間に合わない。3発がこちらに向かってくる。
それらはグレートアアアウス6世の右舷に着弾する。
薄い構造用鋼を突き破って、船首部兵員居住区を廃墟にする。
「ひ、被害報告!」
「兵員居住区、火災発生、消火作業中。」
「次弾くるぞぉ!備えろ!」
再び轟音。
艦内は大きく揺れ、次は吃水線下に着弾する。
「うわあああっ」
「艦長!大丈夫ですか!?」
「ああ。大丈夫だが....」
「被害報告!右舷航空燃料タンクおよび主機室に2発着弾。浸水過多。」
「左舷注水、急げ」
「艦傾斜6度。」
まだ砲撃は続いている。
また着弾。
「復元不能!」
「消火できません!最下甲板完全に火の海です!」
「エンジン修理所と連絡できません。」
もうどうすることもできない。
艦長は艦橋員の方を向く。
「みな、私によく最後まで付き合ってくれた。しかしいくら航空母艦でも2隻の戦艦にかなうはずがない。そこは私の判断が甘かった。すまない。」
艦長、続ける。
艦内が煙たくなってきた。火が近いのだろう。
「私の下す最後の命令だ。総員退艦せよ!」
「はっ」
皆敬礼で応える。
「敵艦炎上しています!」
「よし、砲撃止め。」
「レーダーより後方に数隻の敵味方不明の艦隊が接近していますが?」
「そちらを追うぞ、転針!」
艦隊は向きを変えて戻ってゆく。
さて、艦長最後の命令は、艦の隅々まで伝わった。
攻撃により電源は失われていたので、生き残ったわずかな艦内放送の回線を通じて兵士たちに伝えられた。
『艦長より全水兵および士官へ告ぐ、総員退艦命令発令、総員飛行甲板に集合せよ。繰り返す...』
ライフジャケットを着た兵士たちはタラップを上り、飛行甲板に集合する。
「そういんたいかんー!登れー!」
届かないところにも伝令され、口伝いに情報は伝わってゆく。
そして、6時18分。
「第23分隊、欠員なし!」
「よし、皆いるな。よし、船を出せ。」
水兵は非常用の救命艇数十隻を海面におろし、皆乗りこんでゆく。
戦闘艦橋
「全区画退避完了しました。」
「残りは我々だけです。さあ、行きましょう。」
副長が手を差し伸べる。
しかし、艦長は首をゆっくり横に振って、
「いや、私はここに残る。私の艦ととも逝ける。軍艦の艦長としてこれほど冥利に尽きることはない。」
艦橋員やオペレーターたちは甲板に登ろうとしない。
傾斜はどんどんきつくなり、部屋はどんどん熱気を帯びてゆく。
「では私たちもお供をいたします。」
「いや、君たちは行きたまえ。」
しかし艦長は、少し微笑みながら、
「まあ君たちのことだ。行けと言ってもいかんのだろうなあ...」
目には涙が浮かんでいたが、それは悲しい涙ではなさそうだった。
ギイイイイイイっという沈む音がする戦闘艦橋。部屋は真っ暗である。
♪~おお国祖よ聖なる地に舞い降りし国祖よ
偉大なる皇帝陛下を護り給え
偉大なる祖国を永久に護り給え‥
皆であああ帝国の国歌を歌い、だんだんと海水に満ちていく。
「おい早くしろ!」
「爆発するぞ!」
「漕げ!せーの!」
「おい、後ろ見ろ!」
誰かが叫ぶ。
救命艇の水兵たちは後ろを見る。
「見ろよ....俺たちの....」
「あぁ.....」
皆大きな軍艦、『グレートアアアウス6世』が沈むのを眺める。
どぉぉぉぉん
「うわあっ」
グレートアアアウス6世は、大きな爆発音とともに真っ二つに割れ、そのまま2つの船体が沈んでゆく。
救命艇では、とりあえず自分たちは一応危機を乗り越えたのだという安堵感や恐怖心で手を取り合うもの、敬礼するもの、唖然とするものなどが見受けられた。
この後、彼らは駆けつけた敵駆逐艦に発見され、そのまま救命ボートごとボトフまで曳航された。
艦には艦橋要員20名弱が残っており、艦と命運をともにした。
霧は晴れて、水平線は真っ赤な夕日に燃え、ただ静寂が周りを支配していた。




