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「.....い!おい!」
その声で目が覚めた。
私は何をしていたのだろう。
そしてどこにいるのだろう。そんなことを考えながら瞼を開ける。
しかし何も見えない。目はしっかりとあいているのに、光がないのだ。
前のほうに何か白いものが見えた。
私はそれに近づく。というよりもそれにひきつけられたのである。
人の輪郭のようなものが見え始めたと思った矢先、それがだんだんと見覚えのあるものだとわかった。
「お、お前は!」
すれて破けて、土で汚れくたびれた70年野服。傷だらけの鉄帽。
それは、忘れがたいものだった。
「アアアードじゃないか!」
ありえない。やつは30年前に戦死したはず。現実世界にいるわけが...そうか、ここは死者の世界なのだ。
そんなことを考えているといろいろ思い出してきた。
確か私はあの日、暴漢と武装集団の凶弾の前に倒れたのだった。
そんなことを考えていたら、
「そうゆう思い込みの激しいところはあの頃から変わってないな。安心したぜ。総理大臣さん。」
思考を読み取られた。
「アアアード!ここはどこだ?暗くて寒いが...」
「ああ、お前の考えで大体あってるよ。それよりあん時の借り、まだ返してもらってねえな。いつ返してくれる?」
「お前死んだんだから借りもひったくれもないだろアホ」
「フハハハハハ」
「フハハハハハ」
アアアードは笑う。
私も笑う。
「こうやってお前と一緒にいると、あの頃を思い出すな。お前も出世したなあ」
「お前こそ、太ったんじゃあねえのか?」
「もともとこんな感じだぜ。まったく。あの地獄は最高のダイエットだったからな!」
ジョークを飛ばす。
それで笑う。
あの頃と同じ。毎日駐屯地でこんな会話をしていた。
あの日までは。
「お前たち。仲がいいのは変わらんのだな。」
1人の男が近寄ってくる。
見忘れもしない。分隊長である。
時にはやさしく、そして厳しい。俺たちの隊長だ。
「これはこれは分隊長殿!アアアスキーめが備品を横流ししたので、憲兵に突き出すところでありました!」
「ふはは、これは軍法会議ものだなあ」
「ちょっと隊長~」
隊長は、私のほうを向くと
「活躍は聞いているぞ!総理大臣になったんだってなあ!大出世じゃあないか!」
「いやあ隊長殿の活躍に比べればたいしたことないですよ!」
「フハハハ、その謙遜もあの時とまったくかわっとらん。安心したよ!」
そして隊長は懐から時計を出して答えた。
「もうそろそろ行かないと行けない時間だ。アアアード、いくぞ」
2つの光は、遠ざかっていく。
「待ってください!わたしもご一緒させてください!」
「駄目だ!お前にはまだやらないといけないことがあるはずだ!」
「それが終わるまで、せいぜい現世で過ごすんだな!フハハ」
「じゃあな!またいつか!」
2つの光は収束し、やがて暗闇が支配する世界に戻った。
「あ.....」
もっと話をしたかった。
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「......理!」
「............総理!」
「はっ!」
目を開けると、そこは病室だった。
周りには医者、そしていろんな人たちがいる。
「よくぞご無事で!」
「ここはアアアシティーですか?」
「そうです!」
「これほどの致命傷を受けて息を吹き返すとは....まさに奇跡としかいいようがありませんな。」
白髪の医者は、脈を取りながら分析する。
「いかなければ!私にはまだ遣り残したことが.....!」
しかし、立ち上がろうとした瞬間!腹部に激痛が走る
「うっ!.......」
思わず顔を下に向け、うずくまってしまう。
「総理、まだ傷口がふさがっていません。少なくとも1ヶ月は入院しないと.....」
「そ、そうか.....」
その後、いろいろ説明を受けたあと、みな出て行った。
1人の病室で、目をつぶってみる。
戦友たちの顔がまじまじと思い出される。
気がつくと、頬には1筋の涙が流れていた。




