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4月2日 朝9時
『では、今朝までに入っているニュースをお伝えいたします。昨日未明、我が帝国海軍と友邦ヤマート共和国軍、などで編成されている多国籍軍は、オブシウス帝国占領地域であるヤハラート半島に強襲上陸を敢行、同半島南端の要塞を激戦の末これを占領しました、帝国陸軍近衛第4騎兵師団隷下第11騎兵連隊は、海軍の強襲揚陸艦より、兵員約数百名、ミル24、ミル28ヘリコプターを伴って敵ヤハラート飛行場に対し強襲上陸を敢行、これを撃滅しました。これにより敵航空戦力は壊滅。その後日付変わって2日未明、敵守備隊は降伏したようです。』
壊れかけの自動車のカーラジオからは、朝の帝国中央放送が流れていた。
彼は今仕事場に向かう途中であった。あああ帝国で自家用車を持っているのはほんの一握りであるが、地方では他国の中古車がそれなりに普及していた。
なおこの車も先進西側諸国ではすでにだいぶ前に時代遅れとなったタイプであり、排気ガスは真っ黒いのを出しまくるし、エンジンは自国製パーツとオリジナルが混在し、カーナビはおろかエアコンすらなく、カーステレオなど空想の未来技術である。
そんなオンボロ車を慣れた手つきで操り、道を行く。
『...と見られています。次のニュース、昨日の帝国議会下院予算委員会で、軽空母20隻の建造が認可されました。これは.....』
ブチッ
キーを回し、エンジンを切る。
ドアをバタンと勢いよくしめ、外套片手に外へ出る。
彼の名はアアアジェフ。缶詰工場の技師である。
事務所の入り口で、なにか押し問答をしている様子が見えた。
「そんなぁお役人さん、そりゃあいくら何でも横暴じゃあありゃせん?」
「黙れ!これは中央政府の指示だ。それとも貴様は国家反逆者として処罰されたいのか?」
黒服の男2名が、作業服の中年、缶詰工場の工場長に絡む。
「工場長~どうしたんですか?」
「あーアアアジェフ君じゃないか!」
「話は終わっていない、いいな、明日までにAレーション8000個納品しろ!いいな?できなければ無期限操業停止だからな!」
「そ、そんなぁ....」
というと、黒服の男たちは、傷1つない完璧に磨き上げられた高級車で、帰っていった。
「工場長、ひどいですねあいつら、まったく...」
「ああ、まだ今月のノルマ半分残ってるのに....」
「ええ、政府は我々平民を使い捨て程度にしか思っていないのです。まったく、この前なんかあいつら(※)があんなに我々が死ぬ気で収めた税をあんなことに使ったり....」
「まあ、やるしかないよなぁ、よし、今日も働くかぁ」
工場長、膝をポンと叩いて立ち上がり、歩いて行った。
同じころ アアアストク アアアストク駅
駅のプラットフォームには、びっしりと外套を着こみ、ウシャンカをかぶった皇帝親衛隊員たちが儀礼用の自動小銃をもって一列に整列している。
その列は駅を超えて沿道まで伸びていて、その後ろからは、周辺住民や、非番の警官、休暇の海軍士官学校の学生たちがまるで見世物を見るかのように背伸びしたりして、要人が来るのを今か今かと待っている。
ガヤガヤ ガヤガヤ
「おせーなー」
「だれが来るんだ?」
「俺もしらねぇよ」
「おい、うるさいぞ!」
「本物の銃だ!」
「親衛隊だぁー」
『おい!列車が来たぞ!』
一斉に群衆の目線が線路の方へ向く。
しかし、そんなことには目もくれず、親衛隊員たちは主君を迎えるため、直立不動の姿勢を崩さない。
「すげー豪華だ!」
「御召列車だ!すげー!牽引してるのは帝国国鉄のなんたら系だ!」
パシャパシャとカメラの音がしたりする。
やがて列車は群衆の前を通り、アアアストク駅に入線した。
御召列車 車内
車内はこれまた宮殿と同じようなつくりになっており、客車であるとは全く感じさせず、意匠を凝らした室内、ベルベットの絨毯がひかれ、様々な調度品、琥珀や金箔などで装飾された客車は、まったく揺れずにアアアストク駅に近づいていた。
皇帝の正装に身を包み、ベルベット敷きの椅子に腰かけるアアアーラ。
その横にはアアオールが控え、世話をしている。
「殿下...失礼しました陛下。まもなくアアアストク駅に到着でございます。」
「ハハハ、まだ即位式をしていないからまだ『殿下』で構わんよ、それにお前と余の仲だからな。それにしても意外と早かったな。かつて父上とともに来たときはほぼ丸一日かかっていたような気がするが....」
それはアアアウス19世たち皇族がお忍びで旅行した時の話であり、基本的に御召列車が運行される際は、その時間帯通行予定だったすべての通常の特急や列車が止まりほぼノンストップで目的地まで進むので、早いだけであるが知る由もない。
やがて駅に入り、列車はゆっくりスピードを落とし始める。
窓からは並んだ親衛隊員がまるで精巧に並べられた置物のように車内からは見える。
そして、列車はギィィィィィと音を立てて停止した。
外では、アアアーラのいる客車の扉との間には隙間をふさぐスロープが設置され、赤いじゅうたんがひかれ、さらにはSPがたくさんおりてきて警護を開始する。
係員たちはテキパキ慌ただしく動き、要人の訪問の準備を進めている。
「おや、もう着いたようです。ささ、準備を」
「うーむこの服は動きづらい」
「殿下、メディアに露出するときは身なりからきちんとしないと。特に陛下は存在が人民にあまり知られていませんから。プロパガンダは大切ですよ。」
「父上の苦労がしのばれるなぁ」
「お?準備が終わったようです。行きましょう」
「殿下に対し~捧げぇぇぇ銃!」
「かしらぁぁぁ右!」
♪~
軍楽隊が演奏を始め、儀仗隊がアアアーラを歓迎する。
奥には、3台の高級車が控えており、ドアが開けられ、アアアーラはアアオールとともにそのうちの1台に乗り込む。
やがて、SPに囲まれた自動車は加速し、プラットフォームを出て、道を走り始める。
沿道には、親衛隊員と、群衆が集まり、すごいことになっていた。




