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ヤハラート ヤハラート総督府
夜の小高い丘の上に作られた洋館は、電気がついておらず、ひっそりとした雰囲気を醸し出している。
しかし、逃がさないかのように帝国軍の装甲兵員輸送車や、戦車が取り囲んでいる。
その地下には、指令室がある。
「だ、大隊長!敵が防衛ラインを突破!建物が包囲されました!」
「おそろしい機甲戦力だ....とてもかないません!」
「」
「ふむ、そうか、もはやこれまでだな...」
ルドルフは、そう呟く。
すると、部下たちの方を向き、しゃべり始める。
「お前たちは裏口から脱出しろ。北の方に向かえば友軍の陣地に到達するはずだ。お前たちのような人材が我が国から失われては皇帝陛下に面目がつかない。」
しかし、部下たちは首を縦にはふらなかった。
「いえ、少佐殿、少佐殿のような方が犠牲になり、アレクサンドルのような人間が生き延びる、そんなことは受け入れられません。どうか少佐殿がお逃げを...」
部下たちや、通信員、護衛の衛士までもが、少佐の方をじっと見つめて、同意する。
上の方が騒がしい、おそらく敵が突入してきたのだろう。
怒号のような音が飛び交い、足音がうるさい。
「お前たち.....ほんとにあの時とかわらないな。」
ルドルフは、笑みを浮かべながら、きっと帽子をかぶりなおしながら言った。
「よし、もうここはだめだ、私は降伏しようと思うが、どうか?」
部下たちは、うなずく。
「よし、どうせ降伏するのだ、敵共にオブシウス帝国軍人として恥じらいのない姿を見せつけてやろうではないか!」
「はい!」
部下たちは涙を浮かべながら一斉に同意した。
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「ここが司令室か!」
「進め!オールクリア!」
バキューンズガガガガガ
敵たちの声がする。どうやらもう地下室を発見したようだ。
ドガンッ
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「突入!」
インターカムで隊長の声がして、一斉にドアを破壊して隊員たちは薄暗い部屋に突入していく。
「動くな!抵抗するな!」
自動小銃を掲げ、射撃できるようにする。
異世界人に言語が通じるとは思わなかったが、アアアチェフやアアアロフも実戦が初めてなので、そんなことにかまうような余裕がなかった。
中には、黒い軍帽にマントの男が椅子に腰かけ、その上にはランプが灯っていた。
周りには、同じような服装の人物が並ぶ。
「....?抵抗はなしか」
すると、その異世界人たちは、行儀よく床に片膝をつけ、胸に手を当ててひざまずく。
これがアアアチェフやアアアロフ達にはなんの意味なのかは分からなかった。
これはオブシウス帝国での降伏の合図で、最高位の敬礼なのだが、この時は知る由もない。
「......?」
後ろがざわつく。どうやら後続の部隊もここにようやくたどり着いたらしい。
そこからは身振り手振りの会話が続く。
まあ要するに降伏するとのことだったので隊長は、本部にどうするかを問うことにした。
その結果、話を大隊長が聞くからこいとのことだった、迎えの車が来た。
ルドルフと、部下数名は、それを承諾した。
んで、場所は変わってヤハラート飛行場。
航空機の残骸は、工兵隊のブルドーザーがすべてどかしたので、何にもないアスファルト張りの地面が露出していた。
周りには89式戦車が並べられており、それはあああ帝国の技術力を物語る。
「(見たこともない装置が取り付けられている....やはり田舎の旧式装備では太刀打ちできなかった、か。)」
ルドルフは帽子をかぶりなおした。
やがて車が止まり、ドアが開けられ、護衛のあああ帝国兵士が道を先導していく。
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天幕の中
大隊長アレクセイ・アアアノフは、椅子に座って今か今かと敵将の到着するのを待っていた。
「敵司令官、参られました!」
アアアノフは、それを聞くと、直立し、敬礼の姿勢をとる。
それをルドルフは、目の当たりにする。
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「私は敗残の将です、私の処遇は構いませんから、兵卒に至るまでどうか手厚い処遇を保証していただきたい。」
ルドルフは、オブシウス帝国語で話す。
勿論そんな通訳いない。しかしあああ帝国側にヤマート語からあああ帝国語への通訳はいたので、オブシウス語からヤマート語に変換し、それをあああ帝国語に変えるというちぐはぐな方法で意思疎通を行った。
室内には快適な空調が設置され、電気のランプがテントを明るく照らす。
「心配いりません。1兵たりとも不遇な扱いはしません、皆さんは我が国の所定の場所にて、この戦いが終わるまで安全に保護され、戦後は復帰がみとめられるでしょう。」
「今は信じましょう。」
「それよりもあなたたちには驚いた。まさか旧式の兵器で、我が軍の兵器を3両も撃破するだなんて想定外ですよ。個人的に敬意を表します。」
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4月2日 6時
朝日は再び水平線から頭を出し、もう夜明けは近いと知覚させる。
沖合の揚陸艦から出てきたホバークラフトは89式戦車や、その他物資を荷揚げしている。
飛行場の隅。ヤマート用のブースでは、ヤマダとアオキや分隊員が、食事を行っていた。
周りには木箱が並べられ、簡易ながらも肉がふるまわれている。
ほぼ丸一日レーションだけで走りまわっていたヤマート兵たちは、これらをすぐに平らげてしまった。
「これはうまい!まさか戦争中でも牛肉の缶詰が食べられるだなんて」
ヤマダは、口元にソースをいっぱいつけながら、大声で話す。
「いやーそれにしても疲れた。1日くらいゆっくりしたいね。」
すると、救護室で処置を受けていた百戦錬磨の分隊長がかえって来た。
包帯がまかれている。
「おーい、今日の夕暮れまで各自で休息をとっていいそうだ。そのあとは、地獄の行軍だぞ。」
「本当ですか?」
「ああ、なんともあああ帝国の方針だそうだ、まあお前たち。ゆっくり休め」
「はいっ!」
日はどんどん上っていき、ついにはまばゆい光がヤハラート市街地を包み込む。
移動用のトラックや、沖合の艦船を照らし、神聖な雰囲気を出す。
ヤマダやアオキ達が望めなかったかもしれないオレンジ色の光、
2人はそれを感謝し、必ず生き延びるという決意をしたのだった。




