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オブシウス帝国 首都オブシディアン 4月1日 夕刻
摩天楼が所狭しと並び、天高くそびえ、計画的に整備され、きっちりと等間隔で引かれた道には、自動車が絶え間なく走り、信号が変わると一斉に自動車が止まったりあるところでは動きだしたりを繰り返す。
道端の商店のショーウィンドーには、意匠を凝らした服がたくさん並び、電気で彩られたネオン管の光がまばゆい歓楽街は夜を知らない。まさに大国。
同年代の地球でもここまで栄えた国はないだろう。
ロマリア皇国(いまは共和国)から人をヤマート首都トンキンとオブシディアンを訪問させ、どちらが強いか聞くと、間違いなくオブシウス帝国だと口をそろえて言う、そんなメガロポリス、オブシディアンの郊外に、オブシウス帝国の司令塔ともいえる合同庁舎(通称ヘキサゴン)は存在した。
その名の通り6角形の城壁のような見た目をしており、その角の所には塔のようなビルが建ち、そこに外務省などの省庁が入居している。
ヘキサゴン 国防省
国防省海軍大臣マンフレート・フォン・ローゼンは、窓際に立ち、窓の外に広がる大都会を眺めていた。
「だ、大臣殿!緊急事態です!」
ローゼンは振り返る。
「なんだ、君か、どうしたんだ血相を変えて?あ、そういえば中央聖魔導帝国首都への攻撃の件、どうなった。」
部下は焦って告げる。
「その攻撃の件についてです!下手をしたら、我が国の戦略まで変更しなくてはならないほどの大案件です!」
「ほう、どうした?」
ローゼンは、革張りの椅子に座り、樫の机を挟んで部下と向かい合った。
「現地からの情報ですが、だ、第四艦隊が、ぜ、全滅....」
「それは本当か?だとしたら緊急事態だ。我が国の計画を再構成しなければならないほどの。」
「はい、報告は書面で聞き返しました、しかし事実であることに変わりはないようです。」
「それと、唯一逃げ出すことに成功した艦がったようです。どうやら艦長は狼狽している様子で、化け物がいるとうわ言を繰り返しているようです。水雷長などは発狂していなかったので、聞き取り調査を行いました。」
「どうだ?」
「空か陸かそれとも海中か、それすらもわからなかったとのこと。ただ、魚雷が攻撃に使われたもよう。雷速はなんと370キレーは出ていたようで、誘導弾の可能性も捨てきれません。」
「艦は本国に回航され修理中。戦闘情報収集装置の解析が進められています。」
(戦闘情報収集装置:戦闘中のレーダー画面やソナーの音、艦橋の音声や艦速度を記録した装置のこと。オブシウス帝国の巡洋艦以上には標準装備されている。)
「ふむ、そうか、解析が終わり次第、陸海空の幹部を集めた会議を開くぞ。急いでくれ。」
「はっ!」
部下は出ていく。
「(化け物、か。)」
ローゼンは再び日の沈みゆく帝都の方を向き、受話器を手に取り、ある番号にコールする。
「ああ、私だ。例の件だ。」
「そう、新型爆弾だ。試験の調子は?」
「....そうか、良好か。では量産体制にすぐ入れるな。」
「....頼んだぞ、あれと組み合わせることで敵の中枢を一網打尽にできるのだ。『聖戦』をすぐに終わらせるにはこれしかないのだからな。」
ヘキサゴン 異界省
「...にして、ヤハラート半島への入植状況はどうなっている?」
スーツを着た40ぐらいの男、異界省大臣クリスチャン・デ・ミューヴィセンは、会議でそう問う。
「はっ、順調に進んでおります、現地の土人どもへの教育を行う学校や清潔な住居。下水道電気なども整備が進んでいるとのことです。」
異界省 第一局(第1世界担当)局長のニルス・ヴィルケ・フィルスマイアーは報告書を見ながら答える。
「うむ、人道第一主義の我が国を、よく表した統治方法だ。異界の蛮人どもときたら、植民地の統治も暴力的だからな。現地民への暴行や虐殺は絶対にあってはならぬということも伝えておけ。」
「わかりました。」
「で、次の話なんだが...」
「はい?」
「あああ帝国、を聞いたことがあるか?」
「情報局の資料で読んだことがあります。確か変な飛行機械があるとかないとか」
「ああ。フィルスマイヤー君のいうことで正しい。問題は我が国が遂行中の『聖戦』に反対する集団に属しているということだ。」
「でも彼らは飛行機すらまともに作れないはずじゃあ....?」
「そうだ、確かにそうなんだが、どうやら勝手が違うようだ、というのも、軍があああ帝国の情報を全力で収集し始めているらしい。」
ミューヴィセンは、手を組みながら、発言する。
フィルスマイヤーは、その発言に困惑する。
「?なぜ軍が?なぜそんなことをするんですかね?」
「うわさによると、かの国の潜水艦、しかもたった1隻に、第四艦隊が全滅させられたらしい、」
フィルスマイヤーは、驚く。
「えぇ!それは本当ですか?」
「どうやら確からしい、軍は秘匿しているようだが、参謀本部の同期が教えてくれた。ある1隻の巡洋艦が運よく逃げることに成功し、艦長や水雷長などが戦いについてはなしたらしい。」
ミューヴィセンは続ける。
「ある設計局員がひそかにあああ帝国の閲兵式を見学し、その兵器を撮影したという情報もある。もっとも、こっちは真偽不明で信じるに値しないかもしれないがな。」
「『聖戦』の遂行のためにも、あああ帝国の攻略は不可欠だ。そこで、君、君には第一世界の中心である旧ルミニア公国に向かって、現地から情報をもってきてほしい。数か月だけだから、頼む。」
フィルスマイヤーは、
「祖国のため、『聖戦』のためなら喜んで行かせていただきます!」
張り切って答えた。
「うむ、その意気だ、君は出世するよ。僕のお墨付きだ。」




