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中央聖魔導帝国 王都メガラオテニア上空
「な、なにが起きている!?」
「あ、あれは?」
入り組んだ三者が突然の現象に、驚き、狼狽し、慌てる。
三者三様の反応が戦場と化した王都を襲う。
突然、空間が裂けて、巨大な構造物が、そこにあるのが当然といういでたちで存在していた。
「?」
「?」
巨大な艦橋、そびえる主砲、湧き上がる白い煙、空に浮かぶ城。
巨大な主翼は地上に大きな影を落とす。
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「あれは...フィリンドリス共和国の、空中戦艦!」
捕虜になった中央聖魔導帝国の貴族が、医療班の手当てを受けながらつぶやいた。
「なんですかそれ」
一緒に捕虜になった大魔導士が彼に問う。
「ああ、私も歴史書でしか読んだことは無いが..」
貴族は続ける。
「エルフのやつらの軍艦だと聞いた。風石の力で浮遊し、固いオリハルコンでできたとんでもない魔力の兵器だと書いてあった...」
一同は、その言葉に戦々恐々とする。その攻撃が自分たちに向くものではないと信じて。
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オブシウス帝国側 指揮所 テント内
『正体不明の空中戦艦に対する一切の攻撃を禁ずる。繰り返す、一切の攻撃を禁止する。』
オブシウス帝国軍の指揮官たちは、未知の現象にも冷静に対処しようとする。
「何なんでしょう、あの戦艦は。」
「敵か味方か、まったくわからない。」
攻撃部隊の指揮官が発言する。
「まずは情報の確認だ。参謀、今のところわかっている情報を皆に伝えてくれ。」
「はい、出現したのは5隻、大きさは我が国のかつての戦艦とほぼ同程度であることが確認できています。」
それ以外は一切不明ですと報告した参謀は付け足す。
「うーむ、どうしたものか...」
敵が自分たちの敵か、味方か、あるいは冷やかしか、それどころか敵の戦力すらわからない。
まさに常識外れ、異世界での戦闘ということをいやというほど実感させられる。
「敵の攻撃は?」
「はっ、止んでおります。」
「今のうちに兵士に休んでおくように伝えろ、何かあった時には万全の状態で挑めるように。」
そう伝えた将校の額には汗が見えた。
「はっ!」
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空中戦艦、艦橋は、薄青い魔導灯に照らされていた。
壁や床はオリハルコンと神木で作られ、精緻な魔法陣がほのかに輝いている。
巨大なクリスタルでできた作戦盤の上に、オブシウス帝国兵たちが呑気に食事を摂っている様子が映し出されていた。
長耳の頭領——アストライオスは、腕を組みながら考え込む。
「...腰が抜けたか、余裕なのか...」
頭領が指示すると、魔導通信機の子機を士官のエルフが持ってくる。
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オブシウス帝国側 指揮所 テント内
「食事の味はどうかね 蛮人の勇敢なる兵たちよ。」
別の連絡が響いていた本部の無線機が、確かにその言葉を発した。それも、ノイズも一切なく。
「な、なんだ!? どこから……」
「通信が乗っ取られたのか!?」
しかし、通信は続く。
『私は、"空中戦艦"の頭領、アストライオス。君たちの頭領を出してもらおうか。』
『私がオブシウス帝国軍第三方面軍司令、ヴァルカンだ。要件を聞こう。』
『ヴァルカンよ、直ちにこの地域から軍を引け、これは命令ではなく脅迫だ。』
『アストライオス殿。それはできない、こちらも相応の目的があってきているのだ。』
ヴァルカン将軍は、きっぱりと、堂々と答えた。
『...とあれば、こちらも相応の物をお見せしよう。』
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「魔力、充填完了。」
「前部主砲、、魔導収束砲照準...完了」
「発射!」
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主砲の先端が紫色に光ったと思えば、光の弾が市街地の外のあたりに着弾、轟音とともに大きなクレーターを作った。
『見たかね?ヴァルカンよ、次は貴殿がその対象となるだろう。』
無線機が軋むような音を立てた。
『...』
ヴァルカンは無線機を握りしめた。相手は本気だ。だが、こちらにも策がある。
ヴァルカンは、すぐに部下に航空支援を要請するように伝えた。
近くのオブシウス帝国空軍基地で待機していた、カルサイト型ジェット戦闘機数機が、対艦誘導ロケットを積んで、空中戦艦追撃のため離陸。
時速900キレーで、王都メガラオテニアへ向かう。
『どうした?無言か?まあよい、30分後にまた呼びかける。よい返事を待っている』
というと、無線は切れてしまった。」
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「やはり蛮人どもは交渉には応じないか。」
アストライオスは嘲笑した。
「頭領殿、飛行物体5機、が、こちらへ接近しています。」
水晶を覗き込んでいた艦橋員が、焦った声を上げる。
「む、なんだ?ワイバーンか?」
「いえ、魔導反応がないため、飛行機械と思われます。」
「...叩き落せ」
アストライオスは、1つ残らずと付け加えた。
「対空魔導砲、魔力充填...完了。」
「照準...完了。」
「撃てっ!」
紫の閃光が飛び交い、無数の魔導弾が青空を切り裂く。しかし——
「頭領殿、敵機に魔導砲が全く当たりません!追いつけません!!」
「バカな!蛮人の飛行機械ごときが、魔導砲を避けられるはずがない!」
アストライオスが声を荒げる。
——同刻、カルサイト型戦闘機のコックピット——
「…遅い!」
パイロットは、計器を確認しながら独り言を呟く。
対空砲火はジェット機の背後を掠めるものの、速度が違いすぎてまるで当たらない。
「このまま突っ切る。ロック完了、発射!」
パイロットがスイッチを押すと、誘導ロケットが凄まじい加速で飛び立った。
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「て、敵、飛行物体を放出しました!」
「何?」
アストライオス含め、艦橋の要員たちに衝撃が走る。
「魔導装甲硬化!いそげ!」
「間に合いません!」
着弾した、誘導ロケットは、その圧倒的な貫徹力で強化されたオリハルコンを貫通し、艦内部の魔導エーテルに引火
——次の瞬間、紫色の炎が艦橋の外壁を引き裂いた。
爆風が戦艦全体を揺らす。破片が吹き飛び、魔導灯が砕け散る。
もはや原型をとどめていない空中戦艦は姿勢を崩し、ゆっくりと降下を始め、ついには地面に接触して、大爆発を作った。
「…すさまじいな。」
ヴァルカンは呟いた。
この数時間前まで、戦はほぼ決着していたはずだった。オブシウス帝国軍は王都メガラオテニアの城門を突破し、残存兵力を掃討しつつあった。あと数日もすれば、王都メガラオテニアは帝国の支配下に入るはずだった。
だが、それを 空から来た化け物じみた軍艦がひっくり返した。
「将軍、敵の反撃が始まっています!各地で一斉攻撃が始まりました!」
副官の報告に、ヴァルカンは顔をしかめる。
ヴァルカンは深く息を吐くと、再び無線機を手に取った。
「空軍に追加の出撃を要請。歩兵隊は王宮周辺の制圧を急がせよ。まだ、終わったわけではない。」




