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4.そして僕は魔法使いになった

これからたぶんセシル視点が中心になると思います。

 セシルには昔、やんごとなき身分のご令嬢と遊んだ時期がある。今やブルーローズと呼ばれている淑女中の淑女な彼女だが、当時はなかなか元気な子だった。


 ともに過ごしたのは一ヶ月ほど。けれど、僕の人生を変えるには十分すぎた。



 僕の父は早くに死んだらしく、僕は母と二人暮しだった。だから僕は自然と家事をしたり、近所の店の手伝いをして小遣いをもらったりするようになった。良い暮らしではなかったが、そう悪くもなかった。近所に子供の小遣いでも簡単に入れる図書館があったからだ。


 図書館は領主である公爵が領民のために開いたものだ。館内で本を読むだけならば、一日で子供がよく食べる安い菓子二つ分の料金でよい。借りて帰るとなるともう少しかかるが、蔵書が多いのにとても安い。

 まあ、そもそも平民のほとんどは必要最低限の文字を親に教わるだけなので、主な使用者は本好きの変わり者ばかり。人が少なく快適だった。


 僕の多すぎる魔力を持て余した母は、僕を図書館に連れて行くと魔法の使い方を文字とともに教えた。母は魔法を使えなかったが、教わる前から使える魔法があった僕はそれでも問題なかった。


 それまではすぐに増える魔力で常に悪かった体調も、魔力消費の多い魔法を使えば良くなる。未だかつてない気分の良さに、僕は魔法にのめり込んだ。家事も楽になったし、頻繁に通う図書館では、司書の人とも仲良くなり、入館料免除どころでなく手伝いとして小遣いすら貰えるようになった。


 だから、ローズお嬢様と出会った日はたまたまだった。体調不良の原因は、魔力消費によってさらに魔力が増えた事だ。大変ありがたい事に、鍛えるとつく筋力が如く、魔力が増加してしまったのである。

 体調不良を改善する為に、魔力を使う。魔力を使うと魔力が増えて体調不良になる。という恐ろしい循環だ。

 図書館で見た、魔力制御の魔法陣を服に刺繍してからましになったのになあ。と思った矢先に、なんか派手な女の子に会ったのだ。




 それから僕は毎日のように彼女に魔法を見せた。光る魔法が気に入られたらしく、よく強請られる。僕は、喜ぶ相手がいるとそれまでよりももっと魔法を勉強するようになる事を知った。


 一ヶ月ほどたった頃、彼女に青い薔薇をあげた。ちょうど読んだ本に、手にした者は幸せになるとあったから。

 頑張る彼女が幸せになれるように。分厚い本を横に積み、一生懸命に魔法を組み立てた。生まれてこのかた、ほとんどしなかった詠唱までして作りあげた。彼女の手のひらで、ガラス細工よろしく光輝く薔薇を見た時には達成感すら覚えたほどだ。


 なのに翌日、いつもより遅れて来た彼女は泣いていた。

 もう会えないのだと。


 彼女は高位貴族だ。そして見た目がいい。引く手あまただろう。優しい彼女がいい人達と出会えるといい。僕は寂しさを見ないふりして、どうにも心のこもらないありがとうを言った。


 なにか、彼女に餞別を。纏まらない頭でこう考えた僕が作ったのは前日の魔法を流用した物だった。それを押し付けて笑顔を見せる。ちゃんと、笑えていただろうか。



 彼女と別れた後に思ったのは、とうとう彼女をローズと呼べなかったという事と、タメ口が出てしまうのを直せなかったという事だった。



 彼女とさよならしてからは、それまでと比べようもなく慌ただしくなった。彼女から話を聞いた公爵様が僕を彼女が通う学園に入れてくださった上に、ほとんどが貴族の学園で苦しまないよう後見と入学するまでの教育までしてくださった。

 曰く、才ある若者を放っておくのは惜しい。それにローズも気に入ったようだし、卒業したら家で雇われてくれればいい。これは先行投資だよとのこと。


 すごい勢いでマナーやらなんやらを詰め込まれ、先生方にまあ良いでしょうと言われたところで、僕が十四歳になる年が来た。勉強して勉強して、やっと半人前。できなければ魔法を使う時間が削れる。死にものぐるいで学ぶ事になった。


「君は、公爵家の者として外に出しても恥ずかしくない」

 公爵様のこの言葉にずいぶん安堵したのを覚えている。


「そういう訳だから、二年早いが今年、入学してもらう。ローズは卒業後、すぐに結婚するかもしれない。できれば君に、結婚前に家の手の者になってもらいたいんだよ。後になると娘の近くに男を置きづらくなるが、その前からいたならしょうがないと言えるしね」


 うわあ。お貴族様面倒くさい。



 入学式。この年頃の二年は大きい。物理的に。背中、背中、背中。元々、悲しい事に同年代の中でも小柄な僕。そうなれば当然他人は壁。

 結構悲しい。


 帰りにお嬢様を見た。ずいぶんと美しい少女になっている。そして、噂通りに青い。前は赤かったのに。どうしたんだろうか。



 綺麗になった、かつて隣にいた彼女は今はとても遠いところにいた。

セシルがローズを「青い」や「赤かった」と表現したのは、彼がファッションをあまり理解していないからです。

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