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趣味?で生き抜く異世界生活  作者: 佐神 大地
恋と仏と地獄の訓練
80/86

5 ポーション開発2



俺は久しぶりにポーション開発をすることにした。

合同訓練でポーションが必要になると感じたからだ。

回復用ポーションは体力の回復もしてくれるので、厳しい合同訓練が行われた場合、大きな力となってくれるはずだ。


前回同様、グリーンララとレッドララという薬草で生成されるポーションの開発である。

この二つの薬草で作られた丸薬のレシピは広く知れ渡っているが、ポーションはとある調剤師が極秘に開発に成功しているだけである。

回復量が段違いであるため、丸薬よりはるかに高値で売買されているため、目をつけたのである。

以前のチャレンジでは全くと言っていいほど進展しなかったので、今回はリベンジである。



前回の反省を踏まえ、今回はかなりの量のグリーンララとレッドララを用意した。

なにしろ、前回は材料がなくなったため、途中で開発を断念せざるを得なかったからだ。

まあ、かなりの量と言っても、金額でいうと大したことはなかった。

なにしろ、元々この二つの薬草は安価なのである。

街の外にかなりの数が自生しているからである。

街の予算がついた俺は大人買いをするかのように大量に購入することが可能であった。

まあ、用意した薬草の半分以上は俺が外に出て摘んできたものではあるのだが。


更には、前回はただ漠然とやっていた開発であったが、今回はかなり周到に準備している。

まずは前回よりも設備や材料が充実している。

ダイアやモンドに新しい魔道具を製作してもらったりまでしている。

さらには錬金術という切り札まで用意している。

準備は万全だ。




「・・・・・・」


実験開始から2時間後、俺はガラス瓶に入った液体を呆然と眺めていた。

ガラス瓶の中には黄色い液体が入っていた。

俺は机の上に置いてあったナイフで腕に小さな傷を付けるとその黄色い液体を一気に喉の奥に流し込んだ。

少し苦みはあるが、まずくて飲めないというほどではない。

どちらかと言えな、においの方が気になる。

草原でにおう緑の香りというやつだ。

確か、草を傷つくと分泌する化学物質の臭いだったはずだ。

大草原でにおう分には問題ないのだが、飲み物の臭いだとちょっとくるものがある。


液体を飲み込んだ瞬間、先ほど指に付けた傷が見る見るうちに治癒していく。

前世では考えられない現象だ。

強力な回復魔法や上級ポーションだと、欠損部位でする治癒することもできるそうだ。

俺は見たことがないが、腕がニョキニョキ生えてくる光景はこの世界の人々でも気味が悪いそうだ。


「・・・・・・失った歯も生えてくるのか?」


前世が歯医者であった俺はついついそんなことを考えてしまった。

これが向うで開発されたならインプラント治療を完全に廃れてしまうだろう。


それはそうと、困難を極めると言われていたポーションのレシピ開発であったが、あっさり発見することができた。


1 グリーンララとレッドララを5対2の割合で混ぜ、よくすり潰す。

2 すり潰したものを団子状にして蒸す。

3 柔らかくなった薬草を熱いうちに押し固めて丸くする。


これは公開されていた回復薬ララのレシピである。


4 ()()()に回復薬ララを入れてシェイクする。

5 沈殿物をろ過する


このたった二つの手順を加えただけで、ポーションが生成できたのである。

ちょっと拍子抜けであった。

俺の後ろには、今回の実験のためにダイアとモンドに開発してもらった新魔道具、遠心分離器が鎮座している。

用意したグリーンララとレッドララも大量に残っている。


「・・・よし、もう少し改良してみるか。少なくともこの臭いはどうにかするか。」


俺はせっかく作ってもらった遠心分離器を使わないのは申し訳ないため、ポーションの改良を試みるのであった。





遠心分離器とは容器に入った液体を高速で回転させることで、中身の液体を比重に合わせて分離させる機器である。

今回、黄色の新ポーションを遠心分離器にかけると三つの層に分離した。

濃い黄色の液体と薄い黄色の液体とほぼ無色の液体である。

それぞれを確認してみると、濃い黄色の液体が回復効果の高い液体で薄い黄色の液体に臭い成分が集まっていることが判明した。

ほぼ透明な液体はその他の何かが混ざっているみたいだが、よくわからなかった。


濃い黄色の部分を取り出し確認すると、臭いはかなり軽減していたが、味は苦味が増していた。


「よし、臭いはほぼ消えたな。後は味か・・・。」


どうしようかしばらく悩んだ後に、俺はキッチンにあった果実水を混ぜてみた。

柑橘類系の果実水で苦味とも合いそうなものをチョイスした。

コップに入れてシェイクする。

一口飲んで味を確認すると先程よりはましになったが、もう少し甘味がほしいところだ。


「ハチミツでも入れるかな。」


俺は更にハチミツを加えてシェイクすると、一口味見する。


「・・・よし!美味しくなった。」


ポーションに元からあった苦みに酸味、甘みが加わり、フルーツジュースのような味になっている。

こうなってくると、僅かに残っている臭いが気になってくる。

どんなに頑張っても臭いの成分を完全に除去できなかったので、新たな匂いを加えることにした。

再びキッチンに行き、いろいろ物色していると、ミントを発見する。


「おっ!これは使えそうだな。」


俺が喜々とした様子でミントを手に取っていると、後ろから誰かが声を掛けてきた。


「ヒジリさん。何をされているんですか?」


振り向くと、怪訝そうな表情で俺を見つめるエキドナが立っていた。





「それでしたら、他にもいろいろなハーブがあります。それとは別に蒸留酒を加えてリキュールのようにするのもよいかもしれませね。」


エキドナに事情を説明すると、率先して協力してくれた。

ポーションは長期間保管されることもあるため、果物などの生ものは控えた方が良いと指摘もされた。


次々とアイデアを出してくるエキドナの表情はとても生き生きとしていた。

この世界に馴染んでいない俺は現地人である彼女のアドバイスは非常に有り難かった。

俺がお礼を言うと笑顔で微笑んでくれた。

その笑顔に俺の心臓が高鳴る。

その表情が「エキドナは俺を好きなのではないか?」と誤解させそうになった。

これは・・・そう、コンビニのレジでお釣を渡す時に手を添えるあれといっしょだ。

こんなことで告白などしようものなら、きっと白い目で見られるはずだ。

うん、きっとそうだ。


このときの俺は気づいていなかった。

俺が彼女を意識し始めているということに。





楽しい時間はあっという間に終わり、新しいポーションが4つ出来上がった。

エキドナの鑑定により確認も終わっている。


1つ目は遠心分離器にかける前のポーション。

回復量は小。

少し苦味があり、緑の香りがするベースとなるポーションである。


俺はこれの商品化は必要ないと思ったのだが、現在売られている初級ポーションと大差ない回復量と味であるので商品化すべきだとエキドナに説得されたのだ。


2つ目が遠心分離器にかけて、臭いがカットされたポーションである。

不純物が大幅にカットされているためか回復量は小+となっていた。

苦味が増しているため、これは商品化する予定はないのだが、フレデリカ様への報告には必要とのことだった。


3っ目は、2つ目を果実水で割ってハチミツで味付けし、ハーブで匂いを整えたものだ。

回復量は小に戻っていた。

味は非常にスッキリとして、まるでジュースのようになっていた。


4つ目は2つ目を蒸留酒で割ったものだ。

回復量は同じく小である。

エキドナに提案された時、アルコール入りポーションなどどうなのかと思ったが、この世界にはもともと存在するそうだ。

主にドワーフたちが愛用していると聞いた時、エールを四六時中飲むバジルの顔が浮かび、妙に納得したものである。






ポーション開発はフレデリカ様に報告後、販売前に最終チェックをおこなった後に販売されることになった。

このポーション開発はバジルのオレガノ商会在籍時に始めたものであるため、最終チェックと初期の販売はオレガノ商会が一手に引き受けることになった。

レシピは5年で公開され、その後はオレガノ商会の独占はなくなるそうだ。

ちなみに、俺とオレガノ商会との間の取り決めで、5年間のポーション売り上げの5%が俺の取分となった。

後に俺のもとを訪れたタイムによりかなりの金額になる予想を聞かされ驚くこととなる。

何はともあれ、俺はポーションの開発をやりとげたのであった。




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