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趣味?で生き抜く異世界生活  作者: 佐神 大地
職人ときどき冒険者
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30 再び法廷に



気がつくと、例の法廷の被告席の前で立っていた。

辺りを見渡す限り、人っ子一人見当たらない。

前回とは違い、傍聴席から何かがいる気配も一切しなかった。

だが、代わりに今回は最初から裁判官席から凄まじいプレッシャーが発せられている。

奴だ。


「ふっふっふっ。相変わらず無礼な奴だな。我を奴呼ばわりか。」


重く低い声が法廷に鳴り響く。

前回と全く同じだ。

・・・ということは、俺は死んだのだろうか?


「ふっふっふっ、心配するな。お前はまだ死んではにない。お前を見ていたら、ちょうど気を失ったので呼んだだけだ。」

「見ていたって、暇なのか?」


俺はついついツッコンでしまう。

こいつは神か悪魔かしらないが、全知全能に近く、この世界の支配者的存在のはずである。

相変わらず凄まじいプレッシャーは感じているのだが、俺はなんだかこいつをそれほど恐ろしい者と感じなくなっていた。

慣れたためかもしれない。


「ふっふっふっ。お前は本当に面白いな。・・・・・・よし、少し教えてやろう。我はそちらの世界、パトナムではフロイストと呼ばれている。これからはそう呼べ。旧創造神教という宗教の主神だ。まあ、旧創造神教はすでに廃れているがな。」


高圧的な声が頭に響く。


「で、フロイスト。何のようなんだ?俺は試練中なんだから、本来接触は控えるべきじゃないのか?」

「今度は呼び捨てか?まあいい。お前は試練を受けている者の中でも特別な存在なのだ。だからいろいろなものがお前に注目している。」

「俺に注目?暇な奴らが多いんだな。」

「ふっふっふっ。そういうな。お前は選ばれたのだ。お前の行動がこの世界、そして我らに大きく関与することになったのだ。」

「どういう意味だ?」

「ごく稀にだが、我らにすら影響を与えうる星の元に生まれるヒトがいる。その中で我らの目に留まり、選ばれるものがいる。その者を特異者と呼ぶ。特異者に選ばれると、その我らに影響を与える体質が強化されるのだ。」

「・・・・・・」

「お前が選ばれたのはこの世界に来て少ししからだ。まあ、選ばれたからといって、何か特別なことをする必要もないし、何かを指示されることもない。お前はただ生きればよいのだ。」

「生きればいい?」

「そうだ。・・・いや、違うな。お前の行動が見られるのだ。その行動には当然、死も含まれる。そのすべての行動が我らに影響を与えるのだ。」


フロイストは特異者とやらについて淡々と説明していく。

どうやら、さらなる面倒ごとに巻き込まれたようだ。


「・・・報酬とかはあるのか?」

「それはない。お前に何かを要請しているわけではないからな。」

「だが、面倒ごとには違いないんじゃないか?」

「なぜそう思う?」

「なぜって、お前や他の奴らが自分の都合の良い結果に導きたくて、俺を誘導しようとする可能性もあるだろう?」


言い終えるや否や、背後から大きなプレッシャーを感じる。

俺は慌てて振り返るが、そこには当然誰もいなかった。

だが、天から甲高い声が鳴り響く。


「フロイスト、お主の言う通り、小賢しい奴よのう。確かに特異者として申し分ない」


どこからともなく、甲高い声が響き渡る。

正体を聞かなくても分かる。

こいつはフロイストと同類だ。

理由は分からないが、それがもう一人現れたのだ。

俺の背筋に冷たいものが走る。


「おい、パブロフ。説明は我に任されていたはずだが?」

「ホホホ、そういうな。妾も同席は許されておるのじゃ。少し喋るのくらいは良いであろう?お主の役割は盗っておらんぞ。ほれ、さっさと説明を続けよ。」

「うぐぐ」


フロイストが突然現れたパブロフという者に言いくるめられていた。

話し方から言って、おそらく両者は対等の関係であろう。

ただ、フロイストはパブロフを苦手にしているようだが。

まあ、両者の関係がどうあれ、ヒトでは決して勝てない存在が俺の前に二人も現れたのだ。

そのプレッシャーは半端なものではなかった。


「ホホホ、すまんな。どうやらお主らヒトには辛かったようだな、許せ。」


声と同時に周囲を覆っていたプレッシャーがかき消される。

パブロフだけでなく、フロイストのものまで消え去っていた。


「パブロフ、それは違反行為だぞ。」

「お主は頭が硬いのう。これぐらい大したことではなかろう。それに、厳密に言うと、まだ違反行為ではないぞ。何しろお主はまだ説明を終えていないからな。」

「なっ!」

「ほれ、さっさと説明せぬからこのようなことになるのじゃ。」


「ぐぬぬ」と唸っているフロイストを尻目にパブロフは高笑いをする。


「おい、説明の続きをするぞ。お主の言うとおり、遙かなる昔、特異者に干渉しようとするものが多かった。だから、特異者が現れると特異者がいる世界全体に対して我らは干渉を禁止する決まりを作ったのだ。」

「世界全体に対して!?それは問題はないのか?」

「そうだな。パトナムだと我らの力はほとんど関与していないからな。問題があるとすれば、何人かが暇つぶしに行っている神託が下せないぐらいかだな。」

「・・・それは向こうからすると大問題な気もするが、まあいいか。で、期間はどれくらいなんだ?」

「期間?そんなものは知らん。」


フロイストの声からは本当にそんなものは気にしていないようであった。

うーん。一生監視されるのはいやなんだが・・・。


「ホホホ、心配するな。確かそんなに長いものではなかったはずだ。」


パブロフがフォローを入れようとしたのだろうが、フォローになっていなかった。

おそらく、彼らは悠久の時をいきているのだろう。

彼らからすると時間の概念というものは薄いのかもしれない。


「これで説明は終わりだな。次に会うの・・・」

「ちょっと待たんか。妾は聞きたいことがあるのじゃ。」


説明を終え、俺はパトナムに返そうするとフロイストにパブロフが待ったをかける。

当然のことながら、フロイストに言い返すことはできなかった。


「お主、試練を達成できそうだったのに、なぜ、せんかったのじゃ?」


突然、話が下世話なものになった。

達成できそうな試練とは間違いなく童貞の試練のことである。


「なぜそんなことを聞くんだ?」

「単なる興味じゃ。はよ、答えよ。」

「別にゆっくりでもよいだろう。試練をクリアするのに期限はなかったはずだ」

「確かにそうじゃが、試練をクリアすると報酬を貰えるのは分っているはずじゃ。早めにクリアしておいた方が良いじゃろうに。機会がなかったのならともかく、機会もあったはずじゃ。」


パブロフが言っているのは牢屋に捕まっていた時のエキドナとの一件のことだろう。

この世界に来てすぐのことである。

こいつら、どれだけ暇なんだ?


「別に相手の意思を尊重しただけだ。」

「なんじゃ、単なるヘタレか。」

「くっ!」


俺の答えが気に入らなかったのか、パブロフは明らかにがっかりした声色でヘタレを強調する。

俺は言い返すことができなかった。

くっ!ヘタレなのはわかっているさ。

ヘタレでなかったら、俺はきっとこんな試練を受けていない。

俺は前世の自身の行動を思い出し、悲しくなる。


「おい、もういいだろう。パトナムに返すぞ。次に会うのはお前が特異者のお勤めを終えた時だな。」


フロイストの不愉快そうな声が聞こえるてくる。

それと同時に俺の周囲を白い光が包み込むと、俺の意識がスーッとフェードアウトするのであった。




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