28 鑑定する2
「鑑定と詳細鑑定は同じ鑑定スキルで使用できるんですが、全く違うスキルと思った方がいいです。鑑定は辞書で調べるようなものです。誰が調べても同じ文言が表示されます。一方、詳細鑑定は鑑定より詳しい内容を知ることもできるんですが、毎回、同じ答えが返ってきません。」
「どういうことだ?」
「そうですね。例えば、小銀貨に鑑定スキルを使用したとします。鑑定では『100ギルの硬貨』とでます。ですが、これを詳細鑑定すると『100ギルの硬貨。大銅貨より価値が高い。』とか『100ギルの硬貨。銀貨と言うが銀は使用されていない。』とかいう文が頭の中に浮かぶんです。」
エキドナはポケットから小銀貨を取り出すと分かり易く説明してくれた。
隣で聞いていたナッツもなるほどと頷いている。
バジルは俺たちを避けるように遠巻きに座って、うんざりした表情でこちらを見ている。
その後、何気ない会話の後に、エキドナはアーモンが魔力注入した樹液で染色したダークレザーの鑑定を終わらせた。
どちらも「ダークレザー片。耐闇属性Lv5」という鑑定結果がでた。
念のために、魔力を2度注入した樹液で作ったダークレザーアーマー片を詳細鑑定したところ、「魔力を注入したダークトレントの樹液で染められたダークレザー。耐闇属性Lv5。」という鑑定結果となった。
このことから、樹液にいくら魔力を注入しても耐闇属性はLv5より大きくなることはないという仮説を立てることができた。
◇
再び休憩を挟み、エキドナの魔力と体力が回復したのを待って、俺たちは最後の鑑定に臨んだ。
先ほどまでの鑑定の時は、さして興味を示していなようであったバジルが今回は一番前に陣取り、関係結果に固唾を飲んで見守っている。
「ついにこいつの鑑定だな。」
「あの。バジルさん。偉く興味津々ですね。」
先ほどまでと全く態度の異なるバジルにエキドナが不思議がる。
バジルは呆れたようにエキドナを見ると、すぐさまダークレザー片に目を戻す。
「当たり前だ。こいつはヒジリがやらかしたダークレザーだからな。きっと予想外の結果が起こるに決まってる。」
「ヒジリさんがやらかした?」
「・・・説明は後だ。とりあえず、通常の鑑定を頼む。」
説明が面倒になったのか、バジルは途中で話すのを止めて鑑定をせかす。
エキドナは気にはなったのだが、雇い主の命令ということで渋々鑑定スキルを発動させると、目を点にして素っ頓狂な声を出す。
「ふえっ!?」
エキドナは確認するかのように何度もダークレザー片を何度も見直した後、両頬を軽くペチペチと叩くと再び鑑定スキルを発動させる。
そして鑑定結果に固まる。
しばらくすると復活したエキドナは頬を膨らませてバジルに詰め寄る。
「バジルさん。これは何なんですか?」
「何って、俺もそれを知りたいんだ。鑑定はできたんだろう?」
「・・・鑑定では『人造魔獣のダークレザー片。耐闇属性Lv5』とでました。」
「「人造魔獣!?」」
エキドナの言葉に俺とバジルは声を上げる。
ナッツはよくわかっていなかったのか、不思議そうにこちらを見ている。
エキドナは説明を求めるようにこちらを見ているが、バジルは「ふむふむ」と呟きながら何やら考え込む。
説明を求めるエキドナにバジルは説明するのにもう少し確証がほしいので詳細鑑定をするように指示する。
そう言われるとエキドナとしても説明を求め辛いため、渋々詳細鑑定を始めるしかなかった。
エキドナは意識を集中すると詳細鑑定を発動させる。
詳細鑑定は対象物によって使用する魔力量が変わってくる。
含有する魔力量が多いもの、珍しい物などは使用するMPが多い傾向があった。
そういった意味では目の前にある『人造魔獣のダークレザー片』と鑑定された一品はどう考えても珍品で魔獣と言う言葉からも含有する魔力量が多いと予想される品物であった。
予想通り、いや、予想以上にMPが消耗していく。
鑑定スキルがLv7のエキドナは自身のMP量もかなりのものであった。
それでも自身のMPがゴリゴリ削られていくのが実感できた。
ほぼ満タンに近かったMPがほぼ空になったところで詳細鑑定は何とか成功した。
そして、頭の中に浮かびあがった文言を読んだエキドナはそのあまりの内容に驚愕の声を上げることになったのであった。
「魔力融合樹液により染色されたダークレザー片。低レベルの魔獣の皮と同等の性能を持つ。通常のダークレザー片よりも物理防御、魔法防御が高くなる。素材としても優秀である。」
エキドナの説明を受けたバジルは興奮した様相で人造魔獣のダークレザー片を凝視している。
エキドナがいくら声を掛けても反応を示さない。
どうやら、説明は俺がしないといけないようだ。
◇
説明を聞き終えたエキドナは困った表情で俺を見ていた。
先ほどまでのクールな仕事モードの顔でもなく、休憩時の可愛い笑顔でもなく、ただただ困った表情で俺を真っ直ぐ見つめくる。
「・・・やっぱりまずいのか」
「ええ、とってもまずいわ。前にも言ったと思うけど、この世界では転生者の存在ってやっぱり特別なの。」
「ああ、覚えている。」
「転生者は強力なスキルを持っているから危険視されることがあるの。スキルにものを言わせて世界征服の戦争を起こされたら困るでしょう。」
「成程な。」
「あなたのスキル構成と人柄については私が領主のフレデリカ様に報告して、問題ないということになっていたんだけど、こんなものを作れるということになったら、報告だけでは済まされないと思うの。」
「ああ、つまり領主自らが実際に会って俺の人柄を確認したいと言い出しそうだということだな。」
「ええ。ごめんなさい。」
そういうとエキドナは深々と頭を下げる。
俺が領主などと接触したくないことを思い代、領主に報告せねばならないことを申し訳なく思っているようだ。
「エキドナ。君が謝る必要はないよ。いずれは会わないといけなかったんだ。それはそうと、領主との会談はいつぐらいになると思う?」
「そういってくれると助かるわ。そうね、早ければ3日後ってとこかしら?」
「3日後か・・・。ちょっと早いな。もう引き延ばすことはできないかな?」
「・・・どういうこと?」
「そうだな。できれば2週間、少なくとも1週間は時間がほしいんだが・・・。その間にいろいろと用意を済ませたいんだ。」
「用意?」
「ああ、せっかく領主に会うんだからな」
俺がちょっと意地悪そうに笑うと、エキドナは安心した様でため息をつく。
「はあ、いいわ。できるだけ伸ばしてあげる。2週間は無理だと思うけど、1週間ぐらいなら何とかなると思うわ。それと逃げることはないと思うけど、しばらくの間は自身の行動に気を付けてね。たぶん、見張りが付くと思うから。」
「ああ、わかった。」
「で、何を用意するの?」
「ん?そうだな。まずは領主に会うための服装かな。さすがに貴族様に会うのにこの格好じゃまずいだろう」
俺はそういって自身の一張羅である普段着を見せる。
お世辞にもいい服ではない。
この世界に着て初めのころに買った安物の服で、ずっと着続けていたせいか、かなりくたびれている。
「うふふ。あの方はそんなことは気にしないわよ。」
「それに錬金術ギルドにも加入しておきたいんだ。」
「錬金術ギルド?」
「ああ、ちょっと若手の錬金術師に活を入れるように頼まれているんだ。せっかく領主様に新たな錬金術を披露するんだったら、そっちの方がいいだろう?」
「そうね。でもそれだけだったら2週間もいらないんじゃない?」
「ああ、後はできればお土産も用意したいんだ。」
俺はそういうと人造魔獣のダークレザー片に頬ずりをするバジルに目をやる。
バジルの行動に一瞬引きつった表情をしたエキドナであったが、すぐに俺の目線が人造魔獣のダークレザー片にあることに気づく。
「もしかして、何か商品化する算段があるの?」
「ああ。できるかは分からないから内容は秘密だがな。」
「そう、わかったわ。楽しみにしているわ。」
エキドナはそういうとニッコリと微笑むのであった。




