12 宴は禁止
昼過ぎから始まった宴会は夜まで続いた。
いや、続いたというよりもバジルが一人で飲み続けた。
タンドリーは早々潰れて部屋の隅に転がっていた。
俺はというと、途中から、というか2杯目からノンアルコールの飲み物を飲んでいた。
サリーさんに目配せで頼んだのだ。
俺はアルコールに強くないので前世でもよくウーロン茶を飲み界では愛用していたのだが、まさか異世界でもお世話になるとは思わなかった。
俺が1杯お茶を飲む間にバジルに3杯とも飲ませたのだが、遂には夜の夕食時になってもバジルは潰れなかった。
「バジル。悪いけどそろそろお開きにしておくれ。夕食の客がやってくるんだ。底なしのドワーフにこれ以上構ってられないんだよ。」
「あー。俺も客だろうが」
「あんたね。周りを見てから言いな。これだけ飲んでおいてまだ飲むつもりかい?他の客の飲む分がなくなるから帰れって言ってんだよ。」
サリーさんの語気が少し強くなる。
顔は笑っているのだが、サリーさんから放たれる凄まじい気配が周囲を覆っていく。
怯んだバジルは「う、わかった。」というと引き下がる。
俺はというと勿論、とっくの昔に避難させてもらっていた。
今日の出来事で分かったことがある。
ドワーフは酒に関してはエキスパートで決して一緒に飲んではいけない種族であるということだ。
酔っぱらいの相手をさせるのには良いのかもしれないがそれ以上に飲むペースが尋常ではない。
ドワーフが集団で酒場にきたら、間違いなく酒場の酒を飲み干すだろう。
後でサリーさんに聞いたところによると、ドワーフが訪れる酒場には必ず『ドワーフ殺し』と呼ばれる酒が常備されているそうだ。
ドワーフ以外飲むのを禁止されているその酒はドワーフ以外の種族なら一口で酩酊、ドワーフでもコップ2~3杯で陥落させることができるそうだ。
ある程度楽しんだのちに『ドワーフ殺し』で〆て帰るそうだ。
今回、本当に要らないドワーフの知識が手に入った。
◇
次の日、二日酔いのタンドリーと打ち合わせをすることにした。
タンドリーは予想通り二日酔いで、頭を押さえながら青い顔をしながらやって来た。
足元もおぼつかず、何とか歩いているといったところだろうか。
「ガハハハッ。随分酔ってるな。」
「うっ!バジルさん、あまり大きな声を出さないでください」
「悪い悪い。」
謝るバジルの声は止まリまだデカかった。
諦めたのかタンドリーはバジルから離れるように後ずさると俺と目が合う。
俺はいつも通り、ビシッとしているのを見て、青い顔ながら目を丸くして驚いている。
「えっと、ヒジリさん。俺の記憶が確かなら、俺の隣でバジルさんに結構飲まされてたと思うんですけど、大丈夫なんですか?」
「ああ、お前と違って二杯目からはお茶にしてもらっていたからな。」
「え、えー、っつつつ。何でそんなことができたんですか?」
「決まってるだろ。二杯目の注文の時にサリーさんに両手でバツってやってお茶を持ってきてもらったんだ。後はペースを落としつつ、バジルにしこたま飲まし続けただけだ。」
俺の説明にタンドリーは頭を押さえつつも「ズルだー」などと喚いていたが、俺には関係ない。
俺としてはバジルを潰して飲み会を早めに終わらせる予定だったのに結局バジルを潰すことができなかったことの方が、頭の痛い問題だった。
タイムに渡されていたこの旅の間の食費の半分以上を昨日だけで消費してしまったからだ。
「店長に渡すと一日で酒代に消えてしまうのでヒジリさんに渡しておきますね。もし、足りなくなったら店長のポケットマネーから出させてください。どうせ、原因は店長の飲んだ酒の代金だと思いますので。それと一応念のために予備のお金も渡しておきます。」
タイムに無理やり大金を渡されたのだが、受け取っておいてよかったと今はしみじみと思っている。
もし、俺が固辞してバジルが金の管理をしていたなら、下手をしたら今日にも路銀が底をついていたかもしれない。
流石、バジルと付き合いの長いタイムだ。
こうなることを見越していたのかもしれない。
だが、そうだと言っても大金を管理しないといけない俺の心労を考えると割に合わない気がするのは俺だけであろうか?
それはそうとして、路銀の半分を一回の宴で使ったのであるから、二度目は無理である。
このことを隣でグロッキー状態のタンドリーに伝えるだけで、彼の心労はかなり癒されるだろう。
俺の心労は依然として続くのだが・・・。
「まあ、そのなんだ。たぶん、もう宴はないから安心しろ。」
「ホントですか?」
俺の言葉にタンドリーはジト目でバジルを眺める。
当のバジルは今日も飲むぞ、といった雰囲気だったが、俺の言葉が気になったのか、突っ込んできた。
「おい、ヒジリ。路銀はタイムから預かっていただろう?なんで宴会がないんだ?」
「決まってるだろう。預かっていた路銀の半分が昨日一日でなくなったからだよ。」
「無くなった?誰に取られたんだ?」
「あのな。お前が飲んだ酒の代金で消えたに決まってるだろう!」
「そ、そんなに飲んだのか!?」
俺が無言で昨日頷くと、バジルの顔が真っ青となり、力なく大地に崩れ落ちる。
まるでアルコール中毒患者が禁断症状を起こしたかのようにプルプルと震えだす。
先ほどまではとてもご機嫌であったバジルだが、今は地獄に落ちたかのようにげっそりして見える。
たかが酒でと思うのだが、ドワーフは酒が生活の根幹にしっかり組み込まれているのか、酒なしの生活など耐えられないかのようであった。
「落ち着け、バジル。宴会のように大量に飲むのは無理かもしれんが、日常で飲む分の金はまだ残ってるから。」
「そ、そうか。だが、もし・・・」
「バジル。そんなに心配なら急いで仕事を終わらせるぞ。そうしたら、予定より早くセントバニラに帰れるだろう。」
「そ、そうだな。ヒジリ、タンドリー。すぐさま仕事にかかるぞ。」
こうして生気を取り戻したバジルは大急ぎで仕事を終わらせるべく、二日酔いのタンドリーに鞭をうつのであった。
◇
「タンドリー。何でもいいから思い出せ。例のレザー片を手に入れた時の状況を。」
「うっぷ。バジルさん、揺らさないでください。」
タンドリーは二日酔いでげっそりとした状態でバジルに絡まれて死にそうになっている。
俺が慌てて引き離すと、タンドリーはすでにグロッキー状態であった。
それでも必死に思い出そうとしているあたり、この青年の真面目さがうかがえた。
「うーん。確か、ダークトレントにハンドアクスを持って突っ込んでいったんだよな。何度か攻撃を加えた後、いいのを食らってしまって意識が飛んでしまって・・・。そして、目が覚めたらレザーアーマーが破損していて吹き飛んだかけらがこの状態だったんです。」
途中、何度も詰まりながらも、タンドリーはダークトレントとの闘いの内容を思い出した。
今は二日酔いの為、倒れこんでいる。
「おい、ヒジリ。どう思う?」
「そうだな。普通に考えると、タンドリーが着ていたレザーアーマーが戦闘中に染色されたと見るのが妥当じゃないか?」
「なるほどな。そして、本人が着ていたレザーアーマーの本体はそのままだったんなら、最後の攻撃を受けて、レザーアーマーが裂けた後に何かがあった見るべきか。」
「それはそうと、過去にダークトレントを乱獲したんなら何か情報はないのか?」
「ん?そうだな。俺も防具はレザーアーマーだったが、変化はなかったな。」
「武器はどうなんだ?」
「武器か?この聖属性の短剣が完成するまではモーニングスターやハルバードで突撃していたな。」
「モーニングスターやハルバード!?」
「おう、中々重量があって、使いやすい武器だぞ。」
「・・・・・・」
ハルバードは確か槍と斧をくっつけた重量武器で中世ヨーロッパでは一世を風靡した武器だったはずだ。
まあ、斬撃系の武器であることに違いはない。
モーニングスターはトゲ付き鉄球の付いたメイスもしくはトゲ付きの鉄球を鎖でつないだフレイル系の武器だったはずだ。
使いやすいというところから、おそらくメイス系の武器だろうが、両方とも打撃系の武器であるのは間違いない。
詳しく聞くとハルバード、モーニングスター(トゲ付きメイス)、聖属性の短剣でそれぞれ同じぐらいの数のダークトレントを狩ったということだった。
「手がかりがやっぱりねえな。まあ、一度狩りに行くか。ヒジリ、仕方ないから付き合ってやるよ。」
「ああ、わかった。」
こうして二日酔いでで倒れているタンドリーを置いて、俺たち二人は闇の森に向かうのだった。




