5 キャラクター設定2
セオルグは俺に一冊の本を手渡してくる。表紙にはエキストラスキル全集と書かれている。俺はそれを受け取ると一つ一つ確認していく。
攻撃系スキル、防御系スキルと項目に分かれてたくさんのスキルが載っている。
俺は目的のスキルを求めて、次々に読み進めていく。しばらく読み進めると、成長に関連したエキストラスキルを発見した。
・限界突破:通常の成長限界を超えて成長する。 消費SP70
・創造神の加護:成長速度が倍になる。 消費SP100
折角見つけた成長系のエキストラスキルだが、この二つは却下した。
限界突破は今回のコンセプトには沿っていない。成長の伸びしろを増やすのではなく、成長速度を増やしてほしいのだ。
だいたい、40の俺には自身を鍛える時間があまりない。限界突破を習得しても限界まで成長する可能性はほぼゼロだ。
創造神の加護は確かに魅力的だが、あまりに破格なスキルため、目立ちすぎる気がしたのだ。俺自身に気がなくても、違う路線に強制的に引っ張られる危険がありそうだからだ。
王様に捕まって無理やり戦争に駆り出されたりとかしたら、目も当たられない。
次に見つけたのが生産系のエキストラスキルだ。
・薬神の左手:調薬スキルLv10相当。更には禁薬の製造もできる。 消費SP80
・至高の作り手:細工・鍛冶・裁縫などの生産系スキルがLv10。 消費SP120
これは俺の目的からはちょっと外れている。このスキルは伝説の匠になるためのものだ。
俺は広くそれなりに成長するのを目指している。所謂、器用貧乏を目指す予定だ。
器用貧乏ならトップは目指せないだろうが、快適な異世界生活を送る上では非常に都合が良いのだ。しかも、それが文武両道な器用貧乏なら言うことなしなのだ。
◇
一時間後、俺はエキストラスキル大全を閉じると深くため息を付く。
椅子の背もたれに体重を預けると、顔を上にあげて目をつぶって一息つく。目がシュパシュパしてつらい。
結論から言うと器用貧乏といった都合の良いエキストラスキルは今のところ見つかっていない。
そして俺はいまだエキストラスキル大全の半分も読み終わっていなかった。
「お客様、お疲れでございますね。もしよろしければ、私が相談に乗りましょうか?」
俺がエキストラスキル大全を熟読している間、黙って見守ってくれていたセオルグが声を掛けてきた。
この人は俺が熟読をしている中、延々と待ち続けてくれていたようだ。
よく見ると、机の上にはお茶が置かれている。
気を利かせて、出してくれていたようだ。
俺はそれにも気づかず本を読み続けていたようだ。何だか申し訳ない気持ちになる。
「セオルグ、すみません。長時間お手間を取らせてしまって。」
「お役様、頭を上げてください。これが私の仕事ですので謝らないでください。」
俺が素直に頭を下げるとセオルグは慌てて両手を振るとペコペコと頭を下げて逆に謝ってきた。
そうだった。この人はこんな性格だった。
「それではお言葉に甘えてお聞きしますが、幅広く成長することのできるエキストラスキルってありますか?できれば、戦闘、生産、魔法などジャンルにとらわれずに効果のあるスキルがいいです。俺はそれで無難に生きていければいいんで。」
俺はそういって俺が目指す中流階級型の説明をする。
セオルグは意外そうな顔をした後、少し困ったような顔をして考え込むが、しばらくすると何かを思い出したのか表情をパッと明るくする。
「そうですね。私が知っている中でお客様の要望に応えるエキストラスキルだと『道楽を極めし者』でしょうか」
「道楽を極めし者?」
「はい、趣味に打ち込めば打ち込むほどスキルを習得したり、そのLvが上がりやすくなるというスキルです。」
セオルグはそういうと俺の前に置いてあったエキストラスキル全集を手に取り、ページをめくっていく。そして、後ろの方のページを開くと俺に見せてくる。
そこには確かに『道楽を極めし者』というスキルが載っていた。
ジャンルはその他に分類されていた。まだまだ手付かずだったところだ。
・道楽を極めし者:趣味のスキル習得およびLvアップがしやすくなる。但し、Lv7以上は趣味とは認められず逆に成長が遅くなる。また、趣味のための出費が増えるため金運がダウンする。 消費SP70
・・・すごいスキルだ。ハッキリ言って俺の理想に近いスキルであった。スキル限定の成長アップのようなのでステータスの成長促進の補正がないこととLv7から逆に成長抑制の補正が掛かるというデメリットがあることを加味しても、先ほどの創造神の加護よりも良い気がしてきた。
スキルはLv4から一流といっていたのでLv6まで成長できたら問題ない。
消費SPが70というのもよい。残りSPが45もある。
このエキストラスキルを基幹にキャラクター設定をしていくことにする。
「セオルグ。このスキルいいですね。ありがとうざいます。」
「いえいえ、お客様のお力になれて幸いです。他に聞きたいことがございますか?」
「そうですね・・・、他に何かお勧めはありますか?」
残りのSPの使い道はまだ考えていなかった。一人でむんむんと考えてもいいのだが、先ほどの例から考えてもセオルグに頼った方が良いと思われたので思い切って聞いてみた。
「他の方だと『鑑定』や『アイテムボックス』といったスキルが人気があるのですが、お客様の方針からするとちょっと合ってない気がしますね。となると、『健康』とかはどうでしょうか。後は種族変更でドワーフ辺りに変更するのも面白いかもしれませんね。」
『鑑定』、『アイテムボックス』、『健康』は一般スキルであったため、俺はセオルグから一般スキル大全3という本を受け取り、確認する。エキストラスキル大全よりも更に分厚い本だ。しかも、3ってことは少なくとも1と2があるということだ。
・鑑定:対象の詳細を知ることができる。Lvが上がるにつれて鑑定できる対象が増え、内容が詳しくなる。 消費SP20
・アイテムボックス:異次元に物を収納できるようになる。生き物は不可。 消費SP30
・健康:病気にかかりにくくなる。 消費SP10
確かにどれも有用なスキルだが、俺もセオルグ同様『健康』が一番気になった。
『鑑定』も『アイテムボックス』も確かに有用なスキルなのだが、それほど気にもならなかった。
さすがセオルグだ。ナイスなアドバイスだ。
となるときになるのが、「種族変更でドワーフにしないか」という提案である。
ドワーフって確か鬚モジャで低身長、樽型体型、酒をこよなく愛する職人気質な種族だよな。セオルグに確認すると俺の予想通りの種族のようだ。
「ドワーフは寿命がヒューマンより長く150ぐらいまでは生きます。パトナムにはドワーフの集落も多く、世界中にドワーフが進出しております。魔法は苦手ですが、手先が器用で近接戦闘は得意な種族です。お客様の希望に沿うと思いますが。ちなみに、消費SPは40でございます。」
「あっ」
そこで俺はセオルグの説明を聞いて間抜けな声をあげてしまう。
俺は魔法について全く考えていなかったのだ。転生先が魔法を使えるということを全く考慮していなかったのだ。
「なあ、セオルグ。ちょっと聞きたいんだが、俺はパトナムで魔法を使うことは可能なのか?」
「ええ、可能と思いますが、いきなりどうしたんですか?」
いきなり少年のように目を輝かせて質問してきた俺を訝し気な目で見ながらセオルグは答える。
俺は中二心に火が付いて興奮していた。40になったとはいえ、元RPG大好き少年だったのだ。魔法が実際に使えるとなると興奮するのも当然だ。
「すまん。魔法って聞いたらちょっと興奮してしまってな。」
俺が素直に答えるとセオルグは納得したのかニッコリ微笑むとすぐさま真剣な面持ちになり、何かを考え出した。どうやら俺の希望に沿ったスキル編成を考えてくれているのだろう。
「お客様。それでは残ったSPで『生活魔法』を習得してはどうでしょうか?」
「生活魔法?」
「はい。体を綺麗にする、水を精製する、火を熾す、といった生活に関連する初歩の魔法を使えるようになるスキルです。消費SPは20と少なくて済みます。残ったSPをMPに振り込めば問題なく魔法を使えると思います。火魔法とかの魔法だとMPの消費量が多いため、スキル習得は可能ですが、MP不足で使用が不可能な可能性があります。」
その後、セオルグと相談を続けた結果、俺のキャラクター設定は次のようになった。
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名前 ヒジリ リクドウ
性別 男
年齢 40
種族 ヒューマン
職業 なし
Lv 1
HP 17
MP 15
力 5
体力 9
素早さ 7
器用さ 15
賢さ 20
運 13
エキストラスキル
道楽を極めし者
一般スキル
細工Lv3
調剤Lv3
威圧Lv1
生活魔法Lv1
健康Lv1
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『健康』を習得するかMPに残りのSPを全振りするかで悩んでいたのだが、40という年齢から健康面を気にし、このような結果となったのだった。