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趣味?で生き抜く異世界生活  作者: 佐神 大地
職人ときどき冒険者
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10 ココイチの村



目的地のココイチ村に到着したのはセントバニラは出発して3日後の昼であった。

出発前に「普通なら馬車で4日の距離です。」とタイムが言っていたので、バジルがどれだけニトロを酷使したのかが良くわかる。

前世なら動物愛護団体にやり玉に上げられるような事例だろう。

当の本人は満足しきった表情でニトロを労わるように撫でている。

ニトロは嬉しそうに顔をすり寄せているが、お前、騙されているぞ。


その後、俺たちは村長宅に通されることになる。

バジルが受けた物資の納品をするためだ。


ココイチ村は林業と狩猟が村の産業の中心の小さな山村であった。

人口は100人にも満たない。

小さな畑などもあり、ある程度、食料の自給自足はできているのだが、塩が決定的に不足しているそうだ。

そのため、ギルド経由で商人に塩を運んでもらっているそうだ。

バジルも何度かこの依頼を受けたことがあるそうだ。

この村に独自の販売網を作ろうとする商人もいたのだが、塩の需要以外に特筆すべき商機がなかったため、誰も定期的な行商を行うものは現れなかった。

そう、この村には特筆しべき特産品がないのだ。

そのため、この村に依頼で塩を届けにやって来た商人がついでに雑貨などを売りさばいていく、というスタイルがずっと続いているそうだ。


バジルは村長宅の入り口に塩の入った袋を置くとズカズカと中に入っていく。


「おう、サムサ。久しぶりだな。」

「ん?誰かと思ったら、バジルか。久しいな。今回の塩の運搬はお前か。」

「ああ、塩は玄関に置いてるから、あとで確認しておいてくれ。」

「わかった。」

「あと、いろいろと雑貨を持ってきたから稼がせてもらうぜ。それとダークトレントの素材が欲しいんで、こいつを森に行かせるから許可をくれ。冒険者のヒジリだ。ウチの商品開発も担当している。」


そういってバジルは俺を紹介する。

村長のサムサは何とも言えない表情で俺を見る。

確かに冒険者で商品開発担当って紹介だと、「こいつ何なんだ?」と思ってもしかたがないだろう。


「初めまして。ヒジリです。メインは職人です。素材を確保するために時々冒険者をしています。」

「ああ、そういうことか。この村の村長のサムサだ。よろしくな。それで、何でダークトレントが必要なんだ?」

「詳しいことは秘密だが、ちょっと新商品の開発をしてみたいんだ。」

「ダークプラントで新商品?新しいレザーアーマーでも作るのか?お前は武器防具の販売は嫌ってなかったか?」

「違うよ。レーザーアーマーじゃない。うちは雑貨屋だ。」

「それじゃあ、何なんだ?」

「だから秘密だって言ってるだろう。さっさと許可をよこせ。」

「はあ、許可は出すが、あまり無茶をするなよ。」

「ああ、とりあえず研究用に少し欲しいだけだ。」

「ホントに研究用だけだろうな。」


サムサは疑いの目を向けつつも許可をくれた。

そんなにバジルは信用されてないのだろうか?

いや、それなら許可は下りないな。

この二人のやり取りを見ていると長年が友人の冗談の言い合いのように見えなくもない。

ちょっとうらやましそうな関係でもある。

俺の視線に気づいたのかバジルが恥ずかしそうに説明してくれた。


「俺が冒険者だった時に、ここの森でちょっと稼がせてもらったんだ。そん時にこいつと一緒に森に潜ってたんだ。」

「おい、何がちょっとだ。あん時、お前がダークトレントを狩り過ぎたせいで俺は親父に大目玉だったんだぞ。」

「知るか!それなら止めればいいだろう。」

「気がついたら夜の間にお前が乱獲してたんだろうが」

「そうだったか?」

「テメー。あの後大変だったんだぞ。闇の森での狩りが許可制になったのもテメーのせいなんだからな。」

「・・・・・・」


どうやら思うところがあったのだろうか、バジルは頭をポリポリ掻くとサムサから目を背ける。

サムサはニタニタ笑いながら俺に許可証を渡してくれる。


「確かに受け取りました。乱獲はできないんで安心してください。」

「おう、バジルの連れとは思えないほど礼儀がいいな。そうしてくれ。まあ、一匹って言わず、5~6体なら問題ないからな。・・・そうだ、鍛冶屋の倅のタンドリーが新しいダークレザーアーマーがどうのこうのと騒いでいたから、気になるなら聞きに行ってみるといい。」

「そうですか。貴重な情報ありがとうございました。」

「おう、いいってことよ。気を付けてな。」


サムサは俺に親し気に話しかけてきたのだが、バジルにはそれが気に食わなかったようだ。

ムスッとした表情で俺とサムサを睨んでくる。


「おい、バジル。何いじけてるんだ。お前もおしゃべりに入れてほしいのか?それだったら言ってくればいいだろう」

「そ、そんなんじゃねえよ。ヒジリ、宿に行くぞ。」


バジルは少し怒った様子で村長宅を出ていく。

それをサムサは笑顔で見送るのであった。





この村には宿は一軒しかなかった。

まあ、人口100程度の小さな村なので当然と言ったら当然なのだが。

宿といってもこの村唯一の酒場兼食堂兼宿屋なのだが。


「あら、いらっしゃい。もしかしてお客さん?・・・ってバジルじゃない。久しぶり。」

「おう、サリー。久しぶりだな。今日はこいつと2人で泊まるけど大丈夫か?」

「ハハハ。こんな小さな村に泊まりに来る客なんてそんなにいないよ。2人どころか5人でも大丈夫だよ。まあ、10人とか言われると多すぎて無理だけどね。それで、そっちの人は誰なんだい。紹介してくれよ。」

「ああ、最近うちに入った新人で新商品の開発担当者のヒジリだ。冒険者もしている。」

「へー。商品担当で冒険者かい。変わってるね。・・・まあ、バジルほどじゃないか。」

「どういう意味だ?」

「あんたも元冒険者だろ。ガサツな冒険者が商人で成功するってあんまりないんだよ。」

「ひどい言いようだな。」


そういうと二人でゲラゲラ笑いだす。

本当にバジルはこの村に住人に愛されているようだ。

こうやって冗談で笑い合うことのできる関係の人が多いのはバジルの人としての大きな財産だろう。


「サリー。悪いが早いとこ部屋に案内してくれ。この後、会いに行くやつがいるんだ。」

「えっ。誰と会うんだい?」

「ああ、タンドリーってやつだ。」

「タンドリー?もしかして、鍛冶屋の息子のタンドリーかい?それならあそこで飲んでるのがタンドリーだよ。」


そういって、サリーが指さしたのは酒場の隅のテーブルで一人寂しく酒を飲んでいる若い青年であった。





「おう、じゃまするぞ。」


バジルはタンドリーが座るテーブルにズカズカと割り込むと返事も待たずに座る。

あまりの遠慮のなさにタンドリーは文句を言う間もなくバジルにテーブルの半分を占拠される。


「何だテメーは。俺は、へっく、一人・・・飲みたいんだ。」

「まあ、そういうな。ちょっと話が聞きたいんだ。サリー、エールを二つ持ってきてくれ。」


バジルはタンドリーを無視してエールを二杯注文する。

俺はテーブルから少し離れたところに立っていた。

飲めないわけではないが、俺は酒が苦手だ。

アルコールの臭いもどっちかというと苦手だからだ。

サリーは苦笑いをしながらエールの入った巨大なコップを二つ持ってくる。

・・・あれは俺の分じゃないよな。

ドラマとかでよくあった、「これを俺のおごりだ」ってタンドリーにやる分だよな。

だが、タンドリーが飲んでいるのはどう見てもエールでなくてワインなんだが・・・。

タンドリーも「俺はエールなんかいらないぞ。さっさどっかに行け。」とわめいている。

バジルは鬱陶しそうにタンドリーの言葉を聞き流すと、エールの入ったコップをまずは一杯受け取り、一気に喉に流し込んだ。

そして、二杯目のコップを受け取るとそれも半分近くまで飲むと、「ぶはー」と満足そうに一息つく。

・・・・・・うん、二杯ともバジルのものだった。

こうなることを分かっていたのか、サリーは苦笑しながら空になったコップを下げていく。


「・・・・・・な、何なんだテメーは。さっさとどっかいけー。」

「まあまま。サムサに聞いたんだが、ダークレザーアーマーの改良の仕方を思いついたんだって?」

「・・・!?」


ダークレザーアーマーという単語が出てきた瞬間、タンドリーの表情が一気に変わった。

それまでは煩わしそうにバジルを追い払おうとしていただけであったが、今では怒りの籠った目でバジルを睨みつけている。


「う、うるせー。オメーも俺を笑いに来たのか。」

「・・・笑いに来た?違うな。話を聞きに来たんだ。もし、お前の話が実現的なら金を出してやってもいい。」

「騙されねーぞ。どいつもこいつも俺を嘘つき呼ばわりしやがって。」

「・・・なんだ。出鱈目なのか?」

「そんなわけねえだろ。俺は嘘は言ってない」

「なら聞かせてくれよ。」


バジルはそういうと、ニヤリと笑う。


バジルの行動にイラついていたのか、タンドリーはどんどん興奮していく。

それと同時に酔いが醒め、バジルに敵意むき出しで食ってかかる。

バジルはそんなタンドリーを事も無げにあしらっていくのであった。






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