表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
趣味?で生き抜く異世界生活  作者: 佐神 大地
職人ときどき冒険者
46/86

8 出発前に



新商品開発会議から3日後、俺は依頼を受けるために冒険者ギルドを訪れた。

3日後なのはバジルに用意があるから3日後にしてくれと言われたからだ。


冒険者ギルド内では、大量の冒険者が列をなして自分の番を待っていた。

この列は当然、ギルド長のシードルさんの前だけである。

相変わらずこの人は忙しそうに受付業務を楽しんでいる。

ギルド長の業務で溜まったストレスを受付業務で晴らしているそうだ。


その横で相変わらず暇そうなウォッカが俺に気づくと手招きをしてくる。

ランクEの俺に専属の受付が付くという異常事態は未だに続いているのだが、誰も文句を言ってこない。

まあ、専属の受付がムサイ男であるからであろう。

これがシードルや他のうら若い女性受付嬢であったのなら、間違いなくやっかみの対象となっていただろう。


「おう、ヒジリ、待ってたぞ。オレガノ商会から指名依頼が入っている。話は当然そっちにもいってるんだろう?受諾でいいな。」


ウォッカは俺とバジルの関係を知っているので、この依頼はうちうちで内諾を受けていると察したのだろう。

俺が依頼を受けるのを当然のように話を進めていく。

今回のように、冒険者と依頼主が事前に取り決めを協議して、その契約を冒険者ギルドの指名依頼を介して行うということはよくあるそうだ。


「ああ、頼む。」

「それにしてもダークトレントの討伐と素材の採取依頼か。よく引き受けたな。まあ、ダークトレントは光属性の武器があれば弱いが、他の魔物もいるから気を付けろよ。」


ウォッカはベテランらしく、もの凄いスピードで依頼受付の処理を進めていく。

前情報通通り、ダークトレントは弱いらしい。

そして、他の魔物が・・・・・・?


他の魔物!?


「ちょっと待て、ウォッカ。今、何て言った?」

「・・・もしかして『他の魔物もいるから気を付けろよ』ってとこか?聞いてないのか。・・・よし。依頼受付終わったぞ。」

「・・・・・・」

「なんだ、もしかしてダークトレントの生息地域も聞いていとかないよな。」

「闇の森だろ」

「ああ、ランクDの危険な森だ。」

「・・・ランクD?ダークトレントって弱いんじゃなかったのか?」

「ああ、光属性の武器を使えば瞬殺だな。だが、森には他の魔物をいるだろう。」

「・・・いるのか?」

「当たり前だろう。お目当てのダークトレント以外にもダークウルフとダークバット、あとはダークベアとかがいるな。」

「名前からして、狼と蝙蝠と熊か?」

「ああ、そうだ。ダークベアがランクDで残りがランクEの魔物だ。」

「ランクD!?」

「ああ、ダークベアはちょっと危険な魔物だぞ。まあ、光属性の武器があればなんとかなるとは思うが。それにランクEとはいえ、ダークウルフやダークバットは団体で襲ってくるので実質ランクDと思った方がいい。まあ、お目当てのダークトレントは数が少なく、群れてくることはないから安心しろ。」

「全然、安心できん。ウォッカ、指名依頼、辞退してもいいか?」

「もう受理しちまったよ。まあ、どれも闇属性の魔物だから攻撃される前に光属性の武器を叩きこめばいいんだよ。これが依頼票だ。」


--------------------

指名依頼

ダークトレントの1体の討伐・素材納品

闇の森にて、ダークトレントの討伐およびその素材の納品

なお、ダークトレント討伐のため、光属性の短剣が給与される。

詳細はオレガノ商会にて直接伝える。


報酬

10,000ギルおよび貸し与えた短剣

--------------------


ウォッカは依頼票を俺に渡すと、俺の肩をガシッと掴み、「ヒジリ、気合いだ」と励ましてくる。

ウォッカは俺を奮い立たせようとしているのかもしれないが、俺は今にも泣きだしそうな気分であった。

その後、俺は依頼書の指示にあるように依頼主であるオレガノ商会会長のバジルの元へ出向くのであった。





オレガノ商会の前には小さな幌馬車が一台止まっていた。

タイムは忙しそうに馬車の荷の積み込みをしていたが、俺に気がつくと心配そうに話しかけてきた。


「ヒジリさん。本当に大丈夫なんですか?ダークトレントの生息地域の闇の森は危険な場所ですよ。」

「ああ、そのことはさっき冒険者ギルドで聞いた。」


俺がげっそりしながら答えると、タイムが「またですか」といった表情で俺の肩にポンッと手を置く。


「そんなことだろうと思ってました。店長は時々、重要なことを伝え忘れるんです。まあ、大抵が確信犯ですけど。ただ、本当に無理そうなことを人にやらせることはありませんので、できないということはないと思います。」


タイムはそういうと俺から逃げるように離れていき、馬車の積み荷を確認していく。

俺はそれを横目に店の中に入っていくと、バジルが難しい顔をして手紙を書いていた。

俺が来たのを確認すると、バジルは筆をおき俺に笑顔で手を振る


「おう、ヒジリ。冒険者ギルドの依頼手続きは終わったようだな。俺も商業ギルドの依頼を受けたから、ついていくぞ。」

「商業ギルドの依頼?」

「ああ、闇の森の麓にココイチって村があるんだ。そこの村長宅に物資を届ける依頼だ。」

「それで外でタイムが馬車に荷を積んでいただな。」

「ああ、ついでに俺はその村で露店を開くからその間に討伐してきてくれ。」

「それより、闇の森はランクDの危険な場所だって聞いたぞ。どういうことだ?」

「ん。言ってなかったか。まあ、今のお前なら大丈夫だろう?」

「何を根拠に言ってるんだ?俺の戦闘経験はスライム一匹だけだぞ。」

「ガハハハッ。俺は元ランクCの冒険者だぞ。見ただけでも相手の強さがある程度わかるんだ。お前、下水道の依頼以降、何か訓練をやってるだろう。明らかに動きが良くなってるからな。」


元冒険者だとは聞いていたが、バジルはランクC、それなりのランクであったようだ。

確かランクCは中堅どころの冒険者だったはずだ。

怪我で引退してなかったら、もっと上に上り詰めていたのかもしれない。

天は二物を与えずというが、バジルは冒険者と商人の両方の才能を与えられているのかもしれない。

尤も、本人が一番欲しかったのは職人の才能だったのだが。


「それじゃあ、今の俺はどのくらいの実力なんだ?」

「ん。そうだな、ランクEの中ってところじゃないか。」

「・・・・・・」

「ハハハッ。心配するな。確かに闇の森にはランクDの魔物もいるが、そのランクは光属性の武器を持ってないで戦った時にランクだ。光属性の武器は値段も高いが闇属性の魔物相手にはすこぶる相性がいい。十分やっていけるはずだ。」

「ホントかよ」


俺の呟きにバジルは笑って答えようとはしなかった。





2時間後、馬車の準備が終わり、出発の準備が完了した。

荷台には行き帰りの食料とココイチの村への輸送物資、そして販売用の商品がぎっしりと積み込まれていた。

ダイアとモンドも見送りにやって来ていた。

二人とも手には小さな魔道具を持っている。


「ヒジリ様。これを持って行ってください。」

「ん。これは?」


ダイアが手に持っている魔道具はクリスタル製の小瓶が取り付けられた魔道具であった。

瓶の中には液体が入っている。


「この小瓶に入っているのは聖水です。そして、これはは聖水を霧状に周囲に散布する魔道具です。」

「聖水を散布?」

「はい、闇の森の魔物は闇属性の魔物ばかりなので、これを使えば弱体化できます」


ダイアは胸を張って、説明をする。

そして、一歩後ろに下がると、代わりにモンドが一歩前に出て俺に魔道具を手渡す。


「これは?」

「おじさんが良く引っかかってた認識阻害の魔道具だよ。魔力消費が激しいからトータルで4日ぐらいしか使えないけど、盗賊程度なら気づかれることはないと思うから。」


モンドはいつもの生意気な態度と違って、少しモジモジしながら魔道具を手渡してくる。

俺が受け取ると一歩下がりダイアと並ぶと少し寂しそうな表情になる。


「二人とも俺のためにありがとうな。」

「おじさん、怪我なんてするんじゃないぞ。」

「ヒジリ様、お気を付けください。」


二人は一斉に俺に抱き着いてくると泣き出すのであった。

今朝までは全くそんな素振りは見せていなかったのだが、二人とも俺が危険地帯に行くのを知って、不安で仕方がなかったのだろう。

そんな二人の頭を俺はただただ撫で続けることしかできなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ