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趣味?で生き抜く異世界生活  作者: 佐神 大地
異世界に転生する
36/86

36 意外な事実



その後、新たなスライムが現れる前にテキーラとカンパリが帰ってきた。

カンパリは一人で頑張って電撃魔法を撃っていたため、MP消費が激しかったためか、顔に疲労の色が見え、きつそうである。

一方、テキーラは魔物に遭遇しなかったのか、非常に退屈そうな表情で悠々と歩いる。


「おう、大丈夫みたいだな。なんか悲鳴を上げてたようだが?」

「ごめんねー。MP欠乏できつくてきつくて」


テキーラは軽い口調で、カンパリは申し訳なさそうに話しかけてくる。

俺は疲労と心労で疲れ切っており、返事をすることもままならないまま息を整え続けていた。

MP枯渇もあるのかもしれない。

たった一回の魔法であったが、なぜかかなりのMPを消費したようだった。

何も言い返さない俺を見たテキーラが何を勘違いしたのかしたり顔でカンパリに軽口をたたく。


「見ろ。ヒジリは大丈夫だったろ。俺の言った通りだ。だいたい大袈裟なんだよ、あんな悲鳴を上げて。ここのスライムぐらいなら子供でも倒せるんだぜ。」

「でも、ユニークのスライムの可能性もあったじゃん。」

「ないって。チップスが独自調査した結果、ユニークは下流口付近で目撃されてんだ。まだまだこの辺にはいないよ。」


カンパリの心配を無視してテキーラは得意満面に自分の効いていた情報を披露する。

テキーラは俺の方を向くと「いい気味だ」と言わんとばかりにニヤニヤと見ている。

そんなテキーラの行動にカンパリは呆れかえると俺の方にやって来て心配そうに俺を見る。


「大丈夫ー?かなり疲れてるみたいだけど?」

「ああ、なんとか。なんか、でかいスライムに、襲われたが、なんとか、やっつけることが、できた。」


大分体調が回復した俺は短く現状を伝える。

カンパリは不思議そうに周囲を見渡すと不思議そうに聞いてくる。


「スライムを倒すと、屍骸が残るはずなんだけど、どこにあるの?」

「屍骸?ああ、燃やしたから、そこにある黒いのがそうかな。」


息が整い体調が回復してきた俺は起き上がると、焦げ付いた物体を指さす。

カンパリはその物体を見て不思議そうな表情をする。

その物体は自身が知っているスライムの残骸とは全く異なるものであったからだ。


「おじさま。スライムに何したの?ふつー、こんな風にはならないわよ?」

「ああ、消毒薬をかけて燃やしたんだ?どうやら消毒薬でスライムの水分が抜け出るみたいなんだ。」

「そ、そーなんだ。」


カンパリはヒジリの言っていることのほとんどが訳が分からなかったが、別に理解しようとも思わなかった。

その手のことは自分の不得意分野であることを彼女は理解していたからだ。

代わりに、彼女はスライムの残骸に近づくと、顔をしかめながらそれを回収していく。

後で、ギルドに渡して解析してもらうためだ。


「うー。凄い臭い。最悪ー」


スライムからは焦げた臭いと塩素の臭い、更には周辺で臭っている悪臭を混ぜたような臭いがこの焦げた物体から発せられていた。

それを回収しようとしたカンパリはその臭いに当てられてたじろいでしまうが、何やら瓶のようなものを取り出すと、スライムの屍骸はその瓶の中に吸い込まれていく。

回収を終えたカンパリはテキーラとヒジリの方に向き直ると口を開く。


「これからどーすんの?」

「何言ってるんだ?このまま探索を続けるに決まってるだろう?」


テキーラは「何を言っているのか?」と言っった表情ではある。

体調万全で力が有り余っているテキーラにとって、依頼は達成していないのだから、依頼を続行するのは当然のことである。

ところが、カンパリとヒジリは状況が違っていた。

カンパリは分岐路の先でかなりの電撃魔法を使っており、MPの消耗が激しかった。

ヒジリも精神的疲労もさることながら、持ってきた消毒薬のほとんどを使用してしまっていたため、実はこれ以上の探索は不可能であった。

結局、三人中二人が撤退を要求したため、下水道浄化作戦は失敗に終わった。





俺たちが撤退して1週間後、俺たちは再び冒険者ギルドに集結した。

第2次下水道浄化作戦を決行するためだ。

俺とダイアたちはその間に大量の消毒薬の生産していた。

そして俺はそれを小分けにしていつでもスライムに投げれるように背負い袋ではなく、ショルダーポーチにしまい込んでいた。

さらには対スライム用の初心者用の武器も用意した。

バジルに「誰でも使えるスライム用の武器はないか?」と聞いたところ渡されてたのは長めの木の棒であった。

バジルは豪快に笑いながら「スライムは体の中の核を潰せば倒せるんだ。だから、柄の長い武器を使えば子供でも倒せるぞ」と教えてくれた。

「・・・あの巨大なスライムを子供が倒せるのか?」と疑問に思わなくもなかったが、ありがたいアドバイスと共に木の棒を譲り受けた。


そして、万全の準備をして第2次下水道浄化作戦に臨んだ俺はそこで意外な事実を知ることとなる。

再び会議室に集まった俺たちにウォッカが発した第一声が依頼の中止を告げる言葉であった。

ウォッカとチップスは気まずそうな表情で主にテキーラを見ている。


「はっ?中止ってどういうことだ?」


テキーラが怒りの感情を隠すこともせず、ウォッカに食って掛かる。

彼はここしばらくの間、この依頼のために拘束されていたので、そろそろ我慢の限界に来ていたようだ。

カンパリは文句も言わず、一人何やら神妙な表情で事の成り行きを見守っている。

そして俺はというと、再び下水道に降りずに済んだことに内心ホッとしていた。

俺は安全第一だからだ。

とは言うものの、やはり中止の理由は気になる。

あれほどユニークスライムの討伐と下水道の浄化に躍起になっていたのにここで中止というのは腑に落ちない。


「ウォッカ。延期じゃなくて中止ってことは下水道のユニークスライムはどうするんだ?」

「・・・・・・。ヒジリ、お前がそれを言うか?お前が倒したスライムが確認されていたユニークスライムだ。戦闘は無理だって言ってたくせに、何一人で大物喰ってんだ。」


ウォッカのため息交じりの言葉に俺とテキーラが驚き、カンパリが納得の表情となる。

そういえば、カンパリは俺が倒したスライムを回収し、ギルドに提出していた。

何か気になることがあったのだろう。


「やっぱり、そーだったんだ。でかいって言ってたからちょっと気になってたのよねー」


どうやら、俺が倒したスライムはやはり通常種と比べ大きかったようだ。

通常は10~30センチくらいの大きさで、中の核も1つしかないそうだ。

テキーラに「なんで合流したときに言わないんだ」と責められたりもしたが、初めてスライムと遭遇した俺にはあのスライムが通常種かユニークかの区別がつかなかったので仕方がないことだ。

そのことを伝えると、テキーラは「意味が分からん。」とあきれ顔で呟いていた。


こうして、ユニークスライムの討伐は知らず知らずのうちに俺が討伐してしまっていたのであった。

更には、下水道の臭いについてなのだが、この1週間で激減したらしい。

俺がユニークスライムを倒すために大量に消毒薬をまき散らしたのがゆっくり広まっていったせいなのか、もしくはユニークスライムを討伐したおかげなのか分からないが、今ではあの堪えられない臭いはほぼなくなったらしい。


「下水道の危険レベルも下がって、下水の汚染度?だったか、それも低下したので依頼のランクも下がったんだ。だから、高ランクのお前たちに強制依頼する必要がなくなったんだがどうする?」と聞かれたため、俺は喜んで依頼を辞退し、用意した消毒薬を念のためにウォッカに卸すことにした。

前回の経験から消毒薬は100メートルに1個ずつで十分であることも伝えた。

テキーラとカンパリも辞退したため、依頼は低ランクの冒険者に引き継がれることとなった。

依頼料については前回の第1次下水道浄化作戦が依頼達成扱いとされて今回参加しなくても最初の規定に沿って支払われるということになったのだが、ここで問題が起こった。


「えっとですね。今回の依頼の報酬は全部合わせて、300,000ギルです。あの、事前の取り決めでヒジリさんに三分の一の固定ということで100,000ギル。残りをテキーラさんとカンパリさんでお分けするということだったのですが・・・」


何か問題があるのか、チップスが何とも言えない表情で俺たち3人の顔を見ていく。

しばらくの間、沈黙がこの場を支配したが、テキーラとカンパリが同時に「あっ」と声を上げる。

二人の表情は対照的であった。

テキーラは真っ青な顔になり、カンパリは満面の笑みで微笑んでいる。

そう、二人の依頼料は道中の貢献度で決めるということだったのだ。

本来なら、ユニークスライムを討伐する予定であったテキーラの方が多めになるはずであったのだが、なぜか俺が討伐してしまったのである。

それどころか、あの時点でテキーラは一匹も魔物を討伐していなかったそうだ。

つまり、貢献度ゼロである。

二人が今から揉めるのは火を見るより明らかであるのであ俺はとっとと依頼料を貰って退散することにした。


「チップスさん。とりあえず、俺は先に依頼料を貰っても構わないよな。」

「よ、よろしいのですか?テキーラさんの代わりにユニークを討伐されたのですから、増額を要求することも可能ですよ?」


なるほど、そういうことだったのか。

だが、この分配を決めたのは俺である。

あの時、こういう状況を考慮しなかったのは俺なのだから要求しづらい。

それに・・・面倒だ。


「いいよ。別に」


俺の一言で問題の一つが解決したチップスは「助かります」と心の底から感謝の言葉を発するのであった。






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