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趣味?で生き抜く異世界生活  作者: 佐神 大地
異世界に転生する
35/86

35 下水道浄化作戦2



カンパリが4発目の電撃魔法を放った直後、俺たちは岐路に立たされた。

人生の岐路ではなく、文字通り分かれ道である。


「チップスからもらった地図によると右がメイン通りで、左が分岐路だな。」


テキーラが地図と睨めっこをしながら小さく唸る。

現在テキーラはマッパーとかし、地図を睨めっこしながら歩いているだけである。

下水道に巣くう魔物、主にスライムはカンパリの電撃魔法で跡形もなく消し飛んでいるため、テキーラの活躍の機会は全くない状況であった。


「どうするんだ?」

「そうだな・・・。先に分岐路を攻略するか。俺とカンパリで分岐路をクリアしてくるからヒジリはここで待機していてくれ。」

「ここで・・・待つのか?」


テキーラの予想外の言葉に俺の背筋に冷たいものが走る。

俺はてっきり一緒に行くものだと思っていた。


「ああ、ここに人を残しておかないとユニークスライムが知らない間に上流に移動する可能性があるからな。」

「・・・ちょっと待て。俺が一人でユニークスライムと遭遇したりなんかしたら、間違いなく死ぬぞ。」

「まあ、そこは頑張ってくれ。」

「頑張ってくれって・・・」


俺の必死な懇願もテキーラとカンパリには届かなかった。

カンパリは「このくらい冒険者なら当然だ」という風で俺を一別すると、さっさと分岐路の方に電撃魔法をぶち込み、突入していく。

テキーラはニヤリと笑って、その後に続いたところを見ると、クソッ、仕返しだな。

こうして、俺は一人取り残されることとなった。





分岐路がどのくらいの長さなのか分からないため、二人がいつ帰ってくるのか分からない。

その間、俺はここで一人で留守番だ。

もちろん、魔物が現れたら、即撤退の予定である。

「俺は戦わなくてもよい」という言質は取っているので、逃げても問題はないはずだ。


出てくるのはスライムと言っていたのでそれほどスピードはないはずだ。

・・・・・・ないよね?

スライムはスライムでもメタル色のスライムなんてことはないよな?

すばやくなくても、猛毒や強酸のスライムだったら、最初の一撃を受けた時点で俺の命は危ないかもしれない。

いや、弱いスライムでも大量に出てきたら俺では捌き切れない自信がある。

俺には戦う術がないのだ。

この世界で戦闘訓練を受けたという事実もなければ、前世で武術を習っていた記憶もない。

・・・前世で太極拳というなの健康体操を友人に教えてもらった記憶はあるが、あれは武術では決してないはずだ。


俺はここに来て戦闘訓練をしていなかったことをひどく後悔する羽目になった。

ウォッカからは「冒険者は何があるか分からないので基礎訓練は受けた方がよい」と言われていたのだが、危機感のなかった俺は断り続けていたのだ。

冒険者という危険と隣り合わせの職に就いたのに、俺は「自分は戦闘を行うようになることはない」と信じていた。

いや、この世界が剣と魔法の世界であるなら、一般人であっても危険に巻き込まれるリスクは常にあったわけだ。

街の外は魔物や盗賊が闊歩する世界で、街の中も日本のように治安の良い場所ではないのだ。


俺は背負い袋から木工細工で使う小刀を取り出し手に持つ。

手ぶらで下水道に降りようとしていたところ、ダイアに「何か持ってないと危険だ」と言われて持ってきていたのだ。

本来なら、下水道内に足を踏み入れる前に装備しておくべきであったのに、今頃背負い袋から取り出している時点で危機感がなさすぎる、と思わずにいられなかった。


刃渡り10センチほどの小刀は魔物を相手にするには心細い。

かといって、刃渡りが1メートル以上のバスターソードが手元にあっても俺に使いこなせるわけではない。

おそらく、今現在の俺に仕える刃物はこの小刀か台所で使用している包丁ぐらいであろう。


テキーラとカンパリが分岐路に入ってかなりの時間が経っている。

そろそろ二人が戻って来てもいい時間だ。

小刀を持つ俺の手がガタガタと震えている。

全身はガチガチに力が入っており、体はこわばっている。

自分でも「今襲われたなら何の抵抗もできそうにない」ということは分ってはいるのだが、だからと言ってどうしようもなかった。


「早く帰って来てくれ。」


俺の口から弱音がこぼれ落ちる。

もうこれで、何度目であろうか。

俺の目線が分岐路の方を見ていると、背後からぴちゃぴちゃといった音が聞こえてきた。


「・・・・・・!?」


振り返ると、そこにいたのは・・・スライムであった。





スライム。

某国民的RPGでは最弱のモンスターであったが、他のゲームでは中々に強い性能のスライムも出てくる。

物理耐性があり、通常攻撃ではダメージを与えられないスライム、初めは弱いが、周囲の物をどんどん吸収してレベルアップしていくスライム、厄介な物はたくさんいた。


さて、目の前のスライムだが、コミカルはフォルムではなくゲル状の凶悪そうなスライムである。

どう見ても体当たりという物理攻撃をするようなスライムではなく、獲物を体内に取り込んで吸収するタイプのフォルムである。

大きさは・・・1メートル近くある。

これ、大きくないか?


異世界初対決の魔物がこの手のタイプであるとは思ってもいなかった。

これなら街の外に出てウルフと対決した方がましのような気もする。

はっきり言って、俺の小刀が通じる相手ではなさそうだ。

見た感じ、移動スピードは遅そうなので逃げれば何とかなるかもしれないが、逃げた先にスライムが発生していれば、絶体絶命だ。


「ど、どうする?」


スライムはびちゃびちゃと音を立てながらこちらに近づいてくる。

なぜここまで近づかれるまで気が付かなかったのだろうか。

俺はすり足で少しずつ後ろに後退する。

後ろを向いた瞬間、飛び掛かられたりしたら目も当てられない。

かといって、このままでは俺とスライムの距離がゼロになるまで数分と掛からないだろう。


ここで俺のできる手段は一つしかない。

俺は意を決すると息を大きく吸い込んで叫んだ。


「助けてー」


下水道に俺の声が響き渡る。

40のオッサンが助けを求めるのはちょっと恥ずかしいものがあったが、プライドよりも命の方が大事だ。

これでテキーラたちがすぐさま帰って来てくれるはずだ。

俺はそれまで耐え続ければよい。

・・・・・・来てくれるよな?


できれば、この場所から逃げたくはなかった。

逃げた場合、二人に俺がどちらに逃げたか分からないからだ。

普通に考えれば、俺が上流口に向かって逃げるのが定石なのだが、もし二人が反対を調べに言ったのなら、俺は窮地に陥る可能性がある。

それに俺が逃げるということは、二人からも遠ざかるということになるのだ。

できるだけ、この場で踏ん張った方がいいのは火を見るよりも明らかだ。


スライムはジワジワと俺ににじり寄ってくる。

俺も少しずつ後ずさってはいるが、スライムとの距離はどんどん縮まっている。

スライムが近づいてくるにつれて、ヌメヌメとした不定形で内部に核なのかいくつかの物質が浮いているという奇妙な形態が俺の目に飛び込んでくる。


「こいつ、アメーバーにそっくりだな。」


微生物であるアメーバーと大きさは全く違うのだが、一度そう思うと、俺にはこのスライムはどう見てもアメーバーにしか見えなくなった。

アメーバーなら消毒薬が効くんじゃないか?

そう思った瞬間、俺は背負い袋から消毒薬を取り出すとそれをスライムに投げつける。


途端に辺りに塩素の臭いが充満していく。

スライムは変わらず俺にすり寄ってくる。

効いていないのかと思いきや、よく見るとスライムの通った後が消毒薬を投げつけた後の方がより濡れているのがわかる。

濡れている、ということはスライムから水分が抜けてきているということだ。

つまり、消毒薬は効いているのである。


俺は持ってきた消毒薬をどんどん投げつける。

僅かではあるが動きが遅くなり、スライムのボディーが半透明であったのが濁ってくる。

大きさも幾分小さくなってきているが、まだまだ50~60センチぐらいはある。

あの体が強酸なら飛びつかれたら一巻の終わりである。


さらに消毒薬を投げつけようとしたのだが、背負い袋の中に消毒薬は入っていなかった。

スライムはどんどん迫ってくる。

テキーラとカンパリは未だに戻ってくる気配はない。


「やばいな。これは逃げないとまずいかな?」


俺に残された攻撃手段はもうない。

・・・いや、もう一つあった。

俺はこの世界に転生して魔法を使えるようになったのだ。


着火(ファイア)


俺の詠唱とともに小さな火種が俺の背負い袋に火を付ける。

良く燃え上がる背負い袋を確認するとスライムに投げつけた。

加熱することで消毒薬の化学反応を促進させようと考えたのである。


ジューという音とともにスライムから煙と塩素と硫黄らしく臭いが合わさったものが辺りに充満していく。

「成功した」と思ったのもつかの間、充満した煙が俺の元まで流れてきた。


「やべっ!うぇっ。ごほっ、ごほっ」


スライムから発生した煙が容赦なく俺の喉と目を襲い、俺は咳き込みながら目をつぶってしまう。

数秒後、煙でしみた目を無理やり開けてスライムのいたところを確認すると、そこには焦げた物体が残されていた。

おそらくこれがスライムの残骸なのだろう。

消毒薬が熱により活性化し、体中の水分がすべて抜き出てしまった後、炎で燃え尽きたとかであろうか?

何はともあれ、俺は助かったのであった。






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