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趣味?で生き抜く異世界生活  作者: 佐神 大地
異世界に転生する
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28 二人の境遇



ウォッカとの話し合いの結果、下水道の滅菌とユニークのスライムの対処は高ランクの冒険者で行うことになった。

テキーラを中心に高ランクの冒険者を秘密裏に集めるそうだ。

どこからともなく、テキーラの悲鳴が聞こえてきた気もするが、きっと気のせいだろう。

戦闘に関しては俺は関係ない。

頑張れ、No1冒険者。


ウォッカがすぐさまチップスと連絡を取り、作戦の許可を得ることもできた。

しかも、チップスの配慮によりダイアとモンドも正式に協力者として街に雇われ、依頼料が払われることとなった。

決行日は1週間後となり、それまでの間に消毒薬を完成させることになった。





「ヒジリ様。ここの翻訳をお願いします。」

「ああ。えっと・・・。『電撃魔法を直流電流にするためには・・・・・・。』だそうだ。」

「次はここです。」

「・・・・・・」


ダイアが指示する部分を次々に俺が翻訳していく。

はっきり言って、内容はほとんど理解できなかった。

アイデア帳には次亜塩素酸ナトリウム水溶液の製造魔道具の作り方が記されていた。

ただし、アイデア帳にも書かれていたように、貴重な材料がふんだんに使われていたため、非常に高価な魔道具になってしまうのだ。

俺が材料を読み上げた時、あまりに高価な材料の数々にダイアとモンドがフリーズしてしまうという事態に陥ってしまった。

明らかに入手困難な材料も含まれていたため、代替材料の発見や違う技術による改良を迫られた。


「モンド、次はこの材料を試すわよ。」

「わかったよ。姉ちゃん。」


ダイアの指示の元、モンドがテキパキと動いていく。

いつも熱視線を送ってくるダイアであったが、今は真剣な眼差しで魔道具作りに励んでいる。

指示を受けるモンドもいつもの腕白坊主の面影はなく、懸命に姉の指示をこなそうと頑張っている。

二人の意外な一面を見た気がした。


そして一つ気になったことがあった。

この姉弟以外に魔道具普及委員会のメンバーが見当たらないのだ。

街からの依頼なのだから、委員会総出で取り組んでもいいはずなのに、この二人以外このプロジェクトに参加しないのは不自然なのだ。


「なあ、ダイア。他のギルド員はいないのか?」

「・・・えっと」


俺の質問にダイアが明らかに動揺する。

モンドの挙動も可笑しくなる。

おろおろしながら不安そうな表情でダイアと俺を交互に見つめる。

これは、何かあるな。

俺が黙って、ダイアの返答を待つ。

ダイアはブルブルと震えだし、下を向いて固まる。

沈黙が続く。

場の空気が重くなる。

遂には耐えきれなくなったのか、ダイアは泣きながらその場に崩れ落ちる。

「うわーん」と泣くダイアにモンドが慌てて駆け寄ると一緒に泣き始める。

まさかここまで追い込むことになると思わなかった俺が逆に慌てることになる。


「おい、ダイア、モンド。一体どうしたんだ?落ち着け。」


俺は二人をなだめるために多大な労力をかけることとなった。





「一体どうしたんだ?」

「・・・ヒジリ様。取り乱して申し訳ありません。」


落ち着いたダイアが未だに愚図ついているモンドの頭を撫でながら謝罪してくる。

落ち着いたとは言ってもダイアの表情も暗いままだ。

確か、モンドは11歳、姉のダイアも14歳だったはずだ。

こんな幼い子供たちがこんなに狼狽えるとは一体何があるのだろうか?


・・・・・・ん?


俺はここであることに気が付いた。

15歳から冒険者になれることからも分かるように、この世界では15で成人なのだ。

つまり二人は未成年である。

だが、二人の保護者、そう両親にあったことがないのだ。


「なあ、二人の両親はどこにいるんだ?」


俺は意を決して二人に尋ねる。

この質問は二人にとって禁断の質問かもしれないからだ。

事実、ダイアの体がビクッと震えたが、彼女も覚悟を決めたのか自分たちの身の上を語り始めた。


「お父さんとお母さんは去年、魔道具の実験中に事故で死んじゃったの。それで本当なら私とモンドは孤児院に入らないといけなかったの。でも、孤児院に入ったら、私たち離れ離れになるって聞いちゃったから・・・・・・。」


そこまで言うとダイアの瞳に大きな涙があふれ出る。

歯をぐっと食いしばり、必死に泣くのを我慢している。


俺は事情を察した。

おそらく、ダイアは自分が成人する15になるまで逃げ伸びることで二人が孤児院に入るのを逃れようとしていたのだろう。

そう考えると、いろいろと符合することがある。

魔道具普及委員会の建物なのに認識阻害の魔道具を使っていたのは孤児院から逃れるためなのかもしれない。

モンドが「シスコンかよ」と疑いたくなるほど姉を慕っているのもこのような状況下で姉に依存しているからなのかもしれない。

そして、ダイアが俺を慕うのも俺に亡き父親の面影を重ねているのなら頷ける。


・・・別にざんねんではないぞ。俺はロリコンではないからな。


事情を知ってしまった俺は岐路に立たされる。

この姉弟の処遇をどうするかだ。

街に知らせて孤児院に無理やりいれるか、もしくは見逃してやるかだ。


そもそも、周囲の人たちはこの姉弟のことをどう思っているのだろうか。

冒険者ギルドのウォッカやシードルは二人のことを知っていたようだが、この状況を考えると見逃しているのだろう。

それともう一つ気になることがある。

他のギルド員はどこに行ったんだ?

名前こそふざけたものだが、仮にも正規ギルドでこの国ではそれなりの規模であると言っていた。

ギルド員が一人もいないということはないだろう。

他のギルド員たちは二人に援助をしていないのだろうか?


「それで他のギルド員はどこに行ったんだ?」

「・・・あの裏切り者たちはお父さんたちが実験で失敗した後、みんな出て行ったの。」

「裏切り者って?」


ダイアの口から物騒な言葉が飛び出した。

まだ、薄情者ならわからなくもないが、裏切り者とは穏やかではない。


「父さんたちが事故を起こした次の日、突然全員がギルドにやって来て、移転届を出していったの。しかも、このギルドに保管されていた貴重な資料のほとんどを勝手に持っていったの。」


ダイアは悔しそうに唇を噛みしめる。

何だかきな臭い話になってきた。陰謀の臭いがする。

その時、俺はハッとなり手に持っているアイデア帳を見る。


「・・・貴重な資料ってもしかして」

「うん。初代ギルド長が残したものよ。このアイデア帳は現本なんだけど、あいつらはそのことを知らなかったみたいで、2代目が翻訳した本を大事そうに持っていったわ。」

「そ、そうか」


思った以上にきな臭い話だった。

下手をしたらダイアの両親の事故もそいつらが仕掛けた可能性もある気がしてきた。

そしてダイアはそのことに気づいているのかもしれない。

そう考えると、この二人の子供がひどく不憫に思えてきた。

何とか手助けをしてやりたいという思いがこみ上げてくる。

まあ、この世界に転生したばかりの俺では手助けするにも限度と言う者があるが・・・。



「ダイア、モンド。二人に一つ確認したい。君たちはそいつらに復讐をしたいのか?」


俺は二人を正面に見据えると真剣な表情で問いかけた。

二人の手助けはしたいが、復讐の手助けをするつもりはさらさらない。

ダイアは一瞬キョトンとしたが、すぐに真剣な表情になると首を横に振る。


「私たちが望むのは両親が愛したこのギルドの復興です。」


ダイアは真っすぐと俺を見据えて宣言する。

モンドも横でウンウンと頷いている。

二人の覚悟は伝わった。

それなら俺も覚悟を決めよう。

これも乗り掛かった舟だ。


「わかった。俺がどれだけ手伝えるか分からないが、できる限り協力してやる。」


俺の言葉にダイアは満面の笑みで抱き着いてくる。

モンドは複雑そうな表情で姉と俺を交互に見ているが、先ほどと違って嬉しそうな雰囲気だ。

俺と目が合うと少し恥ずかしそうな顔をするとなんと、なんとモンドまでもが抱き着いてきた。

意表を突かれたものの俺は二人をしっかり受け止めると、二人を優しく抱きしめた。

腕の中から二人の泣き声が聞こえてくる。

よっぽど心細かったのだろう。

俺は二人が落ち着いて泣き止むまで、二人の頭を撫で続けるのであった。






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