27 ロリコン認定!?
「0.2%以下の食塩水を電気分解したときにできる水溶液で隔膜を使用したものを次亜塩素酸水、使用しなかったものを次亜塩素酸ナトリウム水溶液という。次亜塩素酸水は高い殺菌作用を持つがすぐに不活性化するため、活用にはかなりの制限がある。そのため、この世界では次亜塩素酸ナトリウム水溶液の開発をしようと思う。
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この世界では直流電流をどうするかという問題もある。
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結果として、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の生成には成功したが、コスト面を考えると現時点での量産は難しいと考えられる。」
俺はアイデア帳を読み進めてこの著者である初代ギルド長に畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
彼は非常に化学に通じているのである。
いや、模倣とはいえ、いくつもの家電製品を魔道具で作っていることを考えると、物理学や電気工学など様々な分野に秀でていたのであろう。
そうでなければ、転生後に元の世界の知識をここまで書き記すことなどできるはずがない。
いやそれどころか、こちらの技術である魔法についても理解をし、いくつもの魔道具を開発しているkとを考えると、天才以外の形容詞は思いつかなかった。
この本を読み進めると自分がいかに凡人であるかを認識せずにはいられなかった。
少しは自信があったのだが、その自信は木っ端微塵に打ち砕かれた。
はっきり言って、俺には理解できない単語や理論がいくつも出てきた。
特に秘密道具当たりの記述はチンプンカンプンであった。
そして、本来なら知っていても可笑しくない次亜塩素酸ナトリウム水溶液の作り方もうろ覚えであることをみごとに指摘されていた。
隔膜はいらなかったのだ。
「はあ、すごいなこの人は。」
俺のつぶやきを聞いたダイアは何かを確信し、食い入るように聞いてくる。。
「あの、やっぱりヒジリ様はこの文字を読めるのですね。」
「ああ、読めるぞ。この文字は日本語って言って転生前の母国語だ。」
「それにしても、初代ギルド長はすごいな。よく、ここまでのことを研究で来たよな。」
俺の言葉にダイアは沈黙で答える。
その表情は複雑な者であった。
「ん?どうしたんだ。」
「実は私にはその言葉は読めないのです。日本語・・・ですか?その言葉を初代ギルドマスターに習ったのは二代目ギルドマスターだけなのですが、その方も完全には理解しておらず、その本の完全翻訳はできていないのです。」
「そ、そうなのか。」
「はい、私たちは専ら2代目が翻訳した不完全なものを読み、解読していくことしかできていなかったんです。」
なるほど、ダイアが見せる表情は申し訳なさと期待とが半々に混ざりあっているためであった。
その横で、弟のモンドはキョトンとしていることから、おそらく何も知らされていないのだろう。
あまりの展開の速さに理解も追いついていないように見える。
「ヒジリ様、お願いします。一つでもいいので翻訳をお願いできないでしょうか。」
ダイアは身を乗り出して頼んでくる。
つぶらな瞳で俺を見上げてくる。
胸の奥に何か熱いものがこみあげてくるのを感じる。
いやいやいやいや。
俺は決してロリコンではない。
だが、俺はこの誘惑に抗うことができなかった。
・・・・・・そう、これはきっと小さな動物を見ると保護したくなるよな、あれだ。
うん、きっとそうだ。
前世ではそれを利用した小さな動物を使ったCMが流行したことが何度もあった。
数年前だが、街金がチワワを使ったCMが一世を風靡したのは記憶に新しい。
この気持ちはきっとそれと同じだ。
俺は必死に自分の心の中に湧き上がるロリコン疑惑を否定していた。
他の者に聞かれたら「それをロリコンというんだ」と言われるような理論であったかもしれないが、俺はそれを拠り所として心の安寧を保つのであった。
◇
ダイアとの交渉の結果、消毒薬を作る魔道具を作るのを条件に他の魔道具の製作を1つだけ手伝うことで落ち着いた。
初代のアイデア帳の中にはちょっと危険なものをあったので、製作を手伝う魔道具は俺がいくつか厳選した中からダイアが選ぶこととなっている。
交渉の終わった俺とダイアは二人で冒険者ギルドを訪れていた。
進捗状況を伝えるためだ。
ギルドに入ると俺を見つけたウォッカが担当していた冒険者を他の職員に押し付けると急いで俺の元までやって来た。
「おう、ヒジリ。久しぶりだな。それとダイアも久しぶりだな。」
「ウォッカさん、お久しぶりです」
ウォッカに丁寧に挨拶をするダイアを見て、二人が知り合いであったことを知る。
そういえば、モンドもウォッカやシードルと知り合いであった。
二人と冒険者ギルドは深い繋がりがあるのかもしれない。
「それより、対応していた冒険者を放り出して良かったのか?」
「何言ってんだ。俺はお前の専属の担当なんだから当然だろう。」
「専属の担当?」
「何言ってんだこいつ?」という顔のウォッカに俺は真顔で聞き返す。
それを聞いたウォッカは渋い顔をする。
「おいおい。登録の時に説明したよな。指名依頼を受けるぐらいになったら専属の担当が付くって」
「そうだったか?」
俺は記憶を必死に辿っていくが、そんなことを言われた記憶はなかった。
というか、俺は冒険者ギルドでランクを上げる予定がなかったため、その辺の話はほとんど聞き流していた。
「だいたい、俺はまだFランクだぞ。専属が付くなんて早いんじゃないか?」
「・・・仕方ないだろ。今回の依頼はお前への指名依頼になってんだ。本来、ランクDの冒険者からなのにランクFのお前に指名依頼なんて異例中の異例なんだ。ギルド長と領主が無理やり認可してたんだ。、」
ウォッカがそう言って苦笑いをする。
どうやら、今回の依頼は権力によって無理やりねじ込まれたらしい。
というか、これってどう見ても依怙贔屓だよな。
ここで俺にある疑惑が浮かぶ。
「なあ、ウォッカ。こういう場合、他の冒険者から嫉みや僻みがあるんじゃないか?」
「ん?ああ、あるかもしれんが、たぶん大丈夫だと思うぞ。」
「なんでだ?」
「そりゃあ、担当が俺だからだよ。人気のある女性の受付嬢が担当ならお前は明日の朝日を見れてないかもしれんが、俺が担当になったのを恨むような奴はこのギルドにはいないはずだぞ。どちらかというと、面倒な依頼を押し付けられたって憐みの目で見られるんじゃないか?」
そういってウォッカは豪快に笑う。
俺も笑いたいところだが、笑い声はでなかった。
何だか不気味な視線を背後から感じたからだ。
後ろを振り向いても俺たちを見ているやつはいなかった。
お尻のあたりがゾクリとしたが、気のせいだよな。
◇
俺は指名依頼の話をするため、例の小さな会議室を借りることにした。
この依頼の内容については口外しないことになっているからだ。
そのため、未だにダイアたちにも詳しいことは伝えていない。
「で、今日はどうしたんだ?いい作戦が思い浮かんだのか?」
「ああ、まだ完全ではないが、見通しは立った。」
「そうか。で、その作戦にダイアが関係してるのか。」
「ああ」
「うーん。本来は他の奴らには秘密だからなー。こいつらの手助けが絶対必要なのか?」
俺が小さく頷くとウォッカはしばらく悩んだ末に、「俺からチップス殿に言っておいてやる。」と許可をくれた。
その後、俺は消毒薬についてウォッカに延々と説明をすることとなる。
ウォッカの理解力はダイアとは比べるまでもなく低いものであった。
「だからなんで、悪臭と消毒薬が関わってくるんだ?」
「悪臭は細菌が原因なんだ。っていうか、そもそも俺が指名依頼を受けた理由は下水道で疫病が蔓延する可能性があるからだぞ。悪臭は関係ない。」
「ユニークのスライムはどうするんだ?」
「それは高ランクの冒険者に任せる。それこそ指名依頼をすればいいだろう。俺に武力を求めるな。」
説明の大半は本題とは些か外れた内容であったが、1時間ほどで何とか説明し終わることができた。
その時には俺とウォッカはクタクタとなっていたことは言うまでもない、
疲れ果てた俺は隣に座っているダイアの顔を見る。
そこには天使のような笑顔が俺を見上げている。
ああ、癒される。
その光景を見ていたウォッカが俺をロリコン認定したのは言うまでもない。




