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この世界に来るまでは普通のサラリーマンだった。
・・・正確には、この世界に来る直前、心が潰れた。
仕事上のストレスも当然あった。
平均月間残業時間は50時間程度で長時間労働ではあったが
世に言うブラック企業ほどの労務環境では無かった。
心が潰れたのは心の拠り所の喪失である。
両親兄弟とは没交渉。
10代の頃から長年連れ添い、ようやく結婚したはずの配偶者とのすれ違いと別離。
その後、心の支えとなった職場同僚との別離。
人間は、独りであっても
住居があり、一定の収入があり
なんらかの手段で休日の時間を過ごすことができれば
そのまま人生を全うできると思っていた。
少なくとも自分は独りでも生きていけるだけの強さを持っていると思っていた。
オレが弱かったのか、そもそも人間がそのようにできているのか
そんなことは無かった。
「楽しく無いなぁ」
「つまんないなぁ」
休日の午後にただ独り、何回この言葉をつぶやいたことか。
ただ孤独なだけ。
生きる上では
孤独になって1年
オレは様々な人を恨み、世の中の理不尽を恨み、自分の選択を恨み続けた。
生命維持にはなんの支障も無いはずだが、オレを蝕む絶望感は
オレを着々と自死に誘っていった。
心が少しずつ、絶望で満たされていくのを感じながら毎日床についていた。
サイコロを振る。
たまたま6の目が出る。なので今日は生きよう。
それが毎日続いている。
そんな日々だった。
そんなある日、敵襲の音で目覚めると
この世界で「ハク」という存在として生きていた。
死後の世界なのか、夢の中なのか、未だに分からない。
死にたかったハズのオレは、死が日常的にあるこの世界で、なんとか
肉体を鍛え上げ、スキルを身につけ、その時々の戦友と共に必死に生き延びてきた。
トラップ魔法で下半身が吹き飛び、傷病兵収容所から半年以上出て来ない仲間もいる。
明日死ぬかもしれない事はただただ恐怖でしかない。
自分でも心境の変化に驚きである。
どこまでも生に執着して生き抜いてやる。
間も無く我が国の支配下地域を抜ける。
休戦協定中ではあるが、自国以外の領地は何があるか分からない。
この世界に来て死線を何度かくぐったせいだろうか。
アドレナリンの放出を感じる。
何者かが我々に敵意を向けている。
20m先を進むセスも警戒モードに入ったようだ。




