表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/106

朝の会話と双子の謎

早朝ーーーーーー 陽が差し始めた頃ーーーーー


昨日ほぼ1日中ずっと眠っていたので、早くに目が覚めた辰姫は少し身体を動かすことにした。早く身体の調子を取り戻したいからだ。流石にまだ病み上がりなので剣を振ったりするのは今日は止めておく。あくまで軽く散歩程度をする予定だ。


辰姫はまだぐっすりと眠っているチナミを起こさないようにそっと外に出た。一応護身用に自分の剣を腰に下げるのを忘れない。


外は早朝だからか薄らと霧に覆われていた。恐る恐る歩き始める辰姫。その時、前方の誰かから声を掛けられた。霧の中から2つの人影が見える。やがて、霧が薄れてぼんやりと見えてくるようになると、そこには双子と思われる男女が立っていた。だが、この2人にはどこか妙な違和感があった。それが何なのか分からないが、何か幻のようなものを見ているような感じがしたのだ。辰姫が思わず身構えると女の人が先に口を開いた。友好的な口振りで。


〈あら、あなた。こんな所で奇遇ね〉

〈本当にね。僕達はあまり人と交流はしないんだけどね。こんな所で会えるなんてなんて偶然だ〉

「えーと…… あなた達は……? ていうか、こんな山の中で何を……」

辰姫が思わず呟いた言葉に女の人は少し呆れた口調で話しかけた。


〈それを言うならあなたの方も何をしているのかしらね?〉

「う…… えーーと………… 私は仲間とあるものを探していてそれでこの山の中で……」

辰姫はポイニクスのことを伏せながら自分達の目的を話した。怪しい2人組だが、この世界やポイニクスの情報を何か知ってるかもしれないからだ。今度は男の人が辰姫に話しかける。


〈ふむ。君達が探しているものがこんな辺鄙な場所にいるのかはにわかに信じ難いが……〉

〈モンテ、何でもかんでもこうだと決めつけてかかるのは良くないと常に言ってるでしょ。科学を愛する者というのは何事にも色々と疑って掛からないと〉

〈分かっているさ、姉さん。だが、この娘が探している者はこの山にはいないのは事実だ〉

「え……? それってどういう……」

辰姫が思わず2人に尋ねると、2人は辰姫にアドバイスを送った。


〈そうね。折角だからあなたにはアドバイスを送るわ〉

〈ああ。科学を愛する者からの言葉だ。有り難く聞くことだ〉

そう1拍置くと、2人は交互に代わる代わる語り始めた。


〈絶対なんてものは〉

〈存在しない〉

〈見方を変えれば〉

〈答えも変わる〉

〈コインの裏と表のようにね〉

〈君達が追いかけている者でも〉

〈実は彼が君達を追い詰めているのかもしれない〉

〈これが科学というものよ〉

〈絶対的なものなど存在しない〉

〈見方を変えれば表にも裏にもなる〉


辰姫はふと何か彼らの言葉に違和感を覚えた。まるで自分達がポイニクスを追っていることを知っているかのような口振りだったからだ。その時ーーーーー


「おーーい、タツキ」

ルーカスの声が聞こえてきた。どうやらそれなりに時間が経っていたようだ。辰姫が振り返ってルーカスに返事をし、それから双子に声を掛けようとまた振り返った途端、彼らの姿は無かった。


辰姫は首を傾げて周囲を見渡すが、そこにはまるで最初から誰もいなかっ(・・・・・・・・・・)()かのように静かだった。


辰姫が戻って来た時、チナミやセールももう起きていて朝食の準備をしている所だった。辰姫はさっき起こったことを皆に話した。


「怪しい2人組に会った? どこで?」

「うん。あっちの方で話しかけられたんだけど、何か変なんだよね。なんかすぐに見えなくなったんだよ」

「えー…… こんな山の中に人なんかいるとは思えないけど……」

「案外辰姫ちゃんの見間違いじゃないかい? 僕やチナミは昨日あちこち散策したけど人なんて全然会わなかったよ」

「いや、本当にいたのよ! 信じられないかもだけど!」

「…………………」

チナミやセールは辰姫の話にどこか半信半疑だったが、ルーカスは辰姫の話を聞いて何か考え事をしているようだった。辰姫はそれに気が付いて何か知ってるんじゃないかとルーカスに尋ねた。


「あれ? ルーカス、何か知ってるの?」

「いや…… もしかしてお前の言ってるその2人組ってのは……男と女の双子の姉弟じゃなかったか?」

「え…… そういえば、男の人は女の人を『姉さん』とか言ってたけど。え? どうして知ってるの?」

辰姫は目を見開いてルーカスに訊くが、ルーカスは少し答えるのに躊躇った。何か言いにくいことでもあるのだろうか。


「ああ、何て言えばいいか……… あいつらは俺がまだ1人で旅をしてた時に何度か会ったことがあったんだ。それも毎回全く違う世界でな。それで言いたいことだけ言って姿を消す。手品師(マジシャン)みたいに。そのくせ何処からともなく現れる。まぁ、別に実害があるわけじゃないが、なんというか……見られてる感じがして気味が悪くてな。一体何者なんだか……」

ルーカスの言葉を聞いて他の3人は驚いた。


辰姫達が旅をして渡り歩いている世界の数々は平行世界のようなものなので、別の世界でも同じ人物はもちろんいるだろうが、今のところあまり会ったことはない。人口やら何やらを考えれば、そう簡単にポンポン同一人物と出会いはしない。当然のことではある。だが、今のルーカスの話ではその双子は別の世界でもルーカスと何度か会話をしたことがあるらしい。


「そういえば……」とチナミが何かを思い出したかのように口を開いた。


「色々な世界を旅して来たけど、別の世界のアタシ達って会ったことが無いわね。何でかしら?」

「そりゃあ、人も多いからね。簡単には会えないんじゃないの?」

「漫画とかだとすぐに会えるんだけどね」

チナミの疑問にセールが答え、辰姫も笑って同調した。セールは「漫画?」と少し首を傾げるが、「まぁ良いか」と割り切った。


それから、4人は朝食を食べて出発に備えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ