異世界の言葉
滅茶苦茶今更なことです。
チナミが稼いだ1万ポイントで適当にご飯を買って食べると、4人はまたしばらく散策することになった。さっきやった岩砕きは肝心の大岩が砕かれてしまったことでまた岩山から大岩を運び出さないといけないらしく、しばらくは休業状態になっている。なんでもその岩山の岩は非常に硬く素手で壊せる者は殆どいないらしい。そのためチナミは危うくこの国の軍にスカウトされそうになったが、なんとか丁重に断ってその場を離れた。
また催し物をやってポイントを稼ごうと思ったのだが、どの催し物も人がそれなりに多い。そして、安い。なのでやろうという気にはなれなかった。
そんな時、あまり人がいない建物があった。他の建物や屋台には人がそれなりに来ているのにあまり流行っていないみたいだ。扉に貼り紙のようなものが貼ってあり、何か書いてあるみたいだけど見慣れない文字だ。漢字みたいな形をしているけど………なんて書いてあるのか………… やはり異世界だからか文字は未だによく分からない。だが、ルーカスは訝しげにそれを読み上げる。
「うん? なになに…… うちの新作メニューを考えてくれたらお礼に1人500ポイント差し上げます……? 何だこりゃ?」
「え? ルーカス読めるの?」
辰姫が思わず声を上げる。チナミやセールも少し意外そうな目を向けている。
そんな学がある人間のようには見えなかったからだ。酷く失礼な話だが。
ルーカスは面倒そうに頬を掻くと、
「別に偶々この世界の文字が見覚えのある文字だっただけだ。これでも色んな世界を旅してりゃあな。多少は学ぶもんだ。それでも読めない文字の方が圧倒的に多いが」
「まぁそうでしょうね……」
チナミも同意する。文字というものは国によって変わる。ましてや異世界だ。細かく分類すると全部で何千何万種類もあるだろう。考えたらキリがない。
「あれ? でも、なんで違う世界なのに言葉が通じてるんだろ?」
辰姫がふと思ったことを呟いた。異世界の文字は明らかに日本のものとは全然違う。ということはそこの言語は日本語とは明らかに違うはずだ。それなのに、自分達はそこに住む人間と普通に会話が出来ている。それは何故なのか? だが、それを聞いた辰姫以外の3人は思わず辰姫に呆れた表情を向けていた。
「え? 今更………?」と。
「お前……異世界に来てそれなりに経つのに今の今まで疑問に思わなかったのか?」
「辰姫……あなた……」
「まぁ、特に不自由はなかったみたいだけどねぇ」
3人からそれぞれ呆れた視線を頂戴して辰姫は気まずそうに顔を背ける。確かに今更だった。いくつも異世界を渡っているのに全然気が付かなかったのだから。恥ずかしい…………
「……恐らく次元の裂け目が関係しているんだろうが、詳しくは俺も分からん。だがまぁ、別に絶対知らないといけないことでもないし、今はどうでもいいことではあるな」
ルーカスがそう言って締める。そんなこんなで異世界の言語事情は有耶無耶のままで終わった。
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「……………で、何で俺達はこんなもんを作ってるんだ?」
「仕方ないじゃん。人助けだと思えばさ……」
ルーカスが不機嫌そうに呟くと、セールが苦笑いして答えた。その時、奥の方から声が聞こえてくる。
「そこ! 喋ってる暇あるなら手動かす! 後25個作るアル!」
何故こんなことになったのか。それは今からおよそ2時間程前のことーーーーー
ルーカス達はその貼り紙に書かれていた文章のことで話になっていたのだが、丁度店の中にいた店主の男性に半ば強引に引き込まれたのだ。そして、新商品のネタがないか頼まれたのだ。
そもそもこの店は代々饅頭を売りにしている店だった。しかし、今代の店主になってからあまりにも奇抜なものばかりを作るので客はあまり寄り付かず、閑古鳥が鳴き喚いている状態だった。
だが、正直のところそんなアイデアなんてポンと浮かぶものではない。それでしばらく考える羽目になったのだが、昼ご飯に置いてあった肉野菜スープを見つけ、もしかしたらコレ使えるんじゃね?というアイデアが辰姫の頭に降って湧いた。
………それで肉まんの知識を基に試しに肉まんもどきを作ってみたのだが、それが思いの外美味しく出来た。それでいくつか作り、新メニューとして売り出すことに決めた店主からもお礼を言われ、作った肉まんもどきを店の前で美味しく頂いたところ、それを見た客が興味を持って買う者が出て来たのだ。
それで解決すれば良かったのだが、店主1人では回らなくなるほど客が来るようになってしまったのだ。そして、店主に泣きつかれ、辰姫達も作るのを手伝う羽目になってしまったのである。
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「ハァハァ………やっと終わったよ……」
「もう当分饅頭は見たくないわね……」
セールとチナミはグッタリとした表情で呻く。
そして、辰姫達4人は報酬として2000ポイントを得た。