表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/106

百年祭

「「「うわあぁぁぁーー」」」


辰姫、チナミ、セールは目の前の光景に思わず声を漏らす。ルーカスはそれを冷めた目で冷静に見ている。


「おい、見惚れてないで早く行くぞ」


次元の裂け目を抜けた4人はしばらく彷徨い、小さな町や村をいくつか抜けてようやく大きな街に到着したのだ。大きい街でならポイニクスの情報を仕入れやすいからだ。そして、この街は赤い色に金の瓦の建物が建ち並び、どこか中華街のような雰囲気を感じる。街の人達も拳法技のような服を着ている。どうやら、この世界は中華風な世界らしい。


ちなみに服装に関して言えば、辰姫達は特に変化はない。唯、セールの頭の角は目立つのでつばの広い帽子を被ってもらい、角を帽子の装飾のように見立ててなんとか誤魔化している。完全に誤魔化せたとは思っていないが、飾りだと言い張ればなんとかなるだろう。


この街はどこか忙しない様子だった。風船が飛んでいたり、花火の音が遠くに聞こえていることから恐らく戦争の準備などではなさそうだが。何かの祭りだろうか。辰姫が近くにいた人に尋ねる。


「あの、今日って何かお祭りがあるんですか?」

「ん? 何言ってんだい? 昨日から1週間の間、我が国ギンシュの建国百年祭が始まってるじゃないか。見かけない格好をしてるし君達は旅人かい? それだったら楽しむと良い。面白い出し物も多いらしいからな」


その人によると丁度この街では大きな祭りがあるらしい。それを聞いてチナミは少し懐かしそうに目を細めた。


「へぇ、お祭りかぁ。なんか懐かしいわね」

「マージンでも祭りとかあったの?」

「そりゃあね…… 遠い昔だけど」

彼女の故郷はもうない。なので、少し重い空気が流れる。


「でも祭りには興味があるねぇ。僕のいたとこじゃそんなものはなかったし」

セールはいくつかの出店を見やる。辰姫もつられて目を向けると見たことのない出店が多い。日本のお祭りとは少し違うようだ。


ルーカスは頭を掻くと、


「俺はポイニクスの情報を探して来る。お前らは適当に遊んでろよ」

「あ、ルーカス。それだったら私も……」

こんなお祭りの中でも平常運転のルーカスの様子に思わず辰姫も名乗り出る。自分だってポイニクスに用があるのだ。ここで呑気に遊んでいるわけにはいかない。ついそう思ってしまう。


だが、ルーカスは辰姫の顔や手をジッと見てハァーーと溜息を1つ。


「タツキ、お前最近ブスになってないか?」

「なっ!」

辰姫の額に青筋が浮かび、頬をピクピクと痙攣させる。いきなり女子に向かってブスって言うか、普通……と。


「目にはクマ、手は傷だらけ。そんな状態の奴を連れてっても邪魔にしかならないからな。息抜きくらいはしてこい」

「……………」

辰姫は黙る。毎日少しでも時間を作って剣の練習をしているのを見抜かれたのだ。皆に追いつきたくて隠れてやっていることをあっさりと見抜かれて、どこかほんの少しだけ恥ずかしさというか悔しさのようなものがあった。実際はルーカスに限らずチナミもセールも辰姫が隠れて剣の練習をしているのは知っていた。というよりバレバレだったのだが、辰姫は隠れてやってるみたいだったし態々言うのもあれなので誰も言っていなかっただけなのだ。


じゃあなと言ってさっさと去ろうとしたルーカスだが、1本の手がルーカスの肩をグイッと掴んで離さない。


セールだ。にこやかな表情だが、どこか有無を言わさないような雰囲気がある。


「なぁ、ルーカス。それだったら君もお祭りを楽しもうじゃないか。折角来たんだしさ」

「なっ……! 別に俺は………」

「年長者の言うことは聞いとくもんだよ。それに、偶には息抜きくらいはしないとね」

「ぬぅ……」

先程のルーカスの言葉を言われて思わずルーカスも黙ってしまう。


それを見てチナミはクスリと笑う。


「それじゃあ、皆で祭りを楽しみましょう!」

「ハァー、今日1日だけだからな」

「まぁまぁ……」

「じゃあ、早速あの店に行こうよ」


こうして4人は祭りに参加した。



ーーーーーーーーーー

この百年祭には少し変わったルールがある。


それは祭りのあちこちにある催し物に参加して、その成績に応じてポイントがもらい、そこからそのポイントで景品や食べ物と交換することが出来るというものだ。簡単なものではもらえるポイントが少なく、難易度が高くなればその分もらえるポイントも多くなっていく。ちなみに、もらえるポイントは100から1万とピンキリだ。店の食べ物の値段を見るに、ポイントの価値は日本のお金と大差ないようだ。この祭りが行われている1週間しか使うことが出来ないそうだ。


なので、ルーカス達はまず催し物に参加してポイントを集めなければならない。何にしようかとうろうろ歩き回っていると、ある催し物を見つけた。


大きな岩が無骨に置かれており、その岩の少し遠くから2人の男が拳を抑えて呻きながら、別の店の方に行こうとしている。


「イテテテ…… なんだ? あの岩、滅茶苦茶固えぞ」

「あんなのを素手で砕けって鬼かよ。いくら1万ポイントだからってキツ過ぎだろ。他の楽そうなのをやろうぜ」


「残念だったね。さあさあ、こちらは純粋な力試し。岩砕きだ! いかがかなー?」

側には中年の男性が他のお客に呼び掛けている。


岩砕きか。シンプルだし、出来たら1万ポイントだ。


チナミは少し考えると、ルーカス達の元を離れてその男の方に向かって行った。残されたルーカス達は顔を見合わせると、苦笑いを浮かべる。


男は少し戸惑った表情を浮かべるが、まぁ止める必要もないか……と岩砕きのルールをチナミに説明する。


岩砕きは制限時間内にこの大岩を壊せばいいというルールだ。ただし、武器は使わずに素手でやらないといけない。蹴りはOKとのことだ。つまり、チナミの得意分野でやれるということだ。



チナミは脚に力を込める。すると、脚から青白いスパークが走り、次の瞬間、目にも止まらぬ速さで何十発もの蹴りを大岩に叩き込んでいく。


ヒュン! ガッ! ヒュン! ガッ! ヒュン、 ガッ!………………




結果、制限時間の30秒よりずっと早い僅か15秒でその大岩は砕け散った。


男は目を見開き、少し震える手でチナミに1万ポイントの札を渡した。


こうして、ポイントを手にしたチナミは早速別の店でいくつかの食べ物と交換した。そして、それを皆で分け合って食べた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ