嵐の中での出逢い その3
岩窟牢。オムニスにある重罪人用の牢屋だ。岩ばかりで薄暗く、冷たい場所だ。そこにメリダはいた。
メリダは絶望の中にいた。岩窟牢に入れられるということはその先の未来にある刑は1つだ。
死刑だ。劣悪な環境下でいつ処刑されるか分からない状態で過ごす。そして、自分の犯した罪を思い知る。
メリダは横になって考えていた。
自分は間違っていたのか? 獣人族の男と仲良くなることが悪なのか? やっぱりカクも…… いや! そんなはずは無い。もうどうしたら良いの? どうしたら……………
少しずつカクに対して疑心暗鬼になっていくのをメリダは感じていた。そして、そんな自分が嫌になっていた。その時、聞き覚えのある声が微かに聞こえてきた。
直後、入り口を塞いでいたはずの大きな岩が砕かれた。そこに現れたのは大きな鹿だった。だが、その鹿に生えている立派な角はメリダが何度も見たものだ。
そして、鹿はみるみるうちに姿が変わり、いつもの見慣れた獣人の姿になった。
「カク!!」
メリダが思わず叫んだ。咄嗟にカクが口を塞ぐ。
「さぁ、すぐにここから逃げよう」
「え、でも………」
「ここにいてもいずれは殺されちまう。急いで逃げるっすよ。オイラも獣人族の集落から逃げてやっとメリダの居場所を見つけたんだ。もうアンタを置いて行きたくない。さぁ、早く」
「う、うん!」
その時、見張りの兵士達が異変に気付いたのか、ゾロゾロとやって来た。カクとメリダはそれに気付くと、お互いニヤリと笑うと、脱兎の如く逃げた。
「獣人族! 貴様か!?」
「牢が破壊されている!」
「止まれ! 止まるんだ!」
これはオムニスの歴史に残る大事件だった。また、この時オキナはメリダを処刑する気はなかった。彼女を幽閉し、心を弱らせ、カクに疑いの心を持たせてから会わせることで自分達にとって有利な情報を引き出させるつもりだった。心が弱れば自分達に都合良く動く。オキナはそう考えていた。もっとも実の娘を手に掛けることが出来なかったというのも少しはあったが……
一方で獣人族の方も同じことを考えてカクを地下牢に閉じ込めたのだが、彼らは知らなかったことがあった。カクが獣化を扱えたことを。獣化してしまえば、粗雑に作られた牢を破壊することくらい訳なかったのだ。
カクとメリダはなんとか兵士達を撒いて隠れていた。
「ここまで来ればなんとかなりそうだ」
「ハァ…ハァ…… そうね……」
2人は安堵の息を吐く。だが、一瞬メリダは暗い表情を浮かべた。そして、尋ねた。
「ねえカク…… 多分あなたも仲間から色々責められたのよね。なのに、何で私を助けに行こうって思えたの?」
そんなメリダの質問にカクは少し首を傾げるが、飄々とした様子で答えた。
「何でってそりゃあ……オイラはメリダのことが好きだから……」
「どうして……? 獣人族と人間族が仲良くなることは無いって言われて何も思わなかったの!?」
メリダはつい声を荒げてしまった。本当はこんなことを言いたいわけじゃないのに。
カクはメリダの言葉に少し罰が悪そうに顔を逸らしながら言った。
「メリダ…… 別にオイラは人間と仲良くなったわけじゃない。獣人族にとって人間は餌だから」
「……え…………?」
「オイラはメリダと仲良くなったんだ。その仲良くなったメリダは実は人間だった。たったそれだけのことなんでさ」
「あ……………」
メリダの中で何かがストンと落ちたような気がした。何かモヤモヤした霧のようなものが少しずつ晴れていくような気がした。
「そうだ…… 私もカクだから仲良くなれたんだ。仲良くなったカクが偶々獣人族だったってだけなんだ……」
メリダがそう言って頷くと、カクも頷いた。
「そう…… なぁ、メリダ」
メリダは目をカクに向ける。カクの表情はいつにも増して真剣だった。
「オイラ達にはもう帰る場所はない。でも、この広い森の中なら、オイラ達も暮らせる場所があるかもしれない。だから……一緒に行きやせんか?」
「それって………」
「オイラはメリダが好きだ。離したくない。だから、オイラと結婚してください」
メリダは心の底からこみ上げてくるものが抑え切れなかった。メリダはポロポロと涙を流しながら答えた。
「う、ん…… 私もカクのことが好きみたい」
こうして、本来互いに混じることのない2人、カクとメリダは結婚した。
次回で外伝ラストです。