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赤紫の魔剣使い〜少女は異世界を渡り歩く〜  作者: 藪地朝陽
外伝 嵐の中での出逢い
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嵐の中での出逢い その2

あの奇妙な出逢いから2日後、メリダは小屋の近くに来ていた。以前交わした約束のためだ。


「そういえば、あの人の名前を聞いていなかったな。大丈夫かな? ……まぁ合言葉があるから大丈夫か」

そんなことを呟いていると、草陰からガサッという音が聞こえた。多分あの人だろう。なので、メリダは大きな声で合言葉を言った。


「セールの実!」

すると、ガサッという音と共に現れた。獣人族が。


「セールの………実?」

獣人族の男はにこやかな表情を浮かべて草陰から現れて、メリダを見て瞬間ギョッとした表情に変わり固まった。恐らくメリダも同じような顔をしていたのだろう。


そして、2人はしばらく身動きも取れずに固まっていた。



ーーーーーーーーーー

「ふふ、ビックリしたわよ。まさかあなたが獣人族だったなんて……」

「オイラもですよ。まさか、アンタが人間だったなんて……」

「本当に今でも信じられないわね…… まさか獣人族のあなたと一緒に木の実を採りに行くなんて思いもしなかったわ」

「ホント。ご飯と一緒に木の実を食べに行くなんて……ってこれは失言でしたね。すいやせん」

「気にしませんよ。あなたが私を食べるのならさっき小屋の前で食べてたでしょう。小屋の前で動けなかった私を」

メリダがそう言うと、男は可笑しそうに笑った。


「そうっすね。あの木の実が美味かったからというのもありますが何より折角気の合う奴をいきなり食べるのはこっちも気が引けやすから」

そう答えた男にメリダは微笑んだ。自分の好物の木の実を美味いと言ってくれたのだから。


そうこうしている間に目的地に着いた。低木には赤紫色の木の実があちこちに実っている。



それからおよそ2時間、メリダと男は2人で採って食べた。


その帰り道、2人は雑談しながらまた会う約束をして別れた。



ーーーーーーーーーー

獣人族の男と何回か交流を重ねるうちに色々なことが分かった。


男の名はカクということ、北の方の集落で暮らしていること、親は小さい頃に病気で死んだこと………


メリダとカクは少しずつ親しくなっていった。そして、お互いに惹かれ始めた。


だが、それも長くは続かなかった。2人の関係が人間族、獣人族の両方の集落にバレたのだ。



ーーーーーーーーーー

「メリダ! お前、どういうつもりだ!? 獣人族なんかと仲良くするなど……前代未聞だぞ!」

「そうだぞ、メリダ。獣人族は俺達人間を食い殺してるような奴らだ。現にお前の母親だって獣人族に食われたじゃねえか」

「でも、彼は……カクは違う! 私のことを食べたりなんかしなかったし…… すごく良い人よ!」

「良い人だと!? 獣人族がか? あれは人じゃねえ! 化けもんだ! なら、お前は大好物のセールの実と仲良く出来るのか? どっからどう見ても美味そうな食い物にしか見えないじゃないか!」

「でも、でも…………」

同じ集落の者達から責められるメリダ。メリダも必死に反論するが、効果は無い。その時、1人の中年男性が現れた。メリダの父、オキナだ。


「メリダ……… 残念だが、お前の処分が決まるまでの間、岩窟牢に幽閉する。そこでじっくり頭を冷やせ。……お前達、メリダを頼む」

「そんな……お父さん、お父さん!!」

メリダは暴れようとするが、屈強な兵士に身動きを封じられ動けない。メリダの姿が見えなくなると、オキナは小さく呟いた。


「実に愚かな娘だ。さらばだ………… いや、待て。もしかしたらこれは利用できるかもしれんな……」



ーーーーーーーーーー

「お前、餌と仲良くしてどうするんだよ?」

「カク、お前気は確かか?」

カクの方も同じく仲間から責められていた。


赤黒いハイエナの姿をした獣人族が吠える。


「カク! お前も随分やきが回ったな。餌と仲良くなるなんざ俺達への裏切り行為と言われても仕方ねえぜ」

「な、何で!? どういう意味だ!? ガルル」

「餌と仲良くなるってことは何でも話すことになんだろうが。俺達の狩場、集落の構成人数、いつ何を狩りに行くか。そんなことを餌に話されたら……俺達はたちまち飢え死にだぜ」

「だ、だが……オイラはそんなことは一言も………」

「馬鹿野郎! お前まだ分からねえのか? お前はその餌に利用されてるんだよ。さっさとその餌を食っちまえば良かったのによ」

その時、ずっと黙っていた紺色の狼のような獣人族が口を開いた。


「カク…… 残念だよ。俺はアンタのことを尊敬していたんだがな……」

「ベスティア………」

「次のボスの候補にもなってたのに…… 餌なんかと馴れ合いやがって。お前ら、カクを地下牢まで連れて行け。裏切り者に生きる資格はねえ」

『へい!』

「ベス……ティア………」

カクは呆然としながら、仲間の獣人族達に冷たい目を向けられ引きずられていった。



地下牢に乱暴に入れられたカクは悔しさから拳を握りしめる。


「オイラはこんな所にいる訳にはいかないんだよ。待っててくれ、メリダ!」

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