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早朝の出来事

燃え盛る村から離れた場所に、1人の少年がいた。少年は赤紫色の剣を両腕で抱えている。だが、どこか満身創痍で息も絶え絶えになっていた。


《よくぞ我が剣圧に耐え切ることが出来た。小僧、名は何だ?》

「…………ルー……カス…………」

《ではルーカス、お前の望みは何だ? お前にとって最も大事なものと引き換えにお前の望みを叶えてやろう》

「……僕の………いや、()はーーーーーーーーーーー」




ーーーーーーーーーー

「ーーーーーーーーー!!? はぁっ…はぁ…はぁ……………… 夢か。確か……フェネクスと契約を交わした時だよな。クソ、随分と懐かしいもんを…………」


ルーカスはガバッと飛び起きると周囲を見渡して夢であることを確認して溜息を吐いた。ルーカスは簡易テントの中にいた。あれからルーカス達はポイニクスを探すことにしたのだが、全員流石にヘトヘトで今すぐには遠出は出来ないので簡易テントで今晩を過ごすことになったのだ。隣のベッドにはセールがまだぐっすり寝ている。簡易テントは2つしか持っていないので男女それぞれに分かれて寝ることになり、セールと同室になったのだ。


ルーカスはふとさっき見た夢に違和感を覚えた。傍らに置いていたフェネクスをおもむろに取り出すと、ベッドから出て仮面も着けずに簡易テントのスイッチを押す。テントのドアがゆっくりと開き、ルーカスは外に出た。


しばらく歩いて近くの木に腰掛けると、フェネクスに話しかけた。


「おいフェネクス。お前起きてるんだろ?」

《……どうした? ルーカス?》

「惚けるな。俺が過去の出来事の夢を見たってことはポイニクスが近くにいるんだよな? ……お前が見せてるんだよな? ヘリオスの時もマージンの時も、今までもそうだったんだから」

《……………そうだ。お前の本来の目的をより強固にさせるために過去の記憶を見せている。よもや忘れているわけではあるまいな? お前の目的を》

「俺はポイニクスを殺す………そのために世界を旅してる。そんな回りくどいことをしなくても忘れたことなんて1度たりとも無えよ。いや、今はそれは別に良い。俺が今聞きたいのはお前のことだ、フェネクス。俺はお前のことをよく知らない。その能力といい、お前は一体何なんだ、フェネクス?」

《何が言いたい?》

「あの時、俺はお前の力を借りたのは確かだ。だが、その後の記憶はあやふやだ。お前が見せた夢もどこかぼんやりとしていたし、お前を持った前後の記憶は無かった。お前はどこまで知っているんだ?」

《お前こそ何を言っている。お前はポイニクスを殺せる力を得たいと願い我と契約を果たした。そして、ポイニクスを追って次元の裂け目を通った。前にも言ったことだろう?》

「…………………」


ルーカスはフェネクスを睨み付けるも、フェネクスはもう何も言わない。ダンマリを決め込んでいる。何度かこのことについて聞いたことがあるが、こういう時フェネクスはいつもこれだ。


ルーカスは苛立ったように舌打ちを1つするとフェネクスを腰に下げて、周囲の警備も兼ねて散策することにした。また敵が来ないとも限らない。


(奴は間違いなく何かを隠してる…… フンッ、まぁいい。コイツが腹の底では何を考えているのかは知らんがポイニクスを殺すという俺の目的は変わらん)



ルーカスが周囲を見渡して再び歩き出そうとしたその時、サクサクという足音が近くに聞こえて来た。


敵か。昨日の奴らの残党か?


ルーカスは振り返り様に威圧しながらフェネクスを抜き、その音がした方に向けると、後ろの人影はビクリと音を立てる。その人影は辰姫だった。


そのことに気付くとルーカスはハァーと息を吐いてフェネクスを仕舞った。辰姫はルーカスに気が付くと少し笑いながらルーカスに話し掛けて来た。だが、その笑い方は明らかに無理していることが分かる笑い方だった。ルーカスは少し顔を顰める。


「あ、ルーカス。起きてたの……?」

「ああ。お前こそ随分早起きだな、辰姫」

「うん……… 剣の練習をね」

そう言って辰姫は自分の剣をルーカスに見せる。だが、ルーカスは剣ではなく辰姫の手を見た。あちこち引っ掻き傷だらけだった。恐らくあの後、何度も手を洗おうとしたのだろう。引っ掻き傷がいくつも出来るまで何度も。彼女に迷いがあるのは明らかだった。それにいつもの辰姫ならこんな場所(・・・・・)で剣の練習なんて絶対しないだろう。なので、少し助け舟を出してやることにした。


「本当は俺に何か聞きたいことがあるんじゃないのか?」

「………え?」

「多分昨日のこと……… 初めて人を殺したことがどうしても頭から離れないんだろ? だから、ここ(・・)に来たんじゃないのか?」

ルーカスと辰姫が話している場所にはあちこち石やら十字架状に組まれた木の枝やらが地面に突き刺さっている。あの後、ルーカスやチナミが人間族の兵士や獣人族の兵士の死体を埋葬したのだ。時間は掛かったが何とか昨日のうちに全員埋葬した。あのまま死体を放置するのはどこか気分が悪かったからだ。もちろん、セールの家から少し離れた場所にではあるが。


辰姫は言葉に迷いながらも、小さく頷いた。ルーカスは近くの木に腰掛けて辰姫にも座るように促した。辰姫も座るとルーカスは口を開いた。


「お前は平和な世界から来たからかもしれないが、早くそういうのに慣れないといつか後悔することになるぞ」

「……ルーカスは怖くないの? 人を殺すのに?」

「俺には俺の信念ってものがある。殺しはその俺の信念を貫くための手段の1つだ。怖いとか言ってられない。それに俺の中のそういった部分はとっくの昔に壊れちまったからな。だから正直なところ、辰姫の気持ちは分からないし共感もしてやれねえよ」

ルーカスのその言葉に辰姫は辛そうに顔を歪める。バッサリ斬られて辰姫は俯いた。だが、ルーカスは言葉を続けた。


「お前は後悔してるのか?」

「………………え?」

「あの時ーーお前が初めて人を殺した時、お前は俺を庇って兵士を殺したろ。そのことに対してお前は後悔してるのか?」

「……ううん、後悔はしていない……と思う。あの時……私は死にたくなくて……そしてルーカスや皆を死なせたくなくて夢中で剣を振るったから。どの道、剣で……斬ってたと思う」

途切れ途切れだが、「そのことについて後悔はしていない」と辰姫は話す。あの時、自分が殺さなければ自分は間違いなく殺されていただろうし、ルーカスやチナミ、セールもいずれは殺されていたかもしれない。だが、理屈ではそれが分かっていても感情は別だ。怖いものは怖い。それに最後の方は自分から手当たり次第に殺し回っていた。人を殺すのを楽しいと思ってしまう自分がいた。それが非常に恐ろしかったのだ。何か自分が自分でなくなってしまう気がして。


ルーカスも辰姫が最後は暴走状態になっていたのを知っていたのでなんとなく辰姫の心情を察してはいた。そして、ルーカスは溜息を吐いた。何で起きて早々こんなめんど……深刻な悩みを聞かされなきゃいけないのか……と。なので、辰姫にとって1番大事なことを聞くことにした。


「1つ聞くが………お前の信念は何だ?」

「しん……ねん…………?」

「そうだ。お前にとって絶対に譲れないってものだよ。お前にとってそれは何だ?」

「えっと…………………」

辰姫は考え込むが、一向に浮かばない。だが、ルーカスは想定していたようでヒラヒラと手を振る。


「まぁ良い。お前のやるべきことは、剣の腕を上げることもだがそれを一刻も早く見つけることだ。いつまでもそれを見付けられないと今みたいにいちいち足踏みだけして動けなくなる」

「う、うん……」

「それにだ……… こういう場合、考え方を少し変えればいいんだよ」

「考え方を………?」

「そうだ。『人をどれだけ殺しても元の世界に帰ってしまえば何の罪にもならない』ってそう考えるんだ」

「は……?」

「まぁ、精神衛生上そうした方が良いかもしれないな。下手に小難しいことを一々考えるよりは」

そう言って少し笑ったルーカスに辰姫もつい笑った。


「…………そうかも。うん! そう考えた方がある意味良いかもしれない……」

「なら、もう戻るぞ。そろそろ明るくなってきたしな」

太陽が上り始め、辺りもすっかり明るくなってきていた。辰姫の顔は完全に晴れた訳ではないが、さっきよりは随分マシになっている。


「そうね。……ありがとう、相談に乗ってくれて」

「どうだ? 少しは気が楽になったか?」

「……うん。誰かに話して少しは治った……と思う」

「そいつは重畳。下手に悩まれても足手纏いにしかないからな」

「はは…… キツいなぁ。でも、私はルーカスに話せて良かったと思うよ。だから………ありがとう。話を聞いてくれて」

辰姫のお礼にルーカスはフンと鼻を鳴らして先へ進んだ行った。その顔は少しだけ赤かった。

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