開始の一手
ルーカス達の視点に戻ります。短めですみません。
「獣人族……… 奴らが何でここに……?」
セールが思わず呻く。人間族の襲撃に合ったというのに、立て続けに今度は獣人族の襲撃が起こったのだ。無理もない。
辰姫は初めて見る獣人族に目を瞬かせる。話に聞いていてももう少しファンタジーな感じの存在だと思っていたが、実物は全然違う。姿が視界に入っただけで分かる。彼らは間違いなく人間の敵だ……と実感する。ゾクリと身体が震えてしまう。恐らく彼らの辰姫達を見る目が今まで自分に向けられたことのない「食料を見るそれ」だったからだろう。
一方でルーカスやチナミはあれほど大勢の獣人族を前にしても平然としている。やはり経験の差なのだろうか。
その時、獣人族の中で一際大きい狼のような姿をした獣人族の男、ベスティアがセールに語りかけてきた。
「フン! 貴様が裏切り者の息子か。アイツによく似ている」
「……一体何の用だ?」
セールの問いにベスティアはニヤリと笑うと答える代わりに指を鳴らす。
すると、その音がしたと同時に、ベスティアの後方から2人、セール達の横にあった瓦礫やらの物陰から2人、上空から1人、セールに向かって飛び掛かって来た。全員非常に高い反応速度で常人なら何が起こったのか理解も出来ずに食い殺されただろう。
だが、セールは冷静に襲撃者達を一瞥するや髪から数粒のビーズ程度の大きさの種を取り出して、それをばら撒く。散らばった種は襲い掛かって来た獣人族達の肌にひっ付くとすぐにドリルのように回転して皮膚を抉り始めた。
獣人族達は一瞬痛みに顔を歪めて慌ててそれを取り出そうとするが、もう遅い。種は完全に身体の中に潜り込んでしまった。それからしばらく経つと、種を植え付けられた者達は悶え苦しみ始めた。そして、一通りもがき苦しむと、全員ガクンと同時に膝を突いてしまった。その直後にブチャッと彼らの頭から芽が突き破って出てきた。芽はぐんぐん成長してやがて一輪の大きな花を咲かせた。
その花の形は………………
「テメエ、よくも俺の部下を無残に殺してくれたな?」
ベスティアは一瞬の驚愕を顔に浮かべた後にすぐ殺意を剥き出しにしてセールを睨み付けるが、そのセールはどこ吹く風だ。
「なに、歓迎の挨拶代わりだよ。いやー、綺麗な花でしょ。君の可愛い部下の顔をした花なんてさ。なかなかオツじゃないか」
そう、セールが今撒いた種は人面花と呼ばれる植物だ。本来は種を食べた生物に対して時間を掛けて内部から寄生してやがて宿主の顔そっくりの花を咲かせるというものだったのだが、セールはこれを独自に品種改良して触れば無理矢理体内に入り込んで、即効で寄生させて花を咲かせるようにしたのだ。ちなみに、セールはその種を素手で触っても寄生されることはない。植物を操れるのでセールに危害を加えるような真似をしないからだ。
そして、セールはベスティアにもう1度尋ねた。
「もう1度聞くよ? それで、僕に一体何の用なんだい?」




