再び襲撃
ザシュッ!!
「ぎゃあぁぁぁ!!」
ザン!!
「うわあぁぁぁ!!」
人々は私の顔を見ると、誰も彼もが恐怖の表情を浮かべて逃げ惑う。そんな人々を次々と私は斬り殺していく。そうすると人々の表情はより恐怖で引き攣る。殺した者の中には命乞いする者もいた。だが、そんな声も聞かずに私は殺し続ける。私は必死に止めようとするが、止められない。どこか楽しいっていう感覚があったからだ。
気が付くと、私以外誰もいなくなっていた。その代わりに周りにあるのは死体だけになった。私は恐ろしくなって目を逸らそうとするが、それすらも叶わない。そしてよく見ると、その無数の死体達の口がどれも同じような形をしているのに気が付いた。まるで皆同じことを言っているかのようだった。すると、聞こえるはずのない声が聞きたくないのに耳に入ってくる。
ナンデ? ナンデコロサレルノ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ? ナンデ?ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「う、うわあああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ーーーーーーーーーー
「う……… うーーん…………………」
辰姫がゆっくりと目を開けると、目の前にはチナミやルーカスが立っていた。
「辰姫!!」
チナミに抱きしめられた。随分と心配をかけていたようだ。
「大丈夫!? 怪我とかはしてないみたいだけど……」
「んぐ…… チ、チナミちゃん。く、苦しい………」
辰姫がパンパンと叩いて苦しそうにしていると、ルーカスが軽く引き離してくれた。
「問題はないか?」
「ええ、なんか変な夢を見て気分が……… 沢山の人を殺す夢でーーーーー」
そう言って辰姫は目線を下に向けた。そして、見てしまった。服にベットリと付いた大量の血痕を。顔や手に付いた血痕はルーカスやチナミが拭いてくれたようだが、服はまだだったのだ。それにより、自分がやったことが夢ではなく現実だったことを突き付けられる。
「うーーん」と言う声と共に白目を剥いて再び現実の世界からフェードアウトしそうになる辰姫をルーカスが繋ぎ止める。軽い往復ビンタで。
「おい、気絶している暇は無いぞ。早く次のことを考えないとな。それに、アイツも正気に戻さないとだし」
ルーカスはそう言いながら、後ろを見る。そこにはついさっきまで平和に暮らしていたはずの隠れ家……の残骸があった。荒らしに荒らされ、破壊され尽くしている。そして、その残骸の近くに放心状態になっているセールの姿があった。「家が、家が……………」という声も時々聞こえてくる。
無理もない。丹精込めて作った自分の場所を破壊されたのだから。セールは単独で多くの兵士を返り討ちにはしていたのだが、自分の隠れ家までは完全に守れなかった。彼はそれに酷くショックを受けていた。
それから数分後、全員少しは精神的に落ち着いたところでルーカス達は今後どうするかを決める。
「まずはここから離れた方が良いと思うが……… 場所が知られた以上、ここには居られないしな」
「それは……アタシも賛成だけど………… セールは、あなたは大丈夫?」
チナミはそうセールに尋ねる。
「僕としては人間族の連中を根絶やしにしたいんだけどねぇ。特にあの長老のクソじじいだけは絶対に生かしておけない。アイツの差し金だ、絶対。ここにいれば、また兵士がやって来る。その時にあのジジイが来るかもしれない…… その時に…………」
セールは憎悪の表情を浮かべて言った。チナミもセールも思わず黙る。だが、そんなセールの言葉に異を唱える者がいた。ルーカスだ。
「本当にそう思うのか?」
「何?」
「あの爺さんの性格上、態々ここに来るとは思えないんだがな。それに…………」
「……何だ?」
ルーカスがおもむろに振り返る。他の3人もつられて振り返った。すると、ザッザッザッと不気味な足音が聞こえて来た。
「どうやら、別の連中が来たらしいな」
「クソッ! アイツら、また僕達を殺そうとしに来たのか!」
セールは憎悪に駆られた様子で声を荒げる。
辰姫もチナミもそれぞれ戦闘態勢に入った。辰姫はまだ精神的な危うさが残っていたが……………
やがて、現れた襲撃者達の正体は…………
獣のような姿をした者。獣人族だった。