何をすべきか
またチナミメインです。
この世界に来てかれこれ1週間近く経った。早いものだ。
チナミは少しもの思いにふけっていた。考えていたのはチナミの故郷である世界、マージンのことだった。何しろかつて自分がいた時の世界とは全く勝手が異なる世界にいるのだ。そのせいかどこか落ち着かない。ルーカスはもちろん、辰姫ももう慣れてしまったが、チナミは少し違う。復讐を果たせて苦楽を共にした仲間達も死んであの世界にもう未練など無いと思っていたが、やはり生まれ育った故郷を捨てるというのは多少寂しく感じるようだ。
おまけに、今のチナミにはルーカスや辰姫と違って明確な目的のようなものはなかった。あのままマージンに残っていても自分には未来はなかった。それならルーカスや辰姫に付いて行った方が良い。そう思って世界を渡った。あの時の選択が間違っているとは微塵も思っていない。だが、目的が無いから自分が何をしようか、何をするべきかが思い浮かばないのだ。辰姫はそれはじっくり探して決めれば良いと言っていたがやはり目的が無ければ動きようがない。
そんな時、ザッザッと足音が聞こえて来た。不意に足音が止んだのでチナミが振り返るとそこにはルーカスがいた。今までセールの角の装飾品作りに手伝わされていたらしい。4日程前からセールに「居候するんだからそれくらい手伝え」と交代で家の手伝いをさせられるようになったのだ。
「……ルーカス」
「チナミか。こんな所で黄昏ているのか?」
「手伝いは?」
「さっき終わったところだ。もう人間族の集落で売ることが出来ないんだから装飾品なんて作る必要ないと思うんだがな。アイツ曰くもうこれは趣味なんだと」
ルーカスはうんざりしたようにぼやく。居候の身なのであまり強く言えないのである。強く言っても「なら出てけ」と返されるのがオチだし。
チナミは可笑しそうに笑う。
「フフ、あの人って結構芸術肌なのね。この家も細かい装飾が多いし」
「まぁな。よく1人で作ったもんだ。そこは素直に感心するよ」
ルーカスがそう返すと少し間が空いた。どこか落ち着かない感じがする。そんな時、ルーカスが口を開いた。
「お前、何か迷ってるんじゃないのか?」
「え?」
チナミは思わず聞き返した。
「何か悩んでる感じだったからな」
ルーカスがそう言うと、チナミは思わず苦笑した。彼はいつもぶっきらぼうで空気の読めない所があるけど偶に鋭いんだよなぁ……と。
「そうね……よく分からないけどホームシックって奴かしら。もう何も未練のない世界だと思ってたけど離れてみたらやっぱり少しだけ寂しいと思ってね」
「……………後悔してるのか?」
「まさか。あなた達と一緒に次元の裂け目を通ったのは間違いじゃないとは思ってる。でも、感情面で言えば別だってことよ。あんな所でも故郷には違いないから」
「前言っていた『新しい目的』とやらは見つかったのか?」
「ううん、全然。それも悩んでいる理由かしらね? アタシはキョウヤを倒すためにボルテージランナーを打ち込んで力を得た。でも、そのキョウヤが死んだ今、この力をこれからどうするか決めかねてるのよ」
「そんなのポイニクスを殺すために使えば良いだろ」
「ハァ、アタシはあなたのようにポイニクスを憎んでるわけじゃないし、それにポイニクスを殺したら辰姫の故郷に帰る手段が無くなっちゃうじゃない。そう簡単に割り切れないわよ」
「……ふむ」
「第一、辰姫はアタシにとっての大事な友達よ。その友達の目的を邪魔するような真似はしたくないわ」
「なら自分の力をタツキの助けになるように使うってならどうだ? 誰かのために力になるってのもこれも立派な目的になるんじゃないか?」
ルーカスがそう言うと、チナミが目を見開いて心底意外そうな目でルーカスを見る。
「……意外ね。あなたがそういうことを言うなんて。他人のことなんて一切考慮しないと思ってたけど」
「もちろん自分の目的を果たすことが最優先だ。だが、そういう『誰かのためにやる』っていう生き方もあることは俺も知ってるさ。ただ他人がやる分には構わないが、自分がそうやるのはまっぴら御免ってだけだ。それに、タツキはまだまだ甘い。練習して多少剣の腕は付いてきたが、精神面においては未成熟で心配な所も多い。アイツのサポートをしてくれる奴は必要だからな。お前なら適任ではあるし、俺の足を引っ張ることもなさそうだ」
「それをあなたがやるつもりは無いの?」
「無いね。『自分の身は自分自身で守らないと意味がない』ってのが俺の価値観であり教訓だ。誰かを守り、守られる関係なんてのは俺は勘弁だな」
そう言ってルーカスは去ろうとするが、チナミが呼び止めた。
「それなら、あなたは辰姫のことをどう思ってるの?」
「唯の旅の同行者って所だな。アイツも同じことを聞かれたら多分そう答えると思うぞ」
そう言ってルーカスはそのまま自分の部屋に行った。1人残ったチナミはルーカスの言葉を思い出してポツリと呟いた。
「やっぱり、彼のことは好きになれそうにないな……」




