セールの隠れ家
「ルーカス、今のって………」
「ああ、大方さっきのオムニスの兵士どもだろう。セールと一緒に俺達までまとめて殺るつもりだったんだろう、あの長老の指示かなんかでな」
ルーカス達はシルマーの結界で矢の雨を防ぎながら移動していた。ひとまずのところ、セールの住処に一時的に滞在することになったのだ。彼の案内でそこへ向かう。
「君らのことは完全とは言わないけど一時的に信じてやるよ。一応僕を助けてくれたしね」
セールが渋々といった感じで言った。
彼の案内でルーカス達は巨大な大樹に着いた。周りにある木々よりも1回りも2回りも大きく、存在感が凄い。その大樹の周囲は何か霧のようなモヤがあってよく見えない。
「ここが僕の隠れ家だよ」
「これが………?」
「大きい……」
「あなた、こんな目立つ場所で暮らしているの……?」
「いや、まさか。流石に大樹に穴を開けたりはしないさ。付いてきなよ。もう矢も来てないし」
そう言ってセールの身体は徐々に変化していく。金色の立派な角を除いた部分は変化して人間と殆ど同じ形だった身体は大きな牡鹿の姿へと変わっていく。褐色の肌は髪と同じ青色の毛並みに変わり、眼は紅く染まる。鹿といっても辰姫達の知っている鹿とは少し違うものだった。しかし、どこか神秘的な姿である。
そして、角が黄金に光り輝くと、霧は晴れて大樹の周囲が徐々に見通せるようになった。そこにはーーー
広い庭園のようなものが広がっていた。それはかつて辰姫が通っていた学校の体育館くらいの広さで適度に光が届いているため森の中特有の薄暗さはない、美しい庭園だった。更にその奥に白い建物がある。オムニスの住居と同じような造りのようだが、大理石のような白色はどこか気品がある。
セールは再び角を光らせて辺りに霧を作り出して隠れ家が見つからないようにした。これで外部の者からは隠れ家が見えない。一方でルーカス達は既に隠れ家にいるため、霧は見えていない。そのため、セールに言われるまでは彼が一体何をしているのか分からなかった。
セールは元の人の姿に変わると、ドヤ顔混じりに言った。
「これが僕の隠れ家だ。なかなか良いでしょ?」
辰姫とチナミの2人は素直に頷いた。ルーカスはセールのドヤ顔に少しイラッときたが、認めざるを得なかった。オムニスの兵達に攻撃を受けて、もうオムニスに滞在することが絶望的な以上、オムニスよりは安全と思えるセールの隠れ家にしばらくいる方がずっと良いからだ。
正直なところ、ルーカスはあまりこう芸術的なものというのはあまり好んではいない。そういったものには無駄が多く、効率面に欠けたものが多いからだ。なので、彼は基本的に機能性を重視しているところがある。
……とはいえ、自分達は居候の立場のようなものでそんなことを言うのは随分と筋違いであるし、そもそも面倒ごとを起こすだけなのでその本音は胸の奥に押し込んだ。