VSセール
「良いねぇ。そういう気概がなくちゃ。ほんじゃあ……食らいな」
そう言うとセールの角が金色に輝いた。すると、彼の周囲にあったいくつもの植物達が突如うねりだして肥大化して鞭のような形状になり、まるで意思を持ったかのようにルーカスに攻撃を仕掛けてきた。マージンでのグリーンベルの能力を彷彿とさせる技だった。
ルーカスは瞬時に背中に背負っていたシルマーを構えて防御をとった。上下左右から来る植物の鞭を正確に確実に防いだ。その都度不快な喘ぎ声が聞こえたが、なんとかスルーする。
それを見ていたセールはヒュウと口笛を軽く鳴らして青い髪から1つのゴルフボール程の大きさの薄紫色の物体を取り出した。何かの植物の種子のようだ。それを右手で強く握り潰すと、種を潰した拳を中心に太めの蔓が現れてセールの腕をどんどん覆い尽くしていく。褐色だった肌は蔓の薄紫色に変わっていった。だが、セールは特に気にした様子もなく、蔓に覆われた右腕をおもむろに上げた。
その瞬間ーーーー
バチィィィ!!
青白いスパークが走った。
「そんなバレバレの奇襲に引っかかるわけないっしょ」
セールの言葉にチナミは悔しそうに顔を顰めて歯噛みする。そのスパークはチナミの左脚からのものだった。ルーカスが攻撃を始めたそのすぐ後にチナミはすぐにボルテージランナーによる高速移動で木の影を利用してセールの背後まで移動し、奇襲を仕掛けたのだが、セールには全く通用していなかったのだ。また、この種子についてだが、強い衝撃を受けると瞬時に蔓が爆発的に成長し、種子のすぐ近くにある物に強く巻き付き覆い尽くすという特徴があるものだ。そして、その蔓は極めて防御力に秀でており、強い衝撃や火による高温にも耐え切ることが可能なのだ。だからこそ、その特徴を知るセールはそれを防御に使っている。
チナミは歯噛みしつつもすぐに右脚も電気を纏わせて使うが、セールの右腕の蔓を若干焦げさせる程度で殆ど効果が無い。セールが反撃に右腕を大きく振り上げた瞬間ーーーー
バシュッ!
氷で出来た矢が右腕の蔓に刺さったのだ。貫通は出来なかったので蔓にダメージが入っただけだったが。それでも、蔓は矢の冷気に当てられたのか徐々に腐り始めてボロボロになっていく。元々、この世界自体が温暖な気候をしているのでそこで生育する植物に寒さの耐性が無いのだ。セールもこの冷たい感覚が不気味に感じた。川の水を浴びたりして涼んだりはすることはあるが、これ程の冷たさには馴染みがないからだ。
セールがその矢が飛んできた方向へ振り向くと、そこには辰姫がいた。さっきまで辰姫もルーカス同様、襲ってきた植物の鞭と格闘していたのだが、そんな矢先にチナミのピンチが見えたのですぐに近くに落ちていた小枝を基に凍らせて矢を作り出し、それを即席で作った弓で放ったのだ。即興とは言え、矢が飛びやすい形状になっていたのと元々の辰姫自身のセンスによるものか、矢はよく飛んだ。
それによって、セールは一瞬とは言え注意が逸れてしまった。そして、注意を戻した時にはやっとのことで鞭を防ぎ終えたルーカスと辰姫がすぐにセールまで迫り、チナミもセールに電気を纏った蹴りを食らわせようとしていた。
その時…………あちこちの方向から突然無数の矢の雨が降り注いだ。
ルーカスは咄嗟にシルマーの結界を最大限にして辰姫、チナミ、そしてセールを守った。
「チッ、あの爺さん。随分とふざけた真似を……」
ルーカスはそう毒付いた。その言葉で誰の差し金か見当がついたチナミと辰姫も顔を顰めた。