セール様登場!
ルーカス、辰姫、チナミの3人はそのセールという男を探すために再び森を散策する羽目になった。ルーカスは一応ということで背中にシルマーを背負っている。だが、今のところ3人の仲は少しギスギスしていた。
「ルーカス、正気? 態々殺しの依頼を引き受けるなんて!」
辰姫がルーカスに憤りを見せた。辰姫はルーカスが暴力を振るったり人殺しをする所は今までにも見ていた。だが、それはあくまでも自分の身を敵の攻撃から守るためにやったことだ。それについて理解はしているつもりではあるし、無抵抗主義になれと言う気は毛頭ない。だが、平和な日本で育ってきた辰姫にとっては物凄く衝撃的なことだったし決して慣れたわけでも受け入れたわけでもない。
だが、今回は自分から敵かどうかも分からない者を殺しに行くのだ。流石に躊躇いもあるし、自分達まで巻き込んでそれを迷いなく実行しようとするルーカスに辰姫は腹が立ったし恨めしかった。しかし、一方でチナミの方は辰姫よりは少し冷静だった。
「でも、ルーカス。実際、あのお爺さんのことを本気で信用してるの? あのお爺さんの言っていたことが全部本当だと?」
「んなわけないだろ。あんな食わせ者の爺さんを信用する程俺はお人好しじゃねえよ」
「信用してない? じゃあ何で了承したの?」
辰姫が思わず尋ねた。
「頑強な門で囲われた集落、警告と称して放ったあの矢、住人達の反応…………あんな閉鎖的な場所じゃ余所者はまず歓迎されないだろうとは踏んでいた。現に集落の長老であるあの爺さんでさえ余所者を排除するか利用することしか考えていなかったしな。上があんなんじゃ下なんてお察しだ。そもそも俺はその混じりものとやらがどんななのか興味があったまでだ」
「興味? でもそのセールって人は凄く強くて集落の者じゃ太刀打ち出来なかったって。それを考えると確かに集落にとっては危険な存在なんじゃ………?」
「ハッ、あいつらは返り討ちにあっただけだろ。あんな頑丈な門があって、しかも集落には破壊されたような跡が一切無かったんだぞ。新しく再建されたわけでもなく、何年もずっと変わってないようだったし。そいつは集落を襲ったわけじゃない。大方討伐に向かって返り討ちにされてきたんだ」
「………なるほどね。でも、その人って大丈夫かしら?」
「良い奴かどうかってことか? さぁな。どっちでも良いさ。敵だったら容赦はしない」
チナミの問いにルーカスは不敵な笑みを浮かべる。そして、不意に上を見上げた。
そんな時、木の上の方から聞いたことのない男の声が聞こえてきた。
「へぇ、この僕を本気で倒せると思ってるのかい?」
その声と共に1人の20歳くらいの男性が木の上から飛び降りて来た。スタッと軽やかに地面を踏みつけるとルーカス達を睥睨した。
男性はサファイアのような鮮やかな青い長髪をしており、褐色の肌、耳は少し尖っている。長い青い髪は黒い蝶の髪飾りで結んで留めている。瞳の色は髪と同様に青色で、服装はオムニスの兵士達のような簡素な木製の鎧みたいなものを着ている。そして、何よりも特徴的なのは髪の上から自然な感じで金色の鹿の角のようなものが生えていたことだ。角は大きくいくつも枝分かれしていて立派な感じだ。
どうやら、この男性が依頼にあったセールのようだ。ニヤニヤと笑い、随分と軽薄そうな人物に見える。
セールは少し楽しそうにカラカラと笑った。自分を殺しに来た者達を前だというのに随分と余裕だった。
「ふーん……… この間は20人くらい差し向けて来たけど今度はたった3人か。少ないねぇ。しっかし、あの爺さんも随分と必死だねぇ。そんなに混じりものが自分の血族だとバレたくないんだな。………まぁ、いいや。殺しに来た以上、このセール様に勝てるとはーーーーーーーー」
軽い感じで語っていたセールが口にした最後の言葉だけ、
「ーーーー思わないでよ?」
直後、軽薄な雰囲気を一変させて凄まじい殺意を溢れ出した。周囲が歪むような禍々しいプレッシャーに少し怖気付く辰姫やチナミを尻目にルーカスは不敵に笑った。
「上等だ」
そう言って、ルーカスは地面を蹴った。