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魔盾シルマー

ルーカスの新たな武器の登場です。フェネクス同様喋れます。

ルーカスが取り出したのは1枚の大きな古ぼけた盾だった。濃い緑色の下地に黄色と青のラインがいくつか入っている。ルーカスの腰から何か舌打ちのような音が聞こえた………ような気がする。


「これは………盾かしら?」

「ルーカスってそういう防御の道具まで持ってるの?」

「………ああ、コイツは魔盾(まじゅん)シルマーと言ってな。強力な結界を作り出す能力を持ってる。どこから矢が飛んでくるか分からないんじゃな。コイツを使うしかないだろ。……………仕方ないが」

そう言うルーカスの表情はどこか嫌そうなものだった。


「でも、これってどう使うの?」

辰姫がもっともな質問をすると、何処からか声が聞こえて来た。若い女の声だった。


《それはあーしが説明させてもらうよ。このシルマーがさ》

「え? この盾って喋れるの!? フェネさんみたいに!?」

「何を当たり前のことを言ってるんだ? 魔のつくものは大概自分の意思を持ってるもんだ」

ルーカスが呆れながらそう言うと、チナミはその言葉に苦笑いを浮かべながら反論した。


「当たり前……じゃないわよ。そもそもそんな武器や道具なんてそうそうお目にかかれないし、アタシだってそんなものは精々物語の産物か何かだと思ってたわよ」

《失礼ねぇ、あーしはどんなものからだって守ることが出来るんだから。あーしの後ろにいれば絶対安心なんだもんね》

「でも、フェネさんみたいに何か代償とかは……?」

《んーーー、特にないね。あーしをあの無愛想な剣と一緒にしないで欲しいっての。てかさ、ルーカスってば酷くない? あーしみたいな良心的な魔盾ってなかなかいないのにさ、全然使ってくれないんだよ。酷くない? 酷くない?》


辰姫がやけにハイテンションなシルマーに対して若干ウザいなという感情を持ちつつも、確かにどうしてルーカスはシルマーをずっと袋に入れて使っていなかったのか、少し疑問に感じた。特に大きなリスクはないようだし、若干ウザいけどそれを差し引いても問題はないと思うんだけど。


その時、今までずっとダンマリだったフェネクスがシルマーの喧しさに我慢出来ず、遂に話に入ってきた。


《相変わらず口喧しい考え無しの盾だな。魔がつく武器たるもの軽々しく口を開くものではないのは知っているだろう。我らの品格が落ちる》

《はあぁぁーー? 関係ないっしょ。てかアンタ、まだいたの? もうとっくに捨てられたかと思ってたんだけど、マジ最悪。さっさと消えなよ、今消えなよ、すぐ消えろよ。ほら早くさぁ》

《……黙れよ元売れ残りが》

《んだごらぁ!! あーしのことを売れ残りとか言ってんじゃねえぞ、ごらぁ! やんのか、ああん!?》


しばらくの間、魔剣と魔盾が口汚くお互いを罵り合っていると、ルーカスが心底うんざりしたように辰姫とチナミに話しかけた。


「これが俺が基本的にシルマーを使わない理由その1だ。テンションがウザったい上にフェネクスとは絶望的に仲が悪い。そんな状況で両方使い続けていればフェネクスとは違う意味で死にかねないからな」

「……………なるほど。……そういえば、フェネさんが言ってる『元売れ残り』ってどういうことなの?」

辰姫がそれとなく尋ねると、ルーカスが答えるより先にシルマーがそれに過敏に反応した。


《だからあーしのことをを売れ残りって言うなあぁぁぁぁぁっ!!》


ーーーーーーーーーー

ルーカス曰くシルマーはとある武器商人の元で長年売れ残っていたらしく、そこで偶然、ルーカスがめちゃめちゃ安値で購入したとのことだ。非常にお喋りでこのテンションなために武器商人の方もシルマーに辟易としておりさっさと手放したかったらしく、安く買い叩かれたにも関わらず喜ばれたそうだ。そして、どうやらシルマーは長年売れ残っていたためにそのことに対してかなり強いコンプレックスを持っているようである。なので「売れ残り」と言うと激昂してしまうのだ。


なんとかシルマーを落ち着かせて彼女から自身の能力を教わった。先程のルーカスの言葉通り、シルマーは結界を作り出すことが可能だ。シルマーの周囲数メートル程度まで結界を張って身を守ることが出来る。結界の強度は非常に高く、大砲の砲撃でも傷1つ付かない程だ。その代わりに結界はシルマーの一部なので強力な攻撃を防いで結界を消耗させた後はしばらく時間を置いて回復させる必要があるらしいのだ。


そして、ルーカス達はシルマーを先頭にして奥に進む。途中で勢いよく貫こうとせんばかりに無数の矢が何処からか放たれる。だが、結界によって1本残らず弾かれ、結界の効力によるものなのか燃え尽きて消滅していく。そのため、3人は無傷で矢の雨を進んでいる。しかし、辰姫とチナミは大きなダメージを負っていた。なぜなら………………




《ああん! あ、そこ! ぐうぅぅん! き、気持ちひいぃぃぃん! んんんん! しゅごいぃぃぃぃ!!》

結界に矢が当たる度にシルマーから物凄く気持ちの悪い喘ぎ声が聞こえてくる。聞きたくもないのに耳に入ってくるのだ。身体に傷は1つもないが、何か心にダメージが来るのである。もう既に2人の目からはハイライトが消えかかっている。


そんな2人にルーカスは心底穢らわしいものを見つけたような表情で話しかけた。


「これがシルマーを使わない理由その2だ。優秀な防御力を持ってはいるんだが、なぜかコイツは凄いドMでな。攻撃を防ぐ度にああやって喘ぐんだよ。だから使いたくないんだ。………出来るだけ」

「ええ…………なんか……凄く分かるわ、その気持ち」

「うん……シルマーに顔とか付いてなくて良かったって心底思う。顔とか付いてたら間違いなくいろんな所から規制がかかりそうな表情をしてそうだよ。声でこれだもん」

そして、3人はシルマーの結界で身を守りながら先を進んだ。聞きたくもない喘ぎ声を浴びながら。

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