森の中
ルーカス達が来た世界はどんなものなのか………………
まぁ、前章と違って今度は自然溢れる世界ではありますね。
「ここが異世界………? うわっ、アタシ地面なんて初めて踏んだわ。本当にマージンとは別物なのね」
「ねぇ、ルーカス。今度はどんな世界なのかな? 少なくともマージンのような感じじゃないっぽいけど。あまり人の手も入っていないみたいだし」
「………どうだろうな。そもそも異世界で話の分かる奴が必ずいるとは限らないからな。探索していくしかないだろう」
チナミ、辰姫、ルーカスが次元の裂け目を通り抜けた先は深い森の中だった。辰姫が初めて次元の裂け目を通った時の森と違ってイルミネーションのように光ることのない唯の森だ。初めて異世界を渡ったチナミは物珍しそうにあちこちをキョロキョロと見回している。人工物ばかりのマージンと違ってこういう場所は新鮮なのだろう。マージンにもバイオガーデンという植物園があったが、人口のチップが土の代わりに敷き詰められていたため天然の地面に触れる機会がないし、もう目に映るもの全てが珍しいようだ。
しばらく経ってひとまずは森から出るために探索を開始することにした。何が襲い掛かってくるのか分からない森の中にずっと居続けるのは得策とは言えないからだ。
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この世界に来てからかれこれ2日程彷徨っているのだが、全く出口が見つからない。行けども行けども周りには同じような形の木しかないのだ。そして3日目になってしばらく探索してルーカス達は近くの木に腰掛けてこの世界に来てから何度目かの休憩を取った。
「………何でこの森には出口が無いの……………?」
辰姫が少し遠い目をして呟いた。ルーカスもチナミも何も言わないが内心では同じ気持ちのようだ。一応簡易テントや約1ヶ月分の非常食もあるので当分は彷徨っていても問題ないと言えばないのだが……こうも同じ景色がずっと目の前で続いていると流石に精神的に病みそうになってくるのだ。
最初、ルーカス達は以前チナミがバドを相手にやっていたようにチナミの脚力で木の枝を足場にして跳び上がって、上空からどうなっているのか確認を取ってもらおうとしたのだが失敗した。ちなみに、このやり方を取ったのは純粋な脚力だけでは地面がマージンの床と違って柔らかいために踏ん張りが効かないので地面から跳んでもあまり高く跳ばないのとここの森にある木1本1本が異様に高く、そのせいでただ脚力で跳ぶだけでは届かないからだ。だが、バドの時に足場に使った像と木の枝では強度が決定的に違うため飛び乗った途端に枝はボキッといってしまい、チナミは木登りに失敗した猿のように落下してしまった。まぁ、受け身はちゃんと取れるので怪我は殆どないが。
ルーカスは袋の中から磁石を出して方向を決めようとしたが、磁石は頼りなく針がクルクル回るだけ方角が定まらないし、この辺りには切株なんかもない。なのでこうして、地道に歩いて出口を探していたのである。休憩を終えて仕方なく、再び終わりが見えそうにない探索を再開しようと重い腰を上げたその時………………
ヒュッ!! ドス! ドス! ドス! ドス!
ほんの一瞬の殺意と同時に何処からか複数の矢が飛んできて木に突き刺さった。
いきなりの攻撃に辰姫は驚き、動揺が隠せない。チナミはすぐに脚に電気を纏い、警戒レベルを最大に引き上げた。一方でルーカスは木に突き刺さっている矢を慎重に引き抜き、それをペン回しのように一回転させて矢じり部分をじっくり眺めるとふむと小さく頷いた。
矢が飛んできたということは扱える者がいるということだ。それは獣ではない。しかも、この矢は突き刺さりやすいが逆に引き抜きにくい構造になっている。下手に抜こうとすればボキリと折れてもう抜けなくなってしまうだろう。どうやら、そういった武器を作れるくらいの知能レベルはあるようだ、ここの世界の者は。おまけに巧妙に気配まで遮断してのやり方まで取ってきていてかなり厄介だ。全部の矢を当ててないということは今のはあくまで警告という意を込めての攻撃だったんだろうな。 ………それならどこから矢が飛んで来るか分からない以上はアイツを使う他ないか。
ルーカスは瞬時にそう考えると、袋から1枚の大きな盾を取り出した。若干嫌そうな顔をしながら。