アーミーアンツ開発記録〜一部抜粋①〜
………………………………………□○日、午後1時。報告者、トロイ・ランドルフ。
グリーンベルの開発に成功した今、また新たに別のオベロンを製作していく必要がある。ナタリー・サーヴァントのような低脳では精々5種類が限界だったようだが、我々は違う。それの倍以上の種類のオベロンを生み出せるはずだ。オベロンの基本構造はもう分かっているんだ。それなら後はもっと……もっと多くのオベロンを作っていける。
だが、問題は次のオベロンはどんな能力にするかというものだ。グリーンベルの場合は偶然バイオガーデンで発見された特殊な植物のDNAから作った。他に何か良いのがあるかもしれん。こればかりは地道に探すしかないだろう。
それから、今後の我が社のオベロンの投与方法についてだが、グリーンベルを含めて全身投与が基本のものであるオベロンを大量生産していくことにする。あの女は全身投与に反対していたようだが、これが1番効果が大きいんだ。強い副作用? 知ったことか。大きな力を得ることに多少のリスクは付きものなんだよ。
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………………………………………☆☆日、午後6時21分。報告者、エドガー・アンティノス。
この間、上司であるランドルフが我々にまた無茶なオベロンの企画を出してきやがった。クソッ! 植物の次はアリンコかよ。勘弁してくれっての。またしばらくここでカンヅメになるのかよ。
このオベロンは「アーミーアンツ」つって、全身を構成している全ての体細胞を一時的に生物のように動き回るように変化させることで身体をバラバラに分離したりまた合体して再生することも可能にするオベロンだ。って、また随分と難しいもんを………… そりゃ理論上は可能かもしれねえけど実際無理に決まってんだろ。頭湧いてんじゃねえのか。
まぁ、上の命令には従わざるを得ないけどよ………………
………それで、被験者はどうするんだ? グリーンベルと違って今度は難易度が桁違いなんだぞ。命の保証もねえ。臨床実験で死亡者が出たら大問題だぞ。
何? その心配はいらない? 一体それはどういう………………………………………
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………………………………………○○日、午後1時11分。報告者、ニーナ・コーラン。
………今日はアーミーアンツ開発プロジェクトのための被験者20名をここに連れて来ることになったわ。既に理論上の試作品は完成したし被験者が必要なのも分かるけど、どうしてその相手が全員子供……しかも親がいない孤児なの? ランドルフさんの話だと失敗してもいくらでも融通が効くかららしいけどいくら何でもこれは………… アンティノスや他の連中は納得しているみたいだけど本当に良いのかしら?
しばらくは施設の何室か来客用の部屋で子供達を1週間ほど泊めることになった。精神状態をしっかりと落ち着けた状態でやった方が成功率が上がるからね。私の意見が通って良かったわ。アンティノスは不快そうにしていたけど。
そういえば、子供達の1人にケティって子が転んで怪我をしちゃったから薬を塗ってあげたけどあの子……嬉しそうにお礼を言ってたわ。……………ああ、駄目よ、私。下手な情を持っちゃ。
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………………………………………○△日、午後4時20分。報告者、エドガー・アンティノス。
今日からやっと実験を行うことが出来る。コーランの馬鹿が変な情を持っちまったせいで1週間もロスする羽目になった。まぁ、良い。実験開始だ。
今回は3人同時に行われる。理論上で言えば成功するはずだ。子供で試して成功するということは大人にも成功する可能性がほぼ100%になるからな。
………………………実験報告。ロット001〜003の実験は全て失敗に終わった。
001は被験者の身体の体細胞がおよそ半数しか変化せず分離しても戻らず、被験者は死亡した。遺伝子の配列に問題があるようだ。
002は頭部・腹部・右足部分とまばらに変化、003は全身が変化したが、変化した細胞は分離した途端に全て死に絶えてしまった。大人と子供では細胞の個数も異なったりしているからな。今後はそれも考慮していかないといけない。簡単に行かないのは承知していたが、実に難儀なもんだ。