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赤紫の魔剣使い〜少女は異世界を渡り歩く〜  作者: 藪地朝陽
第2章 天空都市のインクの王
48/106

前を向いて

これで第2章完結です。

チナミはへたり込んだまま、ピクリとも動くことはなかった。無理もない。5年も掛けてやっとのことでキョウヤに対する復讐を果たしたことで目標は完全に達成されたのだ。これからどうするのか、何をすれば良いのか、チナミは全く分からなかったからだ。辰姫もそんな彼女を心配そうに眺めているが、どう言葉をかけるべきか分からなかった。


だが、ルーカスはそんなチナミを尻目に床に転がっているレーザーソードを回収してスイッチを切って袋にしまうと、辰姫に言った。何気ない調子で。


「まぁ、時間は掛かったが、また次元の裂け目が現れたんだ。タツキ、穴が消えないうちにさっさと通って次の世界に行くぞ」

「え? チナミちゃんはどうなるの? このままだといずれは………… ねえ、一緒に…………………」

自分のことよりもチナミのこれからを心配をする辰姫にルーカスは大きく溜息を吐くと、睨みつけて黙らせる。


確かにキョウヤを倒した今、マージンを支配する者はいなくなったし、無事彼女の復讐も果たした。だが、レジスタンスのメンバー、彼女の仲間はルーカスと辰姫を除いて全滅してしまった。ここ、マージンにはもう人はチナミ達以外誰もいない状況だ。この世界にはマージンの他にも天空都市はあるらしいのだが、マージンは完全隔離状態となっており、他の都市からの助けは絶望的……………いや無いと言っても良いだろう。おまけに別の都市に向かうための移動手段も既に機能していないので街から出ることも出来ない。仮に出られたとしても迫害される可能性が高い。つまり、彼女はこれから1人きりで生きていかざるを得ないし、その先は悲惨なものになるだろう。だが、それからのことに正直ルーカスにはこれっぽっちも興味がない。自分には自分の目的があるし、自分の人生ではないのだからチナミの今後など知ったことではなかったからだ。


「あのな、タツキ。俺達の目的はポイニクスを追うことなんだ。レジスタンスに入ってチナミ達に協力したのも奴の情報を集めるためだ。この女が自分の望みを叶えた後にどうなろうと俺の知ったことじゃない、冷たいことを言うようだがな。それはチナミ自身が決めることだ」

「でも…………」

「………………………それならアタシも連れて行ってもらっても良いかしら? その『次の世界』ってやつに」

後ろから声が聞こえてルーカスと辰姫が振り返ると、そこにはいつの間にかチナミが立ち上がって2人をジッと見ていた。さっきのような生気を失ったような目とは違ってハッキリとルーカス達を見ていた。ルーカス達の話を聞いていたようだ。


辰姫とルーカスはチナミに自分達が何者なのかを伝えてそれぞれの旅の目的を話した。次の世界を渡る以上、もう隠している必要などないからだ。チナミは辰姫達の話を黙って聞いていた。自分達が異世界人なんて突飛な話を疑っているわけではなく、一応信じてはくれているようだ。現に次元の裂け目があるからというのもあるだろうが。だが、流石にフェネクスが突然喋り出してルーカス達の会話に割り込んだ時は驚愕の表情を浮かべていた。



「……………なるほどね。2人とも浮世離れしてた格好してたからコスプレか何かかと思ってたけど、まさか別の世界の人………………だったなんて。事実は小説より奇なりってやつかしらね。ハッキリ言って驚いたわ。でも、少し納得した」

「……チナミちゃん、今まで黙っててごめんね。ねぇ、私からも言ってもいい? 私達と一緒に行かないかな? 世界を渡り歩く旅にさ。私もルーカスも世界を超える理由や目的は違う。でも、チナミちゃんも見つけられると思う。これからの人生の目的を」

辰姫はそんなことを言いながらルーカスをチラッチラッと見てくる。辰姫はどうしてもチナミを連れて行きたいようだ。この世界に一緒にいて仲良くなっていたことはルーカスも知っていたが、まさかこんなことになるとは予想外だった………… だが、彼女は強い。実力は確かだから辰姫のように足手纏いにはならないだろうしポイニクスと戦う上では必要だとは思う。戦力が増えると思えば良いか。ルーカスはそう考えることにした。だが、最後に1つ確認をすることにする。世界を渡り歩く旅においては非常に大事な確認だ。


「行くのは良いが、チナミはこの世界にもう未練はないのか? ここを通ればもう帰ってこれないぞ」

だが、ルーカスのその確認にもチナミは迷いなく答えた。



「ええ。この世界にずっといても誰もいないからどの道先はないし、何よりも……………………ここにいたら、色々と辛いことや悲しいことばかりを思い出すから」

その言葉にルーカスは一瞬、何かを思い出したかのように口元をニヤリと歪めると頷いた。これは一緒に行くことに了承したということだ。辰姫は安堵の表情を見せる。ルーカスはチナミに手を差し出した。辰姫もルーカスに続いてチナミに手を差し出す。


「なら、よろしく頼むぞ。チナミ」

「うん、これからもよろしくね。チナミちゃん」

チナミはルーカス、辰姫と握手を交わした。新たに仲間が出来て、辰姫は自分のことのように嬉しそうな表情だった。



ーーーーーーーーーー

そして、いよいよ次元の裂け目を通ることになった。時間が経てば消えてしまうからグズグズなんてしていられない。最初に辰姫が通り、次にチナミが通った。そして、最後はルーカスの番だ。通る直前、腰に下げているフェネクスがルーカスに語りかけてきた。


《おい、ルーカス。あの娘っ子、なかなか面白い素材だな。昔のお前と同じようなことを言うなんてな》

「まぁな。それもあったが………アイツは今まで散々俺をこき使ってくれたんだ。だから今度は俺がアイツを使わせてもらう番だ」

《……………………お前、まさかそれが目的か?》

「ハッ、さてな。まぁ、良い。さっさと通るぞ」

そう言ってルーカスは不敵に笑いながら次元の裂け目を通った。そして、次元の裂け目はルーカスが通ってしばらく経つと跡形もなく消滅した。


不可抗力ではあったもののこの世界では1つの組織に入ることになったが、辰姫が新たな能力を得たことやチナミの加入…………と得られた収穫は大きかった。次の世界ではどのようなことが起こるのか………………………それはルーカスや辰姫、チナミはもちろん誰にも分からない。








ーーーーーーーーーー

〈はぁ……………………結局キョウヤじゃポイニクスは倒せなかったわね。行けるかな?と思ったんだけど…………… 小賢しいことにポイニクスは私たちの予想を軽く超えてくるわね〉

〈まったくだよ。こっちは折角、数年単位で色々準備をしてきたっていうのに……… でもまぁ、仕方がないか。こっちだって他のいくつもの世界にポイニクスを倒すための手札(カード)はいくつか切っているんだ。その内の1つが失敗だったってだけだ。それに…………………………〉

〈………ええ、そうね。まだ赤紫の坊や(・・・・・)もいるしね〉

〈ああ、あれが1番ポイニクスを倒し得る存在だからね。事実何回も追い詰めてる。今回で多少は得られるものがあったみたいだし、これからの成長が楽しみだよ。どんどん強くなっていってもらわないと〉

〈私たちの目的のためにもね。彼は手札(カード)の中でも特に期待出来るわ〉

チナミ加入です。これからしばらく、お休みです。今までの話をより詳しく書き足したり、短めの外伝みたいなのを書いたりはするつもりなのでお楽しみに!!

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