第二形態
「ぐあぁ!」
「ぐぎっ!!」
「ぎゃあぁ!」
何人もキョウヤに挑もうとするが、彼を守る無数の鍵爪によってなかなか近付けない。トドロキのように無残に切り裂かれたり、吹き飛ばされたりして1人、また1人と倒されて命を落としていった。死んだ者達はどれも悔しさと無念さで強く血が滲み出る程歯噛みし、最期まで恨み言を吐きながらキョウヤへこれでもかと憎しみの視線を向けながら目の光を失い虚ろになっていく。最初ロー区画に向かった時には30人程いた者達ももう既に14人に減ってしまっていた。
「呆気ナいねぇ。コノ程度じゃゲーム二もナリャしない。ソロソロ良い頃合イだと思ッてここマで導いテやったってイウのにガッかりダ。早すギたカナ?」
キョウヤは心底ガッカリした様子で言い放った。その声音はまるでゲームでまだキャラクター達が十分なレベルに達していないのに関わらず無謀にも強敵に挑ませて呆気なく負けてしまったかのような感じだった。だが、ゲームと現実では………違う。
チナミ達はどうやって鍵爪を潜り抜けてキョウヤを引きずり出すか模索するが、なかなか良い案が浮かばない。キョウヤの周りだけでなく離れた場所にあるあちこちのインク溜まりから鍵爪が蠢き合っている。下手に動いてしまえば、たちまち鍵爪の餌食だ。
その時、チナミ達に1つの声が聞こえた。アースクエイクの使い手マッケイだ。
「なぁ、ここは俺が突破口を開くから皆はそこから攻撃をしてくれないか? 俺のアースクエイクならしばらくは大丈夫だ。心配ない。持ち堪えられる」
「な!? 正気なの、マッケイ!?」
「ああ、どの道、俺はアイツに一矢報いないと死んでも死に切れないんだよ。アイツに殺された恋人の………カレンのためにもな………」
「マッケイ……………」
チナミや辰姫を始め数人がマッケイを止めようと説得するが、マッケイの意志は固い。やがてマッケイはチナミ達の制止を振り切って両腕を岩石のように硬化させて強く踏み込んで一気にキョウヤの元に飛び込んだ。当然、無数の鍵爪がマッケイに襲い掛かって来るが、マッケイは冷静に鍵爪の動きを予測して攻撃を防ぎ、躱し、叩き落としていく。だが、数が多すぎるために完全には防ぎ切れていない。少しずつ……確実に傷は増えていく。だが、マッケイは止まらずに先へ進んだ。
やっとキョウヤの元へ突破したマッケイはキョウヤに勢いよく両腕から石礫を生成して乱射する。キョウヤは一瞬、マッケイの存在に気付けなかったために手痛く攻撃を食らってしまった。だが、すぐにキョウヤは立て直すと指先からインクの弾丸を無差別に放ち、マッケイの心臓、両脚、腹、額を容赦なく貫いた。
「ぐはぁ!! ぐ……だが…………こ……これ……で……………良いかな………? カレ………ン……………」
マッケイは薄れる意識の中でそう言いながら仰向けに倒れて息絶えた。その顔はどこか安らかだった。一矢報いることが出来たからだけでなく、自分の仲間ならこの後に必ずキョウヤに勝てるという確信のようなものがあったからかもしれない。
「危ナイ危ない。今ノは少し焦リマしたよ。ダケド、死ンだら元も子モナいよ。マッケイ君」
キョウヤはそんなことを言いながらマッケイの亡骸を見下ろす。だが、マッケイが作ったその僅かな時間が他の者達の命運を大きく分けた。
マッケイの後を付いて行ったチナミ、ルーカス、辰姫、デュランがインクの鍵爪達の間から同時に現れて一気にキョウヤを攻撃することが出来たのだ。他の者は鍵爪の相手をしている。
「ナ!? しマ………!?」
ルーカス、辰姫、デュランが両腕両脚を叩っ斬った。そして、身動きが取れなくなったキョウヤにチナミが迫った。
「お前は何度でも地獄に落ちて裁きを受けろ!! キョウヤ!!」
チナミは電撃を纏った蹴りを何度もキョウヤに連続で浴びせて吹き飛ばした。キョウヤは1回転しながら壁に叩きつけられて黒い染みとなった。いつのまにかさっきまで生えていた鍵爪は全て消えていった。鍵爪の相手をしていた者達はホッと一息吐いた。
だが、まだまだ簡単には終わらない。あれだけの攻撃を受けたのにキョウヤはなんでもなかったかのように落ちていた仮面を中心に壁の染みや床のインク溜まりから現れたのだ。しかも、ルーカス達によって斬られたはずの手足は何故か元通りに再生してしまっている。だが、ずっと着けていた白い仮面は流石にチナミ達の攻撃に耐え切れなかったらしく、ボロボロにヒビ割れて落としてしまった。仮面が無くなり、今まで見せたことのなかったキョウヤの素顔が初めて露わになってしまった。それを見たチナミ達は思わず息を呑んだ。
キョウヤの顔は全部黒塗りだった。目も口も鼻も耳も……何もない。だが、キョウヤから変わらず声が聞こえて来る。
「クカカカカカ。ゲームはやはリコウでないトな。ココからワタシも本気で相手ヲシヨう」
そう言うと、何もないはずのキョウヤの顔の中央から突然大きな口がパカァと開き、黄色い歯を剥き出しにして唸り始める。それに伴って顔や両腕を始めとした上半身も変化していく。さっきまで人間と変わらない形だった両手は4本の鋭い爪の生えた指を持つ獣のような手へと変わり、両腕の大きさは元の両腕の倍近い大きさに肥大化していき、やがて手が足の代わりに地面に着いた。上半身は極端に肥大化しあちこちから無数のトゲも生えた。だが、それと引き換えに下半身はみるみるうちに縮小して貧相になっていき、宙に浮いているような状態になっている。
こうして完全に変異したキョウヤは最早化け物そのものと言えるような外見になった。キョウヤは巨大な顔の黄色い歯を剥き出しにしながら咆哮を上げた。
「クカカカカカカッカカカカカカッカカカカカカカカカカカカッカカカカカカッカカカカカカカッカカカカカカカカカカカッカ!!!!」
キョウヤは凄まじいスピードで両腕を使いながら器用に機敏に動き回る。辰姫は目で追おうとするが、なかなか追いつけない。
「嘘でしょ……… インクステインってこんなことまで出来るの…………?」
辰姫が思わず呟く。それほどに厄介だった。
ラスボスにもう1段階変身があるのはお約束…………ですもんね。




