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赤紫の魔剣使い〜少女は異世界を渡り歩く〜  作者: 藪地朝陽
第2章 天空都市のインクの王
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狂気の芸術家

コーエンのアトリエに入ると、そこからコーエンと対峙するまでに更に2匹の化け物と戦う羽目になった。ゲームとかで言えば所謂中ボスというやつなんだろうけど、さっきのバド同様に滅茶苦茶厄介な敵だった。


まずはアトリエに入ってすぐにドルーという化け物と相手をした。ドルーはチナミ曰くイルカのキャラクターのはずなんだけど目の前にいたのはどう見てもサメか何かだった。目はなく口は裂けて無数の牙が生えている。入口から入った途端、あちこちダダ漏れになっていたインクの塊から現れて襲いかかり、噛み殺そうとしてきた。咄嗟に躱したことでなんとか死者は出なかったが、すぐにインクの塊に飛び込んで消えて背ビレだけを現して泳いで行った。脅威を減らすためにもドルーを追いかけて行き着いた場所が何かの倉庫の部屋だった。そこには可燃性のインクだけでなく炭やタール、何故か花火用の火薬の山が置かれていた。部屋には窓はなく扉が一時的に開けなくなってしまった。完全に閉じ込められた状態になりながら戦った。


しかも火気厳禁な状況なのでオーバーヒートやボルテージランナーは勿論のこと、火花が発生しかねない技も一切使わずに戦わなくてはならない。そのため、サイクロンやアースクエイク、フラッペをメインに使ってなんとか倒した。ドルーは簡単に言えばヒットアンドアウェイでインクから飛び掛かって襲い、すぐにインクに潜って躱すスタンスをとる。しかも、厄介なことにインクに潜っている間は気配を完全に消すためどこから現れるのか分からない。おまけに攻撃が偶然当たってもインクに潜れば回復してしまう始末だ。一方でドルーは目がないはずのに自分達の位置を的確に把握して攻撃してくる。恐らく温度か何かで把握しているのだろう。前のバイオガーデンにいた植物達のように。


正直、一気に焼き払いたい所だが出られない以上そういう訳にはいかない。間違いなく大惨事なことになる。全員それを理解はしているのだが、やはり苛々してくる。そうすると、隙が生まれてドルーの噛み付きにやられてしまう。事実、これで3人は噛み付かれて致命傷を負ったりして果ててしまっている。人体に有害なインクで出来た牙だ。そんなもので噛み付かれたり場合によっては腕や脚を噛みちぎられてしまったらどうなるか。無理に身体を動かそうとする度にインクは傷口から入って身体を蝕んでいき、簡単に死に至らしめていった。


そして、そんな犠牲を払いながらもやっとのことでデュランの放ったカマイタチがドルーを射止めた。後はフラッペで凍らせて砕き、何とか倒すことが出来た。殺傷能力が高い分、バドよりもずっと厄介な存在だった。



アトリエをくまなく捜索して遂に最後の部屋、コーエンがいると思われる部屋に来たのだが、その扉の前にいたのがエレクだった。これもバドやドルー同様にオリジナルとは大きくかけ離れた姿をしていた。チナミに見せてもらった絵ではデフォルメした象の姿のはずが、何故かマンモスの姿で辰姫は驚いた。いや、辰姫だけでなくチナミ達も驚いていたが。


とにかく、エレクはさっきまでの2匹と違って素早く動けないので攻撃は簡単に当てることが出来た。だが、防御力は他の2匹とは桁違いだった。どんな攻撃をしてもビクともしない。それどころか攻撃してきたことにすら気付いていないようだった。他の2匹よりも時間を掛けながら交代で攻撃をしていったが、突如、鼻にあった1つの血走った眼球がギョロリとチナミ達を捉えた。すると、エレクは大きな唸り声を上げて鼻を勢いよく振り上げて攻撃を続けていた2人を殴り飛ばした。咄嗟にガードしていたが、殴られた者達の腕や腹は青を通り越して黒く変色してしまっており、明らかに骨折している。どうやらエレクは防御力だけでなく、攻撃力まで一流だったらしい。しかし、動きは遅く大振りなので他の2匹より躱しやすい。そして、怪我人は何人か出たものの、なんとか……遂に倒すことが出来た。



エレクの残骸がインクに還るのを見届けながらなんとか奥の派手などぎついデザインをした部屋に入ると、そこにはスキンヘッドに肌が真っ白の小柄な体格をした初老の男性が椅子に座っていた。顔つきは今まで見た顔の像によく似ている。


男性……ガイアス・コーエンはチナミ達を見るとパンパンと大袈裟に拍手する。どこか愉快そうで、まるで面白い絵のテーマでも見つけたと言わんばかりの顔だ。


「凄いね、あんな怪物達を倒してここまで来ちゃうなんて。まぁ、それは良いや。どうせ貰い物だし。それより、ボクチンの作品見たでしょ? どうだった? 凄いでしょ?」

「あんな死体を作品なんてどうかしてるわ」

チナミが警戒しながらもハッキリとそう言うと、コーエンはハァーーーと溜息を吐く。


「まったく、これだから人間以下の底辺の奴らは。折角だし、このボクチンが人間かそれ以外かを分ける定理ってもんを教えてあげるよ。人間っていうのは絵でも音楽でも何かしら作品を作れて初めて人間と呼ばれるんだよ。創作の大変さも理解出来ずに何も作らずに唯批判することしか出来ない哀れな奴らは人間とは呼ばない。虫以下の存在でしかないんだよ。虫でも物を作れるからね。虫以下の奴らには生きる価値もない。精々この偉大な芸術家、ガイアス・コーエン様の作品の材料程度の価値しかないんだよ」

コーエンはそう言ってピョンと椅子から降りると奥にあったカーテンを勢いよく引っぺがした。そこには沢山の人型の彫刻やレジンで固められた人型の何かが苦悶を浮かべた様子で展示されていた。これは全部……………………………


「いやー、絶景絶景。皆ボクチンの作品になれて喜んでるよ。見なよ、この満足そうな顔を。刑務所から出てここまで集めるのに5年も掛かっちゃってさ。キミ達もその一員になれるんだ。光栄に思いなよ」

コーエンの左腕からは風を起こし、右腕は岩石のようになっていく。チナミ達は戦闘態勢を取った。

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