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赤紫の魔剣使い〜少女は異世界を渡り歩く〜  作者: 藪地朝陽
第2章 天空都市のインクの王
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ガーベラ・コスグローブ

ガーベラの成れの果てとも言えるハエトリグサもどきはトラバサミのように鋭い牙を持つ葉を使ってチナミ達に襲い掛かる。


通常のハエトリグサは獲物を挟んで閉じ込めるための葉の造りをしているのだが、これは明らかに獲物を骨ごと砕こうとする勢いだ。間違いなくやられれば良くて大怪我、悪くて御陀仏になるだろう。だが、幸いなことにこの葉自体は大きく、動きも大振りなために簡単に躱しやすい。そのため、葉の攻撃による死者はもちろん重傷を負っている者もいない。


だが、本当に厄介なのは葉ではなく、その葉から噴き出る酸性の粘液だ。これも躱すことくらいは訳ないのだが、その粘液から出る臭いは非常にキツイ。おまけに身体の動きも若干鈍ってしまう。恐らくこの粘液は気化すると麻酔薬のように相手を動けなくさせる効果もあるのだろう。なんともエゲツない植物だ。とても自然(・・)によるものではない。


「この子は私が1から作りあげたんだ! この子だけじゃないよ! バイオガーデンにいる植物達は皆私の手で生まれ変わらせてあげたんだ! 何も考えない馬鹿な狂人どもにもう二度と踏みにじられないようにね! キョウヤから渡されたオベロンで植物達を強くしてあげたんだ! それなのに、それなのに、それを、それを、お前らはぁぁぁああ!!」


植物と一体化したガーベラの言葉はもはや支離滅裂で論理は破綻していた。ガーベラは怒り……否、狂気のままに大きな葉を使って攻撃を仕掛けるが、誰にもその攻撃は届かない。


時間が経つに連れて、少しずつ差が出始めてきた。深刻なダメージを負っているのはガーベラの方だった。チナミ達の攻撃のダメージもあるが、それ以上に植物と人間という自然では決して交わることのない物同士が無理矢理交わったことによって身体に大きな支障をきたしていたのだ。時折、血を噴くかのように粘液が茎からゴボッと滲み出て、茎にはビキッと大きな亀裂が入る。しかし、そのことにガーベラ自身はもう痛みを感じていないのか気が付いていない。


自分が今まで愛してグリーンベルを身体に投与してでも助けたかったはずの植物を自分のせいで傷付けているという事実に気が付いていないのだ。いや、もしかしたら、それを認めたくないだけなのかもしれないが。なんとも………哀れなものだった。


ルーカス達も葉の攻撃を食い止めて反撃をしていく。そして、葉は次々と斬られたり焼き消されたりして1枚、また1枚と無くなっていく。


「はぁぁぁ!」

チナミは電磁加速させた蹴りを茎の亀裂が入った部分に当てる。これにより、亀裂は益々大きくなった。ガーベラは唸り声を上げながらも最後に残った葉をチナミにけしかけた。茎は折れかけたが完全には折れておらず、死んでいなかったのだ。だが、その分かりきった動きの最後の悪あがきもチナミには通じず簡単に蹴り落とされて防がれた。そして、チナミは最後にもう一度勢い良く蹴りを入れて茎を完全にへし折った。


その途端にガーベラからこの世のものとは思えない断末魔が上がった。激痛に悶え苦しむ悲鳴、チナミ達やそもそもの元凶であるオベロンによる狂人達への恨み言、自分が愛する植物達に対する守れなかったことへの謝罪…………と様々な言葉がブツブツと途切れがちに聞こえてきた。


「嫌だ、いた……い、なぜわた……しがっ あいつらの、お……前ら……のせいで、ごめん……ね、みんな、守れ……なかった…………………」


やがて、分断されたハエトリグサもどきは一気に歳を取ったかのようにシワシワに枯れていき、ガーベラ・コスグローブは最後まで自分が恨んでいたはずの狂人として死んだ。彼女の発言が正しければ彼女自身が鍵のはずなのでこれで新たなエリアが開拓されたはずだ。難敵をやっとのことで倒したチナミ達はホッと思わずへたり込んだ。そんな中、ルーカスはガーベラの残骸を見ながら、ある意味彼女にとっての手向けの言葉をボソリと呟いた。



「植物ってのは支配なんかしようとせずに遠くからそっと見守るのが1番良いんだよ。お互いにとってな。下手に手元に置こうとするからそんなことになるんだ」

彼女は元は植物をこよなく愛する園長兼植物学者でしたが、オベロンの騒ぎで狂人化した者達によって大事な植物を踏みにじられ焼き払われ、自分も命の危機の状況下で遂に発狂、その際にキョウヤから手渡されたグリーンベルを使って人々を殺してバイオガーデンを支配するようになったという経緯があります。

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