難敵撃破
休息を取り終えてチナミ達は再び動き出すことにした。ボイスダイアログで言っていた通りなら、早くあの声の主を何とかしなければこのバイオガーデンから出ることは恐らく不可能だろう。それなら出来る限り作戦を考えて園長とやらを倒すべきだ。
隠れ家を解除すると見つけ出したかのように一気に植物のツタが無数に襲いかかってきた。だが、そうなることは読めていた。
「オラァ!!」
トドロキが両腕を高熱化させてツタを次々に焼き尽くしていった。それでもツタはどこからか無尽蔵に現れる。その間にチナミ達はあるものを探すことにした。
おそらく、あのツタには火気や温度に反応して攻撃する性質があるのだろう。植物は物が見えないし臭いも感じないはずだ。それなのに、的確にチナミ達を攻撃出来ていたのはその性質故だろう。そして、火気により強く反応するらしく、今ではトドロキ1人に集中的に攻撃を始めている。
さっきまでは突然の奇襲で防御に徹していたために気が付かなかったのだが、あの今まで襲ってきたツタは全て一ヶ所から出て来ていた。そして、やられればすぐにトカゲの尻尾切りの如く切り離していたのだ。休息中での会話の中でそれを思い出し、もしかしたら………となっていたのだが、今の戦いでそれは確信に変わった。間違いなくあの植物には本体の部分がある。そこを叩けば大丈夫なはずだ。なので、トドロキには一旦囮になってもらってチナミ達が本体を探し出して潰す作戦に出たのだ。彼のオーバーヒートならしばらくの間はツタを引き付けられる。
チナミ達は伸びてくるツタを追いながら、先へ進んだ。ツタはトドロキを集中的に狙いながらも時折、チナミ達にも襲いかかる。それらはなんとか退けてなんとか本体を見つけ出した。
本体は大きな球根のような形をした無気味なもので、あちこちからさっきのツタを無数に伸ばしている。どうやら、あのツタはこの植物にとっては神経のようなものでそれで各方面に情報を得ていたようだ。ツタ達があちこちからチナミに襲いかかる。温度だけでなく、足音等の振動で侵入者を感知したのだろう。こちらの方が危険だと判断されたらしい。さっきまでトドロキを襲っていたはずのツタ達も襲いかかってきた。
チナミ達はツタの攻撃を防ぎながら本体に攻撃を入れていく。
「でも、グリーンベルに操られているからとは言え、植物ってここまで知恵が回るものなの?」
さっきとは違って心臓や足首、こめかみなど嫌らしい場所を確実に狙って仕留めようとするツタの動きにチナミが思わず呟く。恐らくツタ同士で相手の情報を共有し合っているようだ。それなら、目の見えない植物が細かい位置まで把握して攻撃出来ているのも説明がつく。だが、そうだとしても、とても唯の植物には思えない。もしかしたらブロットよりも厄介かもしれない。
「さあな。そのグリーンベルとやらの力か、それともこの植物の元々の性質なのか。一体どっちなんだろうな」
ルーカスはレーザーソードで自分に襲いかかるツタを尽く切り裂いていく。辰姫や他の者達もなんとか倒していく。情報共有出来るツタの数は徐々に少なくなっていき、それによってチナミ達の動きが感知されにくくなってきたのか動きも徐々に単調になっていく。そして、やっとのことで本体まで近付いて致命傷を与えることに成功した。
全員、思わず気が緩む。やっと勝てた………と。
だが、戦いにおいて注意するべき時は敵が死ぬ寸前だ。どんな敵でも土壇場の時に1番力を発揮する。もちろん、この植物も例外ではなかった。本体は息絶える寸前、チナミに狙いを定めて最後に残ったツタをチナミに狙って突き刺そうとしたのだ。ルーカスがいち早く気付いて叫んだもののもう遅かった。
「!? チナミ、後ろだ!」
「え? な!?」
迫ってくるツタにチナミは一瞬、死を覚悟した。しかし、その最後のツタは突如現れた人物の1本の腕に防がれて一瞬で焼き消された。チナミはゆっくりとその腕の主を確認すると、
「トドロキ!」
そう、トドロキだった。彼はツタが自分に襲いかからなくなったことに疑問を覚えて急いでツタが伸びていた方に向かっていたのだ。そして、やっと見つけ出したと思った時にチナミ達が本体を倒して油断していてツタの最後の悪あがきに気付いて防いだのだ。
「お前、相変わらず詰めが甘えんだよ」
トドロキはあちこち切り傷や刺し傷で満身創痍だった。チナミはそんな彼に助けてもらって申し訳なさで一杯だった。
「ありがとう、トドロキ。助かったわ」
「……フン」
トドロキは自分の熱で傷を焼いて傷口を塞いだ。荒療治だが、止血にはなる。他の皆も今度こそ緊張が解けたように周りの空気が弛緩した。
そんな中、チナミは死に絶えたツタの本体を眺めながら誰にも聞こえない程度で呟いた。
「ヒルダス、皆…… これで仇を討てたかな?」