落ち込んでいる暇は…………
チナミ達は仲間の1人が地面から岩の壁を作り出して出来た即席の隠れ家にてしばらく休息を取っていた。オベロンの1つ、アースクエイクによるものだ。アースクエイクとは本来、「地震」という意味なのだが、これは打ち込んだ箇所を岩石のように硬化させる能力だ。そして、アースクエイクは地面を操作して地形を変えるという応用も可能である。それを使って隠れ家を作り、一時的に身を潜めていたのだ。
だが、全員、体力的にも精神的にも著しく疲労しており、表情は一様に暗い。深く沈んだ表情で俯く者が殆どだ。追っ手のツタから受けた傷によるものでだけはなく、仲間がやられながら、それでも何も出来ずに逃げたことが大きな理由だ。特にチナミの表情は暗く辛そうにしていて、死んだ仲間のことに関して気を病んでいるのは明確だった。レジスタンスにいる以上、仲間の死は常に起こり得るものなのだが、彼女が入っていた、ましてや指揮をしていた部隊では今まで誰一人死人を出したことがなかったため、今回のことで彼女が受けたダメージは非常に大きかった。どうしても「自分の判断ミスの所為だったのではないか」と自分を責めて憔悴してしまうのだ。
「チナミ、別にあんたの判断ミスって訳じゃないさ。ヒルダス達のことはもう…… あいつらだってレジスタンスの戦闘員なんだから死ぬ覚悟はあったはずだし……」
仲間の1人、この隠れ家を作ったアースクエイクの使い手であるマッケイがチナミに話しかける。彼女の落ち込み具合に見かねていたようで他のメンバー達もマッケイと同意見のようだ。チナミを責める視線は1つもなかった。
「あなた達…………」
「チナミちゃん、急いでこれからの対策を考えよう。今のままじゃ何もならないし」
辰姫も話題転換を図る。辰姫も彼女なりにチナミを元気付けたかったのである。
「ああ、そうだな。いつまでも逃げたり守ったりするのは俺の性に合わねえ。さっさと焼き尽くしてやる」
トドロキも両腕を真っ赤に燃やして牙を剥いて不敵に唸る。彼もさっきまで何も出来ずにいた悔しさから落ち込んでいたのだが、マッケイや辰姫の言葉で少し立ち直ったようだ。
「いつまでも落ち込んでいる暇があるならさっさと行動で示せ。リーダーならそういうもんだろ」
ルーカスもチナミに言った。短く辛辣な言葉ではあるが、ルーカスなりの激励のようだ。
もっとも、ルーカスの場合は「ポイニクスを倒す」という自分の最終目標がある。それまでこの世界やポイニクスに関する情報収集のためにレジスタンスという組織にいるに過ぎない。レジスタンスのメンバーとして行動しているのはあくまでもついでみたいなものだった。正直、こんな気色悪い植物園に長居する理由など微塵もないのでいつまでもリーダーのチナミに落ち込んでもらっていては困るのだ。まぁ一応、ポイニクスが見つかるまではチナミ達の手助けをするつもりではいるので勝手に抜けるつもりはない。この世界にしばらく留まる以上、無用な敵を作るのは得策ではないしこの街にはレジスタンス以外の組織もないから1人だけなのは危険だし面倒だ。
チナミは少しずつだが、なんとか立ち直って自分を取り戻した。まだ完全に……とはいかないが、少なくとも彼女の瞳にはさっきまでの悲痛な様子はなかった。