バイオガーデン
バイオガーデン。ランドルフを倒したことで新たに行けるようになった区画、アルファ区画にあるマージンでも最大規模の植物園だ。現在でも様々な種類の植物が生い茂っているらしい。
チナミ、ルーカス、辰姫、トドロキを含めるメンバー数人はバイオガーデンの探索に向かっていた。今朝、クラウドから通信が来て早速バイオガーデンに向かうことになったのだ。
そして、アルファ区画を抜けて辿り着くと、辰姫はその大きさに圧倒された。昔行った東京ドームより遥かに大きな建物だったからだ。だが、やはり長い間使われていないためか建物の老朽化が激しくあちこちから植物も生えているためどこが入口なのかも分からない有様だった。
「しかし、なかなか酷い状態だな」
ルーカスが道を塞ぐ根のようなものを斬って進む。
「本当にこの施設にキョウヤの部下がいるんですか?」
辰姫も氷で作った剣で斬る。だが、斬っても斬っても際限なく根っこのようなものが現れる。
「その可能性が高いようね。まぁ、何かしらの手掛かりはあるはずよ」
チナミは端末を見ながらそう言う。この端末にはバイオガーデンの地図が入っていて現在地を確認しているのだ。
辰姫は今朝のクラウドからの通信を思い出す。
『君達に指令を任せたい。先日、キョウヤについて色々情報が得られた。その1つがバイオガーデンがあるアルファ区画への開放だ。君達にアルファ区画、バイオガーデンの調査をしてきてもらいたい。既に何人か調査に向かい、一部分のマッピングは行ってもらっている。本来はマッピングを行った者達に全体のマッピングもやってもらうつもりだったのだが、半数近くにまで減って命からがら帰ってくる程の事態があってな。彼らの情報によると、昔とは随分と地形も変わっているらしく、何より奥に化け物がいるらしい。恐らく、それがキョウヤの言っていた鍵とやらだろう。君達程の実力なら恐らく鍵は倒せるだろう。マッピングで得た情報は後で送っておく。......重ね重ね済まないが、頼んだぞ』
そんなことを言いながらブツンと通信が切れた。
そういえば、クラウドさんって普段は何をしているんだろう? チナミは彼は主に分析とか指示を出しているって言ってたけど。彼はあまり姿を見せたりせずに殆ど通信で済ませていて謎が多い。しかし、高い知識力やカリスマ性で他のメンバーを束ねている。ルーカスは最初から他の人間にあまり興味がないみたいだから特に気にしてないみたいだけど実際のところどうなんだろ?
辰姫がそんなことを考えていると突然、ガラガラと大きな音が聞こえてハッと思わず我に返った。
目の前にはさっきよりもずっと広い場所が広がっていた。さっきの音は通路を塞いでいたガレキが崩された音らしい。
広い場所に出たチナミ達はここで暫しの休憩を取ることになった。壁に寄り掛かったり床に座り込んだりと様々だ。
高い気温と湿度によっていつのまにか思っていた以上に体力が奪われていたようだ。なんでも、ここバイオガーデンは熱帯植物が数多く飼育されており、それらに合わせて高温多湿な環境に設定されている。数多くの植物を飼育するためにはピッタリな環境になっているのだ。ハッキリ言って人間がいるにはキツイ。おまけに見たこともない草や根っこが鬱蒼と生えていて、それらが足に絡めついてきて鬱陶しい。
「しかし、ウンザリするな…… この暑さは」
トドロキが顔をしかめながらそんなことを言うと、他の者達も同意する。
「本当に。ここまでキツイとは………」
「実際、砂漠にいるのと同じような環境ですからねー」
高温多湿は人間にとって過酷な環境で、場合によっては砂漠と似たような状態になる。かなり集中力が削られるので注意が必要だ。そんな環境なので辰姫はもちろん、チナミでさえも暑さで少しウンザリした表情を浮かべながら汗を拭っている。
一方、ルーカスは周囲を警戒しながら持参していた水を飲んでいる。仮面越しではあるが、普段と表情や様子は殆ど変わっていない。汗もあまりかいていないようだ。
「それにしても、ルーカスはタフだよね。なんともなさそうだし」
辰姫はそんなルーカスを見て思わずそう言うと、ルーカスは肩を竦めた。
「そんなもん、過酷だろうが安全だろうが関係なく色々な場所に行っていれば嫌でも慣れるぞ。タツキと出会う前だってずっと1人で行動していたしな」
何気ない感じで言っていたが、辰姫はその言葉でなんとなく察した。ルーカスは今まで1人で色々な世界を旅してきたのだ。それこそ、この世界やヘリオスのような世界、それよりも遥かに過酷で辰姫の想像を軽く超えるような世界を。そんな世界をいくつも渡っていたら確かに“慣れる”といった表現が正しいだろう。
チナミは自分の頬をパンと叩いた。ルーカスの話を聞いて詳しくはよく分からないが、自分もルーカスに負けていられないと気合いを入れ直したのだ。
「アタシも負けてられないわね。アタシにはアタシの目的がある。頑張らないと……」
チナミはそう言って水筒の水を飲む。だが、まずは一旦身体を休めないといけない。先走っていても何も良いことはない。チナミ達は少しの間、次に備えて全力で休憩して身体を休め、回復させた。