鍛練
今日から20時投稿していきます。それから投稿周期が週3(月水金)になります。授業の関係で毎日が難しくなってしまったので。
翌日、辰姫はシェルターの中にあるトレーニングルームでフラッペの能力の練習をしていた。ルーカスの方は色々とポイニクスに関する情報収集に出ている。
辰姫の服装は昨日までの簡素な鎧からチナミ達が普段着ているような服装、薄緑色のシャツに濃い青色のジーパンと元の世界にいた時と大して変わらない服装に変わった。今風の見た目の服だが、それでもある程度の防御力を持ち合わせていて、鎧を付けているのと近い効果はあるらしい。未来風の世界は本当に凄い。ルーカスもこれを着れば良かったのになぁ。
なんかルーカスが言うには、いつもと違う服装をすると落ち着かないらしい。何だそれ?と思ったが、自分も似たようなもので腰には昨日の戦いで折れてしまった剣を下げている。折れてしまったのでもう役には立たないのだが、やはり無いとそれはそれでどこか落ち着かないのだ。
このシェルターには緊急時に大勢の人が住めるように多くの部屋がある。トレーニングルームもその一つだ。せっかく得た力を鍛練しておきたいので練習しておこうと思ったわけである。右腕の方もある程度感覚が戻っているし、大丈夫だろう。
辰姫は右腕に力を込める。すると、右腕から冷気が漂い始める。近くにあるスイッチを押すと、人型の大きな的が奥に現れた。辰姫は集中して的を睨む。そして、的に向かって勢い良く冷気を放った。
ビシュッ! パキン! ガシャン!
的は冷気を受けて凍りつくと跡形もなく砕け散った。的の耐久力はあまり大したことはない。あくまで命中率を上げるために使われる物だからだ。辰姫はフーーーッと息を吐きながら右腕を振った。さっきから何十回ほど練習しているが、命中率は未だ4割くらいだ。これではあまり実戦では使えないだろう。フラッペの威力が強すぎるのだ。つい照準がぶれて外れてしまう。
「精が出るわね」
不意に声が聞こえて辰姫が振り返ると、入り口にチナミがいた。
「あ……チナミさん」
「チナミで良いわよ。同年代みたいだしね」
「じゃあ……チナミちゃんで。そういえば、どうしてここに?」
「何って、アタシも鍛練で来たのよ。敵は圧倒的だからね。どんな事態にも備えないといけないから」
「………凄いですね」
「そう?」
チナミは別のスイッチを押すと今度は風船人形のような感じのロボットが現れた。チナミは両脚に電流が流れ出す。すると次の瞬間、目にも止まらぬ素早さでロボットに接近して蹴り飛ばしていった。ロボットも反撃をするが、チナミはロボットの腕が振り下ろされる所をギリギリで躱していく。そして、いくつか蹴り技を連続で繰り出してロボットを吹き飛ばした。吹き飛ばされたロボットは動かなくなり、ポンッと風船が割れたような大きな音をして跡形もなく消えた。
「ボルテージランナーは電気を吸収したり放出するだけじゃなくて打ち込んだ箇所の身体速度を上げることも出来るのよ。だから、アタシは常人よりも素早く動くことが出来るの」
「そういう使い方もあるんだ……」
辰姫は感心した様子で言った。
「オベロンの能力は使う人によって使い方が違う。色々なやり方があるのよ。フラッペだって物を凍らせたりするのが基本だけど別にそのやり方が全てってわけじゃないわ」
「え?」
「あなた独自のやり方で戦ってみたら? あなたが1番手慣れている方法で」
どうやら、チナミはさっきの辰姫の練習を見ていたらしい。そして、フラッペの能力に手こずっていることも見抜いていた。
辰姫はどうしようか考える。チナミはそれを確認すると、また自分の鍛練に励み始めた。チナミはフラッペの能力はないし、そもそもこういうのは自分自身で編み出さなければ意味がないからだ。アドバイスは出来ない。
辰姫はひとまず右腕に力を込めて冷気を出す。だが、今度はその冷気を発射せずに氷で何かを作り出す。作り出された氷の形状は………一振りの剣だった。いつも使っていた剣と殆ど同じ長さだ。辰姫の戦い方はやっぱりルーカスから教わった剣しかない。今から誰かに新しい戦い方を学んだところで間に合わないし身に付くとも思えない。それなら、氷で剣を作って戦うやり方はどうだろうと考えたのだ。
辰姫は氷の剣を使って試しに近くにぶら下がってあったサンドバッグを斬りつける。……が、衝撃に耐えきれずに氷の剣はパリンと砕け散ってしまった。氷の剣の耐久力はかなり低い。というよりも、0から物を氷で作り出すこと自体が難しいようだ。イメージも不完全なので、簡単な道具程度ならともかく武器では受ける衝撃に耐え切れないのだ。
それなら、どうすれば良いのか。
そう思いながら溜息を吐くと、ふと腰の剣(といっても剣身は真っ二つに折れているが)に目が行った。辰姫は柄を握って鞘から引き抜く。
「軽い」
辰姫は思わずそう呟いた。見事に剣身部分は折れて無くなっていたため大分軽くなっていた。その事実に少し切なさのようなものを感じながらも辰姫は気を取り直して力を込めて冷気を発生させる。徐々に折れた箇所から新しく氷の剣身が出来始めて、少し経つと元の剣と同じ形状になった。試しにそれで試し切りをしてみると、今度はちゃんと斬ることが出来た。氷も簡単には砕けない。といっても、数回斬りつければ砕けてしまうが。それでも大きな進歩だ。
辰姫は思わず顔に笑みを浮かべた。自分自身の戦い方をやっと見出すことが出来たからだ。チナミもそんな辰姫の様子を横目で見て微笑んだ。
その後、辰姫はトレーニングルームでしばらく鍛練を重ねて少しずつ、着実にコツを掴んでいった。鍛錬を重ねると不思議と氷の強度も上がっているようだ。それなら尚更使えそうだ。
そして、トレーニングを済ませると、辰姫はチナミと一緒にシェルターにあるシャワールームで電子シャワーを浴びた。
電子シャワーというのは特殊な電子を身体に当てると、身体の汚れだけでなく疲れまで落とすことが可能らしい。天空都市マージンでは水は主に飲水用に使われるのでシャワーや洗濯ではこれが一般的なものらしい。少し妙な感覚だったが、普通の水のシャワーみたいで気持ちいい。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。
チナミはトレーニングを終えた後はいつもその電子シャワーを浴びるらしい。そんなことを楽しそうに話すチナミはいつもの冷静な大人っぽい女性ではなく、自分達と同年代の女の子って感じで辰姫は久しぶりに女友達が出来た気分だった。それから2人はしばらく談笑して束の間の休息を楽しんだ。
辰姫の戦法が確定してきました。




